裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

3

銃刀剣類所持等取締法違反

あの日に戻りたい(結び編)

こうして公判は、どこか釈然としないものを残したまま
裁判長からの被告人質問を迎える。

+ + +

「郵便物のトラブルですが、郵便受けはどういう感じなのですか」
「隙間に入れてもらうように言っていまして、
そこは外部の人が入ってこないようになっています」
「お兄さんと一緒のポストを使っているのですか」
「兄と自分のものは一緒になっています」
「形状がよく分からないのですが」
「隙間にまとめて兄のものと自分のものが一緒に入っていて、
それをまとめて兄が持って行くので・・・」
「いつから郵便物が届かなくなったのですか」
「5年前から来なくなりました」
ここまでは何となく分かった。ただ先ほどと違うことを言っている気がするが・・・。
そんなことはどうでもいい、肝心のことを聞いてくれ、裁判長!!

「これまでに郵便のトラブルについては言えなかった?」
「3分割協議のことをバーッと言われると思って、ずっと飲み込んでいました。
5年で2、3回くらい道端で兄の嫁に会った時にそのことを伝えたのですが、
『よーゆわん』と言われて、そのままです」
遺産は3分割したということか・・・なるほど。
兄としては、他の兄弟より多くもらえると踏んでいたのだろう。
しかし、見事に3分割されたというわけか。

「私書箱の助言を受けたのは最近ですか」
「はい」

「中傷を受けたからと言って、包丁を突き付けられた相手はどうですか」
「相手は危険だと思いビックリすると思います」
「普通はそう思うでしょ!?」
「はい」
「これからも自分が謝ったからといって相手が自分の望むような対応をするか
どうかは分からないですよ。また中傷を受けるかもしれないですよ」
「分かっています、だから低姿勢でいきます。またそうした時には兄の息子、
嫁にも仲に入ってもらいますので・・・大丈夫かと思います」
「謝罪するときに一緒に入って貰うわけですか」
「いや、トラブルが起こった時に・・・先に一人で」
どことなく不穏な感じがするが。

「かなり昔ですが、傷害と暴行がありますね」
「はい、ただ何れも酒がありましたので」
「今回も酒の影響がありましたか」
「それも多少あります」
どうも酒を盾にして言い逃れをしているように映ったのはUNICOだけか。
+ + +
そして、検察からの求刑。
被告は被害者が嫌がらせをしていると思い込み、危険を認知しながらも
今回の犯行に及んだことは悪質である。また被害者も厳罰を希望している。
またこれまでに同種の前科前歴もあることから粗暴性も確認できる。
また同じビルに居住するといったことで再犯の可能性も否定できない。
求刑ですが、懲役1年、事件に使用した包丁は押収することを思料します。

弁護人からは、寛大な判決を希望するとのことで、
その理由を中傷されたこと、遺産分割で日常的な嫌がらせを受けていたこと、
被害者にも多少なり落ち度があること、
そして計画性がなかったこと、家族の支えが期待できること、
被告の粗暴性は古い話なので再犯の可能性はないことを挙げていた。

最後の見せ場被告人最終陳述。
「別段ございません」
あっさりとした幕引きで、結審を迎えるのだった。
★ ★ ★
遺産相続のもつれに端を発した今回の事件。
どこかのドラマに出てきそうな話である。
その嫌がらせとして郵便物を盗るといったスケールの小さな話。
ただこの嫌がらせを受けた被告にとっては、こうした些細なことの
積み重ねはじわじわと追い込まれるのだろう。

それにしても、金が絡むと人間の嫌な部分を見てしまう。
今回の事件、UNICOは事情も事情だし、懲役1年、執行猶予3年としたい。

次回判決2/12(月)9時40分~予定。
(了)

あの日に戻りたい(後編)

