裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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裁判 責任能力

人を殴っても罪に問われない!?

前回被告の責任能力について、ダラダラと記述したが、
これから登場するもっさりとした被告(46歳)の争点が、まさにこの責任能力を問う公判であった。

被告と同じマンションの上階に住む被害者(43歳)とは、同じマンションの住人であるといったこと以外は、
特に深い付き合いがあったとの報告はない。
しかし、ある日被告はある決意を胸に秘めて被害者宅をいきなり訪問する。
被害者は呼び鈴が鳴ったので、いつものように玄関のドアを開ける。
すると、いきなり圧力鍋648gで殴りつけられる。
その後顔は見たことある程度の被告に、何度もゲンコツで顔面を殴られ、
結果左全顎挫傷、左眼球挫傷など全治2週間程度のけがを負わされた。
もちろん直ぐに被告は逮捕されることとなったが。

被害者にとって、これは恐怖体験以外のなにものでもなかろう。
言い換えればホラーである。

その後の冒頭陳述で、被告の素性が明らかになる。
被告は東京都で出生し、高校卒業後はパチンコ店、新聞販売員と勤務していたが、現在は無職となっていた。
過去に1度中国人との婚姻歴もあるが、不法滞在だったのだろうか、強制送還されることとなった。
H12年頃より生活保護を受給。その後も細々と情報誌を路上で販売するなどして生計を助けていたが、
最近になって、路上販売を休みがちとなったころより、
「音が気になり」はじめ、「この音が睡眠を害する」「この音のする元を殴りたい」
「殴って静かにしたい」と考えるようになり、その音源が被害者宅であることを特定し、
殴るならば片手で持ちやすい鍋であれば殴りやすいだろうなどと考えて、鍋を持って被害者宅を訪問し、
ドアを開けるなり被害者を鍋で殴りつけるといった起訴状にある犯行に及んだとのことだ。

ここまでの話を聞いて、音の実態について法廷で言及されなかったが、
どうやらそうした事実はなかったようだ。
こうなれば、単純に傷害罪となるはずなのだが、ここから公判は迷走をはじめる。
弁護人が、起訴内容は同意するが「責任能力で異議あり」と主張。
これから主治医に被告の責任能力の有無を診断してもらうとのことだ。
また今後の審議もこの責任能力の有無で争うか、
それとも情状酌量を訴えるかのどちらの方針で進めていくかについて被告人と相談して決めるとのことだった。

う~ん、何だろう、釈然としない。
弁護側は、被告が犯行時に殴打した対象が、
「ヒト」であるか「モノ」であるかの判別がつかなかったと言いたいのだろうか?
それに、もしその判別がつかない程度に被告の症状が重いと、
今後被告は、おそらく医療的措置となる可能性が高まり、生活を制限されることとなるため、
相談するという話なのであろうが・・・。

ただ殴打した対象の弁別がつかないほど症状が悪化しているのであれば、
選択の余地はないとUNICOは考える。そうしないと被害者が堪らないはずだ。
そもそもそれほどまで症状が悪化している可能性がある者と、
今後のことを相談すること自体、あまり意味がないことのように思われるのだが・・・。

裁判傍聴をより楽しむための基礎知識

今更の感は否めないが、ここで裁判の種類について書いてみる。
裁判には大きく分けて、刑事裁判と民事裁判とがある。
これまでにUNICOが書いてきた裁判はすべて刑事裁判だ。

それでは、なぜ刑事裁判が行われるのだろうか?
簡単に言えば、犯罪を犯したとされる被告に対して、
本当に悪意を持って犯罪を犯したのか、もしそれが本当ならば相当の罰を受けて貰おうじゃないか、
といったことを検討するために行われるものである。
そして、刑事裁判では検察官が主体となって被告の罪をひとつずつ立証をしていく。
検察が立証しなければならないことのひとつめが「構成要件該当性」と呼ばれるもの。
ふたつめは「違法性」。そして最後に被告人の「責任能力」についてである。
もちろん裁判の中で被告にも言い分、主義主張はあるはず。
これを法廷で代弁してくれるのが弁護人というわけだ。

