裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

3

強要

ノルマと恋心の間(判決編)

後日。
法廷には、昭和風情弁護士と共に、
丸坊主になった男爵男が法廷に姿を現した。
傍聴席には、前回証人として出廷していた証人の姿はなく、
無駄に広い傍聴席には、ノートを片手に持った
裁判傍聴マニアの姿がチラホラみられる程度であった。
まもなくミスジャポネが入廷し、開廷の時間を迎える。
+  +  +
主文、
被告人を懲役1年とする。
ただしその刑の執行を4年間猶予する。
今回の訴訟に要した費用のうち、国選弁護料は被告人の負担する。

以下、判決理由。
およそ4時間に亘り、被害者を拘束し、
被害者から「もう帰ります」と言うのを聞くと態度を一変し、
危害を加えかねない奇声を発し脅したことは、執拗かつ悪質な犯行である。
事件を起こした動機も歩合欲しさの犯行であり、自己中心的で酌量の余地はない。
また犯行態様も営業活動の一環ということであり、計画的、職業的である。

加えて、はじめは犯行を否認していたことなどもあり、
事件のことを反省しているとは言い難い面もあるが、
裁判がはじまると犯行を素直に認めていること、
過去には保護処分歴があり、規範意識がいくぶんか薄いところもあるが、
刑を終えたのちに顧問であり、また経営者である元同僚の母の職場で、
運送の仕事をすることもあり、十分に監督が期待できるものと鑑み、
今回に限り、社会内更正を選択した。
判決理由を述べたミスジャポネ裁判長は、
「これまでは疑問を持たずにやってきたんやね」
と男爵男に問いかける。
「はい」と屈託なく回答する被告の姿を見て、
一同がホッと安堵したことは言うまでもないだろう。
+  +  +
確かに、強要未遂罪ということで、
それほど重い刑を要求することは難しい裁判ではあった。
しかし、まさに公務員的な検察官の割り切った進め方に対して、
昭和風情弁護士は、強烈なインパクトを与えることができる
証人を法廷へ呼びことに成功した辺りが効いているように感じた。
まさに昭和風情弁護士の戦略勝ちであろう。

 

(了)

ノルマと恋心の間(求刑編)

そして、裁判はこの日2度目となる被告人質問を行うこととなったのだ。
まずは昭和風情を感じさせる弁護人から。

「これまでで、今回いかんことをやったのは分かった?」「はい」
本当に分かったのかどうかは不明だが。

「身寄りは居ますか?」「父のみが居ます」
「お父さんに今後の事件のことを相談しましたか?」
「申し訳ない気持ちになってしまい・・・」
「遠慮したんやね」「はい」
「お父さんは公務員?」
「はい。以前の事件を起こした少年院の時にも来てもらい、それで迷惑を掛けたので・・・」
「だから今回は差し入れも遠慮したんやね?」「はい」
体裁を重んじる公務員の父・・・安易な発想ではあるが何となく縮図が見えてくる気がした。

「今後お父さんとはどうするつもり?」
「縁を切るつもりはありません。それで立派に自立した姿を見せたいと考えています。
その時は自分から家へ報告に行こうと思っています」
今のままでは敷居が高いという訳か。

「今後ですが、元同僚が心配してくれて、元同僚がお母さんに相談してくれて、
就職の世話をしてくれると言ってくれていますが、
それであなたはお世話になるつもりはあるの?」「はい」

「できるの?」「できます!」
「コツコツとやっていくのを覚えなあかんな?」「はい」
「すごくお金が欲しい気持ちはある?」
「多少ありました」
「そんな苦労なしに大金をつかむのは?」「間違いです」
「これから厳しいよ」
「はい、大丈夫です」
この誘導が昭和を感じさせる。

続いて検察。
「会社はクビになりましたか?」
「クビになりました」
「いつですか?」「捕まってはじめの頃です」

「身寄りは?」「父と兄です」
「母は?」「離婚してから一度も会っていません」
「はじめの捜査段階では今回の事件について認めていませんでしたが今は認めている。
今回の事件について、今は納得しているのですか?」「はい」
「もう二度としない?」「はい」
あまり突っ込まなかった。

最後にミスジャポネ裁判長から。
「会社の仕事としてお金がほしかったのですか?」「はい」
「歩合でしたか?」「はい」
「成績を上げたかった?」「はい」
「素直に犯行を認めたきっかけは?」
「いろんな人が心配し、協力してくれる人が居て。
そういう人が居ることに気付いて、ちゃんとせなあかんなぁと思ったので・・・」
「証人も意欲次第だと言っていましたが、意欲はありますか?」
「社会に戻った時に、証人のところで一所懸命やっていきたいと考えています」
「被害者に対しては?」
「本当に悪いことをしたなと思っています。
辛い悪いことをしたのは事実です。もう二度としないようにと今は反省しています」
優等生的な言葉で締める男爵。これは勝負あったか。