その後裁判は弁護人からの被告人質問へと続いていく。

「起訴内容に間違いはないですか」
「はい」と神妙に答える被告。
「なぜ包丁を持ち出してしまったのですか、そのきっかけは何ですか」
「事件当日に選挙に行くため、郵便物を返してもらおうと
兄のやっている居酒屋へ行きましたが、脳梗塞で右脚が不自由になったこと、
生活保護を受給していることを大声で罵られたので、ついカッとなってやってしまいました」

「いつから郵便物が届かないのですか」
「約5年前です」
「原因は何ですか?」
「原因は母の遺産相続です。向こうも納得いかんとこがあったんかと思います」

「兄とは同じ建物に住んでいるのですか?」
「兄は3F、自分は4Fに住んでいます。そして兄は経営する居酒屋を1Fでやっています」
「毎日顔を合わすのではありませんか」
「月に2、3回程度です」
同じ建物に住んでいて、月に2、3回しか顔を合わさないものだろうか?

「郵便受けは別々ですか」
「別々です」
「これまでに自分の郵便物が届かないことをなぜ言わなかったのですか」
「言おう、言おうとは思っていたが、兄は短気なもので、だから言わずにおいたんです。
そこで兄嫁に道であった時にそのことを兄嫁から伝えて貰おうと思って頼んだら、
『(兄は)今は聞く状態じゃないから無理』と言われた」とのこと。
確かにかなり深刻そうである。
しかし、遺産相続でビルを受け継いだ兄に何の不満があったのかよく分からない。

「これまでに包丁を持ち出したことはありますか」
「ないです」
「それでは今回はなぜですか」
「中傷されたことと・・・大分大声で罵られましたので・・・」
「こういったことで警察沙汰になったことはありますか」
「はじめてです」
「このことでこれまでに誰かに相談をしなかったのですか」
「区役所の福祉課へ2、3回相談へ行きました」
「何か助言は貰えましたか」
「職員が自宅まで来てくれて、それで郵便局へ行って私書箱を
つくってみてはどうかと言って下さいました」
私書箱をつくる・・・何とも妙を得た案である。

「中傷された発言については謝ってほしいですか」
「いや、この拘留生活が辛い状態で・・・。
この件については深く反省しておりますし、もうしませんのでお許しください」
何か釈然としない回答である。

「このことを蒸し返すことはありますか」
「ないです。自分も至らないところがあったし、今後は低姿勢でいきたい。
それで世間並の兄弟関係に戻りたい」
「今後トラブルは起こさない」
「トラブルは今後起こさないと決意しています」

「家族は面会に来てくれましたか」
「兄の息子が一度警察へ来てくれた。その時に被害届を取り下げるよう兄に言ってくれると
言ってくれましたが、それっきり連絡はないですが・・・」
「今後あなたとお兄さんと間を他の家族が間に入ってくれそうですか」
「兄嫁と息子に期待しています」
これは到底期待できそうにない。

「取り調べの時には謝罪の意志はありませんでしたよね、何か心境に変化はありましたか」
「22日間拘留されて、これが辛くて辛くて・・・。
こういうことは2度と犯しません、反省していますのでお許しください」
「お兄さんに直接謝罪をする予定ですか」
「はい、その時は低姿勢で謝りたい」
「今、事件をふり返ってみてどうですか」
「悲しい状態ですので、普通の兄弟関係に戻りたいと願っています」
「今回の件についてはどう考えていますか」
「拘置所は堪え難い。寒くて、昼も夜もとても眠れません。本当に反省しています」

こうして核心に触れられることなく弁護人からの質問が終わる。
次は検察からの質問だ。
+ + +
「お兄さんとで郵便物のトラブルがあったの」
「はい」
「個人の郵便受けは使えたのですか」
「2Fのパーマ屋の使用が空になってからは、隙間から郵便物を入れて貰うように
言っていましたが自分のはなくなっていました」
よく分からない回答である。

「なぜお兄さんの仕業だと思うのですか」
「ビルには他に誰も居ませんし、誰も入って来ることがありませんので」
う~ん、何とも言えない回答である。
「そのことをお兄さんには言ったのですか」
「遺産相続のことを言われると思って、言い出しませんでした」
やはりここが問題の核心だと思うが・・・。