ここでひとつ疑問が浮かんでくる。
一体検察は、何を根拠に被告の取った行動が犯罪に該当すると主張するのだろうか。
もし犯罪という行動の分類に明確な基準がなければ、おちおちと日常を過ごせない、
といったことにもなりかねない。
そこで、こういう行動を取ったらこれくらいの罪になりますよ・・・といった基になる法律がある。
メジャーなのものに刑法がある。
基本的に刑法は「日本国内において罪を犯したすべての者に適用する」と条文にある。
これは刑法の適用は、日本国内に住むものならば老若男女を問わないということを意味する。

例えば「子どものときに万引きをやったことがあるわ」
などと酔ったおっさんたちが話すのを結構耳にするが、
これを刑法の条文に当てはめてみると、第235条「窃盗罪」に該当する立派な犯罪行為となるのだ。
そして、その罰についても「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金の刑に処する」
ときっちり決められているわけである。
これは裏を返せば、一時期問題となった脱法ハーブといった大麻と同様の作用がある薬物を使用した場合にも、
犯罪の根拠となる刑法他関連諸法規にその含有成分が禁止薬物として指定されていなかったため、
罰することができなかったということになってしまうのだ。

・・・若干話が逸れたので元に戻すと、
検察は、被告がこうした法律に載っている行為をしたことを警察の捜査を基に立証すれば、
「構成要件該当性」があるとすることができ、被告の行為が構成要件に該当しているということになれば、
関連法規の条文にある行為は、他人に不利益を与える行為であることを予期したものであるということが
立証されたこととなり、「違法性」をも立証したことになるとされている(通説)。
これを被告が明確な悪意を持って、万引きしたことを検察が立証すれば、
「構成要件該当性」と「違法性」との2つのことを立証したことになるというわけである。

実際の公判の流れで考えてみると、検察からの「起訴状の朗読」と呼ばれるものがある。
ここで被告と弁護人とが「異議はありません」とあっさり認めると、
「構成要件該当性」と「違法性」との立証が成立したということになるわけだ。
もし被告側が、起訴状に対して「自分はやっていない」と異議を申し立てると、
今度は被告側が、検察が提示した証拠に対して、ひとつひとつ反証していく必要が出てくるわけだ。
これを昨今の裁判のスピード化の流れに照らせば、審議に入る前に検察側と弁護側とが、
事前に打ち合わせを済ませているため、僅か40分余りの時間で結審まで進めることが可能となるのだ。

ここまで来ると法廷での争点は、被告人の責任能力の有無になってくる。
責任能力の有無が問われるものの典型例を示すならば、
未成年の犯行を挙げることができる。
未成年も日本国内に住むものであるため、刑法の適用を受ける。
それなのに、なぜ未成年は刑務所に入らないことが多いのか?
それは少年法という特別法があるためである。
特別法である少年法は、一般法である刑法よりも優先される。

これを上で挙げた「万引き」の例で考えてみると、
「万引きをする」→「刑法235条の窃盗罪に該当する」→「未成年の被告が犯行を認める」
→「構成要件該当性」と「違法性」が立証される→犯行時の責任能力について吟味する
→その罪の重さについての理解がある→窃盗の法廷刑である
※10年以下の懲役又は50万円以下の罰金といった罰を受けるといった流れになるのだが、
未成年の場合は、上のフローにおいて「犯行時の責任能力」の部分で、
「判断能力も未熟だし、罪を犯した重大さの理解もおぼつかない」となり、
「未だ若いし、将来もあることだから少々罰を負けてやろう」となって減刑となるわけである。

ゆえに、少年法が適用される年齢だからといって犯罪行為は犯罪行為なのである。
言うなれば、年齢を問わず、悪いことは悪いことなのであり、それに応じた罰を受けるところまでは同じである。
しかし未成年は、責任能力の面で、成人したものと同様の「事の重大さ」の理解があるとは考えにくいため、
減刑措置や不起訴処分などといった結果になってしまうことになるのだ。
これが被告の責任能力と呼ばれる部分になる。

もし犯行が成人であれば、被告の責任能力があるということを検察が立証するというよりは、
被告側が、その時は何らかの事情で責任能力がなかったことを立証することとなるわけだ。

長い前振りとなったが、今回このようなことをUPしたのは、
次回にその「責任能力」が争点となった公判の記録をUPしようといるためである。

(了)