裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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傍聴 ブログ

引き寄せる宿命(中編)

業務の運転中に交通事故を起こし、不本意ながら人の命を奪ってしまった被告。
一方、店を任せて貰い、結婚を控え・・・と、これから人生の絶頂期を迎える、
まさにその前に命を失ってしまった被害者。
この事故は、双方がこれまでに築きあげてきたものが一瞬にしてひっくり返ってしまったのだ。

そんな自動車運転過失致死という言葉に含まれた、重い裁判の続編。
+  +  +
被告の母が証人として出廷し、弁護士からの質問までが終了した。
続いては、吹石似からの証人質問。

「被告とは一緒に住んでいましたか?」
「はい」
「事故を起こした後、被告から電話が掛かってきましたか?」
「はい」
「そのときに、被告は何て言っていましたか?」
「夜中に被告から電話が掛かってきて『事故をしてしまった』と。
『これから警察と話があるのでまた電話する』と。
結局その後連絡はありませんでした」

「その後、被告とは何か話しましたか?」
「はい。事故を起こしてしまい、相手の家族のこととか、
すごく申し訳ないことをしたと言っていました」

「そのことを被告はご遺族に伝えようとしていましたか?」
「はい」
「どのようにして伝えると言っていましたか?」
「話をいろいろしていましたが、ハッキリとは・・・分からない」

「あなたからご遺族に謝罪はしましたか?」
「それも思いましたが・・・伝えていません」
「どうして伝えませんでしたか、その理由は何ですか?」
「・・・仕事が忙しいといってしまうとあれですが・・・。
どういう言葉を掛けたらいいか分からずに・・・悩んでいます」

「今日はご遺族の方、みんな揃って居ますが何か伝えたいことはありますか?」
「・・・同じ子を持つ母として、
子をなくすというのがどれだけ辛いかは分かる気がするので・・・本当に申し訳ないことをしました」
厳しい取り立てをするような吹石似の質問である。

「今後被告と同居する予定ですか?」
「はい、結婚を考えています」
「被告は、事故後免許取消となりましたが、
またもし運転する機会があればあなたは何ができますか?」
「言葉掛けしか思いつかないですが、注意するようにと言います」
「終わります」
そう言いながら、吹石似検事の顔は怒っていた。

 

 

引き寄せる宿命(中編2)へ続く

引き寄せる宿命(前編)

業務の運転中に交通事故を起こし、不本意ながら人の命を奪ってしまった被告。
一方、店を任せて貰い、結婚を控え・・・と、これから人生の絶頂期を迎える、
まさにその前に命を失ってしまった被害者。
この事故は、双方がこれまでに築きあげてきたものが一瞬にしてひっくり返ってしまったのだ。

そんな自動車運転過失致死という言葉に含まれた、重い裁判の続編。
+  +  +
検察の冒頭陳述が終わり、続いて、弁護士が情状証人として呼んだ
被告の妻への証人質問。

「被告とは平成10年に結婚したの?」
「はい」
「それでいつ離婚をしたのですか?」
「3年ほど前です」

「現在被告と一緒に住んでいますか?」
「はい、子どもと一緒です。中3の長男と小3の次男と一緒です」
「今後はどうするつもりなのですか?」
「子どものことを考えて、両親が揃った家庭がいいかなぁと思っています・・・
それで籍を入れる予定だったのですが・・・事故があって先延ばしにしています」
ここにも事故で人生が狂った者がいる。

「あなたは何か仕事をしていますか?」
「塗装会社で、パートに指示を出して会社を動かしています」
「収入は?」
「月に18万円程度です」
「今日裁判所に来るために会社はどうしましたか?」
「今日は一時的に抜けてきていますので、また後で戻ります」
これで被告、子どもの収入は最低限度確保されていることの立証になった。

「被告の性格はどういった感じですか?」
「仕事に対してはずっと真面目、常に仕事を考えてばかりいます。それでも家のことはしてくれます」
「家庭でも仕事のことを考えているのですか?」
「はい」

「早朝に事故を起こしてから連絡はありましたか?」
「自宅に連絡がありました」
「それを聞いてあなたはどう考えましたか?」
「すごくびっくりはしました」
「それで被告が帰ってきた、その時の様子は?」
「すごく落ち込んでいる様子で、どう声を掛けたらいいか分かりませんでした」

「それから半年程度経過しましたが、被告の様子はどうですか?」
「以前に比べると言葉数も少なく・・・」
「事故のことは子どもは知っていますか?」
「上の子は知っています。ただ下の子には耳に入らないようにしています」

「被告の勤務時間が22時~3時の勤務ですが、家庭で問題になりませんか?」
「被告は自分が行く時間帯には帰ってきますので、子どもは常に大人が居るのでいいかと思っています」

「被告は事故後に車の運転はしていますか?」
「殆どしていない」

「被告は運転手を止めると収入が減るのでは?」
「月に10万円程度減りました」
「被告が今後このような事故を犯さないようにあなたは何か努力をしていますか?」
「いつも気を付けるように言葉掛けをしています」