「お兄さんが中傷をするのもそれはそれですが、包丁を相手に突きつけるのは危険なことだと
あなたは認識していましたか」
「傷つけるとかそういうのではなく、ただ脅すつもりでした」
ややポイントのずれた回答である。改めて質問をする検察。
「直接被害者に刃先を近付ける行為は相手が危険だとは認識をしませんでしたか」
「ただ脅すつもりだけでしたので、その時は危険なことだとは思いませんでした」

「捜査段階では否認していましたが、一転この法廷では認めて謝ることになっている、なぜですか」
「この50日・・・本当に辛くて辛くて・・・。
そこで1日中そのことばかりを考えていたら悪いことをしたという気持ちが一杯になりましたので」
恐ろしいくらいに後付けの話である。

「今後住むところはどうしますか」
「また同じビルに住ませて貰おうと兄にお願いするつもりです」
「これまでのところを引っ越して、違うところに住むつもりはありませんか」
「考えてないです」
「今後絶対にしないと約束できますか」
「できます」
「終わります」
ここで終わるのもどうかと思うが・・・。

 

あの日に戻りたい(結び編)へ続く

あの日に戻りたい(前編)

実兄に、右脚が不自由なことと生活保護を受給していることを馬鹿にされ、
怒りのおさまらなかった被告。
兄が経営する居酒屋へ文化包丁刃渡り15.6cm2本を持って押し入り、
「いってもうたる」などと危害を加えかねない勢いで叫び、近づいたことによるもの。

罪名及び罰条、
暴力行為等処罰に関する法律違反、銃刀剣類所持等取締法違反。
+ + +
爽やか営業マンタイプの検事が若干噛みながらも起訴状を読み上げた。
特に被告側からの反論もなく、スムーズに起訴事実が了承され、
次は証拠調べとして、先ずは検察からの冒頭陳述へと続いていく。
冒頭陳述では、被告の身上、経歴、今回の事件の内容が明らかとなる。

被告は大阪府出身の64歳。
大学中退後、職を転々とした後、現在は無職で生活保護を受給している。
これまでに離婚歴が2回あり、現在は単身で暮らしている。
被告には同種1犯を含む、前科が3犯あるとのこと。

今回は被告の母の死後、被告と実兄(今回の被害者)との間で、
母の遺産相続を巡り、家庭裁判所にも持ち込まれ、遺産分割協定となったらしい。
協定の結果は、被害者にビルの所有を、被告には同ビルの4F部分を
居住空間として、生涯無償貸与できることとなった。

ただ被告曰く「この民事調停のあとより兄弟関係は不仲になった」。
被告がそう語るのは、
「この日を境にして自分の郵便物が届かなくなった」とのこと。
それを兄の嫌がらせと考えるようになった被告。
「兄はドアを叩いたり、乱暴にドアを閉めたりする」
といった粗暴的な行動をその根拠に挙げている。
しかし、被告は「また喧嘩になるので言わずに我慢」をしていたらしい。

そして事件当日。
被告の我慢の限界を超える出来事が起こったのだった。

事件の当日は、丁度選挙の日だった。
被告は、投票に行こうとしたが、選挙通知のはがきがないことに気付く。
「はがきを持っているのは兄に違いない」
そう勝手に断定した被告は、はがきを返してもらおうと一大決心をして兄の元へ行き、
「郵便物を5年分盗ったやろう!」などと言ったらしい。
言われた方からすれば、訳のわからないことだったに違いない。
そして兄は、右脚が不自由なことと生活保護を受給しているといったことを持ち出して、
大声で被告を中傷し、追い返したのだった。

そして被告は、悔しい想いを抱えて自室に戻り、怒りの念をふつふつと募らせる。
その怒りはやがて激情へと変わり、
「包丁で脅して謝罪させよう」
と思いついた被告は今回の犯行に及んだとのことだった。

 

あの日に戻りたい(後編に続く)