そして求刑。
歩合欲しさの犯行で計画的、職業的で自己中心的。
また犯行も約4時間と執拗かつ悪質、再犯の可能性もあるし、
また常習性も窺える。
被害者に対して、多大な精神的苦痛を与えてことからも懲役1年が妥当。

続いて昭和風情。
少年時代に前歴があること、犯行態様からも軽微とはいかない。
ただ反省していること、未遂に終わっていること、
若い好意のある女性に対して、若さゆえに大声となり、
執拗にもなったことを反省していること。
これらは指導監督次第だと思う。
今後は知人の母の協力も得られるということで再犯可能性がないこと、
今回事件を起こしたことで、その矯正教育は公的機関でもやむを得ないが、
ぜひとも社会内更正、執行猶予をお願いします。
と熱い弁論が終わる。

最後に、被告の最終陳述。
「今回やってはいけないことをしてしまった。本当に申し訳ありませんでした」
この時の表情は真摯なものだった。
これは執行猶予が期待できるか。

 
ノルマと恋心の間(判決編)へ続く

ノルマと恋心の間(中編)

ネットで知り合った女性に対して、200万円のパールネックレスを
売りつけようとして、強要未遂で逮捕、起訴された男爵。

裁判は、昭和風情を感じさせる弁護人からの立証がはじまった。
昭和風情弁護士が提示した立証方法は、
被告人質問、そして情状証人、その後に被告人質問だった。

まずは、昭和風情からの被告人質問。
「反省している?」「はい」
「間違いない?」「はい」
「物品販売の従業員として働いていたようですが、売り上げのノルマがあったの?」
「いいえ、ありませんでした」
「やりすぎたのは分かる?」「はい」
「日ごろから強引なところがあることを理解している?」「はい」
「金目的以外に親しくなりたい、契約して貰い親しくなりたいと思った?」「はい」
「取り調べで素直に言えないこともあったがそれは、
過去に少年刑務所へ行った時のことを思い出し怖かったの?」「ありました」
これで被告の素直さを押し出す方法はうまくいった。

次に検察からの被告人質問。
「取り調べ中に脅迫をしていないと言っていたのは間違いないですね?」
「間違いありません」
「被害者に買ってほしかったの?」「はい」
「被害者に自分は少年院にも行ったことがあることを言っていたようですが何で?」
「自分の生い立ちのことを知ってもらいたかった」
「被害者にどう思って貰おうとしたの?」
「自分の過去を知って貰おうと思って・・・」
「怖がるよね?」
「その時はそう考えなかった」
「今後被害者には?」
「一切かかわりません」
このタイミングで昭和風情が口を挟む。
「過去を言って自分のありのままを知ってもらいたかったんやね?」「はい」
ナイスフォローだ。

そして、ミスジャポネからの質問。
「捜査の時と違うことを言っている理由は?」
「刑務所に行きたくないと思いました。最初からきちんと言えば良かったです」
「それで罪が重くなるとは考えなかった?」「はい」
「疚しさは?」「あった」
「親しくなりたいのになぜ脅迫をするの?」
「力んでしまったというか表現が違ったというか・・・」
「優しくした方がいいと思うがなぜ今回のような行動になったの?」
「宝石を売りたいという思いがあって、力が入ってしまった」
「途中で売りつけたいが勝ったの?」
「はい」

同じ事件のことについての質問だが、立場によって全く切り口が違う。
これが被告人質問の醍醐味であろう。

 

ノルマと恋心の間(後編)へ続く

ノルマと恋心の間(後編)

強要未遂罪に問われる男爵男の裁判。
ここまではフワーッとした感じで裁判は進んでいたが、
ここで最大の山場、昭和風情弁護士が呼んだ情状証人が証言台へと呼ばれる。
証人として登場したのは、被告の元同僚の母。
まずは、昭和風情弁護士からの質問。

「ある会社で顧問職をしておられる?」「はい」
「何人くらいの会社ですか?」「10人程度です」
シャンとしている、凛とした印象である。

「仕事内容は?」
「5、6年前から化粧品の製造販売をしていて、
それをエステ店やディーラーへ売る仕事です」
「工場も持っておられて経営にも関わっているのですか?」「はい」
「社長は元ご主人ですね」「はい」
これはかなり割り切った関係が求められるだろう。

