裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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現住建造物等放火未遂

裁判員裁判を傍聴してみる(現住建造物等放火未遂)(後編)

重い犯罪を対象とする裁判員裁判。
この裁判を傍聴しているのは、UNICO以外にもう1人のみ。
何となく重苦しい雰囲気が法廷内を包む。
そんな中、裁判は朴訥裁判長が進行をする。
次は、検察官らの冒頭陳述だ。

まずは、検察から裁判員に対して、ペーパーが配布される。
そして今回の事件についての概要説明がなされた。
「今回の事件は、被告が焼身自殺を図ろうとしたものによるもので、
起訴状について争いがなく、情状のみが焦点となります」との説明がなされた。

次に、被告の身上・経歴の説明。
被告は現在62歳。高校卒業後、職を転々として定職に就かなかった。
40代に脳溢血を患い、その後てんかん発作が出るようになり、
以降は母の年金で暮らすようになっていた。
母が平成19年に老人介護施設へ入所することとなり、
以後は実弟と暮らすようになり、生活費は実弟に頼っている状況であった。
被告はそのことを情けなくて惨めだと考えていた。
そして自分は邪魔者なので、居ない方が弟も楽になると度々自殺を考えるようになり、
事件当日、昼食の準備でうどんを調理しようとしたところ、
思ったよりうまく調理できなかった。
それを捨てることもできない自分自身を情けなく感じ、上記の犯行に及んだといったもの。

その後、スライドを使用して、事件の被害状況の説明に入った。
裁判員の手元には、小型モニタが、
傍聴席には、大きなモニタが設置されている。
状況を分かり易くするために、視覚に訴えかけようという試みだろう。
そして、スライドに映し出されたものは、
自家と隣家との距離が隣接していることを裏付ける写真が
何枚も角度を変えて提示される。

次に、今回の事件で焼け落ちた場所の写真。
今回の事件では、河童親方は自室の障子に燃え移らせて放火を試みた。
その異変に実弟が気付き、119番通報した後、
水を掛けるなどの消火活動を行ったため、障子とたんす、天井が焼失するにとどまった。
その焼けたものが次々に、品を変え、角度を変えて映し出される。
これらの被害状況は、ただ言葉で聞くよりも写真で見ることにより、
強くリアリティを実感してしまうため、被告の心証はどうしても悪くなってしまう。

ここで裁判員に配慮して、30分程度の休憩が挟まれる。

次は、通常の裁判にはない弁護士からの冒頭陳述がはじまる。
落武者弁護士が今後立証する予定は、
次回実弟を情状証人として呼ぶこと、そして事件についての争いがないこと、
今回の放火は、あくまで自殺しようとして火をつけたものを強調する。
そして、情状酌量を目指して、被告の善悪判断が低下していること、
前歴がなく、今は事件のことを反省していること、
現在62歳だが、40歳前半で高血圧が原因で脳溢血となり、
「自分の生活が惨めだ、死んでしまいたい」と思うようになったこと、
今回は自殺企図のみが目的で、焼失した箇所も幸い全焼免れ、一部分のみで済んだこと。
被告は、心身耗弱、神経衰弱で睡眠薬を服用していたこと。
逮捕されてから4か月、留置所に勾留されて、事件のことを反省していること、
何より実弟に厳しい処罰感情がないことを訴えて、弁論は終了し、
それを受けてこの日の裁判は終了となった。
◆  ◆  ◆
裁判員裁判は、時間を空けず、連日開廷で一気に結審まで進むことが特徴だ。
ただ事件の状況が視覚的に訴えかけられることで、厳罰化は進まないだろうか
といった懸念がなされるのも事実だ。

確かに、自分の身を儚んで、自殺を試みようとする人は数多いる中で、
敢えて、放火を試みるといった方法を選択する被告の行動は、
決してほめられたものではない。
そう考えてみると、被告が重い罪に問われてもある程度仕方がないのかもしれないが。

この裁判を傍聴しても、なお裁判員制度を行う必要が
あるのかが分からないUNICOであった。

 

(了)

裁判員裁判を傍聴してみる(現住建造物等放火未遂)(前編)

裁判員裁判――。
2009年(平成21年)5月21日に施行、
賛否両論が叫ばれる中、同年8月の東京地方裁判所で最初の公判が行われた。

裁判員制度が適用される事件は、地方裁判所で行われる刑事裁判(第一審)のうち殺人罪、
傷害致死罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪など、
一定の重大な犯罪についての裁判がその対象となる(出典/WIKI)。

今回UNICOが傍聴した裁判は、現住建造物等放火未遂罪。
人が現に住居に使用しているか、または現に人のいる建造物等(建造物、汽車、
電車、艦船又は鉱坑)を放火により焼損させることを内容とする犯罪であり、
刑法では108条が該当する。
その法定刑も死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役と規定されており、
現行法上殺人罪(刑法199条)と全く同等の法定刑を有する重罪とされている。
◆  ◆  ◆
傍聴席に入ると、正面の裁判官が座るスペースには、
朴訥そうなこの裁判を取り仕切る裁判長、サブには公務員庶務課と固い女性の裁判官3名、
そして裁判員には20代~60代までの幅広い年齢層の男女8名、
計11人もの人間が犇めいていた。

そこへ今回の被告である河童親方が登場する。
ヒガミ検事が、早速起訴状の朗読をはじめる。

被告は、被告人方において、実弟と暮らしていたが、
現在自分自身が無職であり、収入のすべてを実弟に頼っていることを惨めと思い、
焼身自殺を図ろうと同方1F台所ガスコンロの新聞紙に点火し放火を試みたが、
実弟が異変に気付き、消火したため障子と天井の一部を焼失するに止まった。
罪名及び罰条、現住建造物等放火未遂。刑法108条。

この起訴状に対して、被告と落ち武者弁護士は争いはなかったので、
裁判は、そのまま冒頭陳述に進んでいく。

 
裁判員裁判を傍聴してみる(現住建造物等放火未遂)(後編)へ続く