辛い事実である。誰も何も得をしていない。

 
引き寄せる宿命(中編)へ続く

引き寄せる宿命(序編)

2時12分。
早朝と言うべきか。はたまたまだ深夜と言うべき時刻か。
そんな未明の時間に、これから仕事をはじめる被告と仕事を終えた被害者。
本来知り合わない筈の両者が、この瞬間に最悪の形で出会ってしまった。
◇  ◇  ◇
塵芥車を運転していた被告は、片側2車線の道を15km/hで進行中、
交差点に差し掛かる直前で、右車線に入ろうと方向転換をした際、
右後方から真っ直ぐ進む当時29歳の被害者が、
運転する自動二輪車の右後輪部を巻き込んでしまったのだ。

結果、被害者は右下肢傷害を負ってしまう。
その後被害者は救急車で運ばれ手当を受けるも、
その甲斐もなく命を失ってしまった。
死因は失血性ショックだった。

こうした経緯で事故を起こした人物は、刑法211条2項自動車運転過失致死という罪名で、
被告として裁判所で裁判を受けている。

そして、起訴状に争いがないということで、
吹石似の検事がゆったりとした口調で冒頭陳述をはじめる。

被告は、中学卒業後に運送業など職を転々とした後、
現在のゴミ収集業に就職した。
これまでに婚姻歴があり、現在元妻と子どもと同居している。
過去に被告は、業務上過失傷害で12万円の罰金、
道交法違反で6000円の罰金とがある。

この日は会社出勤後、塵芥車である中型特殊自動車を運転中、上記の事故を起こした。
事故後、被害者の母より、
「被害者はすくすくと育ち、とても優しい子供だった。
野球少年で、中高大とずっとやっていた。
その後料理人になるべく専門学校へ行き、一時は自分でラーメン店を持つまでに至った。
その後諸事情があって閉店となったが、
その後あるお店で働くようになり、実家の神戸から大阪の店舗まで通っていた。
そこで働きぶりが認められ、3月からは店を任せて貰う予定となっていた。
また婚約者がおり、昨年12月には店に招待をした」

「被告からは、葬儀で一度謝罪があったのみで、以後謝罪はなく、
法事の時にこちらから連絡を取っても出ることがなく無視された。
被告には法律に則って処罰をしてほしいと話している」とのことだった。

 

 

引き寄せる宿命(前編)へ続く

被害者は語る(後編)

酒に酔っぱらった状態で車を運転し、
一時停止の交差点を漫然と進入し、あげく被害者に接触した。
そして、被害者と接触したことに気付かず、そのまま車を進めた結果
被害者を110メートルも引きずり、死に至らしめた太鼓オヤジ。
更に進んだあと、車の異変に気付き、ようやく事故を起こしたことに気付いた被告。
あろうことかそのことを隠ぺいするためにわざわざ東京まで行き、
車体に付いている血痕を消すために丹念に洗車し、
仕上げにタイヤ4本を交換するまでの手の込みようだ。

そんな悪質極まりない太鼓オヤジを逃がすまいと、佐古似検事をはじめとする
検察軍団が本気の立証を行うのだった。
+  +  +
引き続き、佐古似検事の冒頭陳述。

「事故報告書によると事故の第一発見者は、
被害者の男性が血まみれで倒れているのを発見したとのことだった。
現場には、血痕とタバコが遺留しており、血痕については112メートルに亘り延びていた」

ここからの立証が検察、警察の本気度が伝わってきた。
「今回被告を特定した証拠として、
①事故を起こした車両のバンパーが被害者と接触した際にできたであろうへこみと一致したこと、
②血痕のついた車両を払拭したという状況が見つかったこと、
③被害者の着衣の破れとズボンの裂けめからの素材が被告の車両の泥除けから検出され、
限りなく近似していること、
④被害者の死因が中枢性呼吸麻痺であるが、事故の状況を検証した結果、
平らな面に鈍体を強打しただけでは死には至らないこと、
⑤これは立位から後頭部を強打した場合も同じであり、
この結果から被害者の直接の死因が車底部で引きずられた
結果によることを裏付けるものであること、

⑥これを事件現場に当てはめてみると、立位の被害者を15km/hの速度で
進行してきた被告の車両と接触し、そのまま倒れると脳幹は陥没することは分かったが、
これは被害者の直接の死因には該当しなかったこと、
⑦被害者にあった右擦過傷はぶつけた時にできたものであり、
被告のリアバンパーに付着していた血痕と被害者の血液とが一致したこと、
⑧現場に落ちていた塗装膜片と被告の車両とが一致したこと、
⑨フロントバンパーに付着した着衣と被害者が着用していた着衣とが近似していること、
⑩被告が運転する普通自動車の進行方向と一致する方向で被害者が倒れていたこと、
⑪現場に遺留していたタバコが被害者のものと一致したこと」
ここまで来れば、太鼓オヤジも万事休すであろう。これで言い逃れはできないはずだ。