「息子さんから話を聞いて、それで自分のところに来て貰ってもいいよ、
ということを言って下さっているのですか?」
「私は元々『好きではないなそのやり方は』と言っていました。
商売には真っ当なやり方で、しんどい思いをしてもやらないといけないと思う」
長くおとなをやり続けた、説得力のある重みのある言葉である。

「被告にはどんな仕事をお任せになるおつもりですか?」
「商品の配送や発送業務です。
人生っていうのはやり直しは何回もきく。
汗水たらして大変だと思うが身体を動かすことがいいと考えています」
この人ならば、この男爵男も立ち直るかもしれないと思わせる心強い言葉であった。

そして、検察からの証人質問。
「面会には行きましたか?」
「行っていません」
この言葉を聞いて、UNICOはドキッとした。
「私には私の仕事があり、出てきてからの被告を見てから判断しようと思っています」

「今後同じことを起こさせないようにする自信はありますか?」
「とんでもない、今は何とも言えません。
ただ自分のところに来ることになればその自信はありますが」
何か証人には、強い信念みたいなものを感じ取ることができた。

これを聞いて、空かさずミスジャポネも質問を投げかける。
「被告は息子さんですか?」
「違います。息子の元同僚で、息子に頼まれてきているだけで被告とは関係はないです」
「今後被告を雇って頂けるということですか?」
「これまでのことはどうでもいい。
被告には、これから先をどうしたものやろうかと真剣に考えてほしい。
ただあてにされるのはいや、また反省がないと雇う気はありません。
ただ一度引き受けた限りは更正させる気はあります。
過去は過去、これから先が肝心。
だから今後もこちらからは声掛けなどもしません」
何とも心強い、頼もしい存在であろうか。

 

ノルマと恋心の間(求刑編)へ続く

ノルマと恋心の間(前編)

今回、UNICOが傍聴しようとする裁判は、強要未遂罪といった耳慣れないものだった。

強要罪とは、刑法第223条に規定されているものであり、
生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、
又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、
又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処するというものだ。

こうした他の人に無理やり何かをさせようとする刑事罰であるからには、
被告は相応の悪人面のはずだと踏んでいた。
そうした勝手な期待に胸を膨らませること数分、
被告は弁護士と共に法廷に姿をあらわした。ということは余裕の保釈中といったところか。
当然被告の顔は凶悪そうなもの・・・と思ったが、
これが冴えない「ジャガイモ(それも男爵)兄」であったのだ。

UNICOが落胆しているのもつかの間、
法廷にはミスジャポネ裁判長が入廷する。開廷の時間だ。
ミスジャポネに呼ばれ、被告が証言台へと進む。
そして被告本人に間違いがないか、生年月日に氏名と住所の確認がなされる。
どうやらこの男爵、未だ24歳らしい。
この風貌からも年寄りを相手に悪事を働いたのだろうか。
◇  ◇  ◇
そして、検察からの起訴状の朗読。
ネットで知り合った女性(24歳)に対して、
某珈琲店でパールネックレスの購入を4時間5分に亘って、
「なんなんおちょくっているのか!」「シバくぞ!」
「店内で大声で言ってもいいんやで!」
「買わへん理由を言え!」「納得できるように言え!」
などと危害を加えかねない勢いで強要したことによるもの。
罪名及び罰条、強要未遂罪、刑法223条。

起訴状に対して、素直に内容を認める被告と昭和風情を感じさせる弁護人。
そのまま裁判は、証拠調べへと進むこととなる。

被告は、大学卒業後に現在の資産運用ソフト販売及び宝石販売会社へ入社。
婚姻歴はなし。前歴に中等少年院に送致されたことがある。
会社での仕事内容は、会社が昨年の4月より資産運用ソフトを主に販売していたが、
宝石販売を手掛けるようになり、被告はその販売を指示されることとなった。
そして被告はネットで知り合った不特定多数の相手へ宝石を売るようになった。

被告と今回の事件の被害者はメールで連絡し、某珈琲店で会う約束を取り付け、
14時55分~15時30分の間、同喫茶店において世間話を開始、
18時30分~、パールネックレスを200万円で買うように強要しはじめ、
19時時点で、被害者が購入の意思がないことを告げて帰宅しようとした時に、
被告は、「どうしても買わないのなら大声で言うぞ」などと脅され、
被告がトイレへ立った隙に、店員に助けを求め、
同喫茶店従業員用の控室へ逃げ込み、警察へ通報してもらい今回の事件が発覚した。

のちに某喫茶店の店員はこう話している。
「被告はよく同店を利用しており、以前にも今回の事件と同様に女性に対して、
購入を迫っていたのか、女性が怯えていたことを見かけた」
とのことだった。

 
ノルマと恋心の間(中編)へ続く