更に続く。
「被害者の妻の証言、
『夫は毎日散歩に出かけていた。タバコはピアニッシモを吸っていた』とのこと。
また現場には防犯カメラが設置されており、事故の直前の映像が残っており、被害者が映っていた。
近所の方の証言「外でドンという鈍い音がした、そして叫ぶ声が聞こえた」と話している。

事故の状況を再現し、人を引きずった状態での実験も行った。
すると、ハンドル操作、アクセルが通常よりも重く、
また車内でも何かを引きずる音が聞こえることが分かった。
更に人を轢いてしまい、乗り上げた時の体感状況についても再現し、
被告に体感して貰った」とのこと。

そして、佐古似検事は語気を強める。
「被告は事故に気付き、わざわざ東京都まで行き洗車している。
事故前の飲酒状況について、フィリピンパブで働く、
被告の元彼女の証言でも被告が上記のものを飲酒したことを証言している」

被告の逮捕後の供述、
「事故後停止せずに、車中から車のみを確認した。そのまま発進すると
何か柔らかいものを右後輪で乗り越えた感触はあったが、そのまま進んだ」
「交差点で、何か大きなものに当たった感触があった。
その後も何かを引きずる感触はあった」と話していたのこと。
この太鼓オヤジは確信犯である。

そして、ここで今日の審議は終了となる。
次回は弁護士側の情状証人として妻が出廷することと被告人質問との二本立て。
検察側は意見陳述として3人を召集、更に委託弁護人の意見陳述を予定しているとのこと。
+  +  +
結局UNICOは、次回以降の裁判を傍聴することはなかったが、
自動車運転過失致死傷罪の法廷刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金刑である。
もちろんこの罪に道路交通法違反(酒気帯び)が加重されるため、
太鼓オヤジにこれまで前歴がなくとも、懲役刑は免れることはできないであろう。
さらに、事故を隠ぺいしている悪質さは、遺族のことを考えると如何ともしがたい。

個人的には、刑法208条の2、危険運転致死罪(懲役15年以下)を適用してほしいところだが・・・。
ただ被害者と接触した時点で、そのことを分かった上でそのまま車を発進させたことを
立証・・・できないが、もしできればもうこれは殺人以外に考えられない。

事の重大さに気づいているように見えなかった太鼓オヤジ。
人間の弱く、汚い部分を見てしまったように思われた。
そして、益々クルマに乗りたくないと強く心に決めるペーパー歴16年のUNICOであった。
(了)

被害者は語る(中編)

これからはじまる検察からの冒頭陳述を聞くまでは、
双方にとって、厳しい内容だなぁと感じていた。

しかし、冒頭陳述で徐々に今回の事件の全貌が明らかになるにつれて、
太鼓オヤジに対して、違った感情が芽生えてくることとなるのである。
+  +  +
はじめに被告の身上。
被告は東京都出身の48歳。見た感じゆうに60歳を過ぎている印象だ。
今回の事件前まで、新聞配達業を営んでいたとのこと。
被告には妻子があり、これまでに前歴はなし。
事故当日の19時。
被告は、自分が経営する新聞配達業で使用する普通自動車を運転して炉端焼店へ行く。
そこで酎ハイや冷酒を飲んだ。ここで既に道交法違反(飲酒運転)である。
その後、未だ飲み足りなかった被告は、フィリピンパブへ行き、
ブランデーや水割りをそれぞれ2杯程度飲んだあと、
再び同車を運転し、その道中で今回の事件を引き起こしたのだ。
これは頂けない。

そして、被告は事故現場である信号機のない交差点に差し掛かる。
当然手前には一時停止を促す停止線と標識があるはずだ。
それでも酔っぱらっていた被告はそんなことには構わない。
漫然と時速15km程度の速度で交差点に進入し、
その時、散歩途中で一服していた被害者と接触してしまったのだ。

ここまででも被告の行動は決して褒められたものではない。
しかし、この後の被告の行動は飛んでもなかった。
被害者と接触した被告が運転する車。
その際には、後の供述でかなり衝撃があったことが立証されているが、
太鼓オヤジはそのことに気付かず、
接触した衝撃で地面に倒れた被害者を車輪で踏みつけ、
更に被害者を巻き込んだ状態で、110メートルもの距離を引きずったのだ。

この間、太鼓オヤジは気付かずに運転。
その後、更に被害者と接触した地点から538メートル進んだ地点で、
ようやく車の異変に気付いて、車を止めて外に出て確認した被告。
車体には血液が付着していた。
そのことに気付き、酔いの醒めた太鼓オヤジ。
ここからの行動が正気の沙汰ではなかった。

血痕が残っていることをまずいと考え、
電話で妻を呼び出してお金を持ってくるよう指示、
妻から5万円を預かり、そのまま東京まで行く。
そして、車に血痕が残らないように丹念に洗車したのち、
タイヤ4本を交換した。
更にその後は悠々とゴルフなどを楽しんだとのことだった。
・・・ここまで来ると傍聴席で聞いていてただただあきれるばかりである。

 
被害者は語る(後編)へ続く