裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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詐欺 手口

<現代版>青年よ、大志を抱け!(後編)

「10万円を資金するので口座を作ってそのキャッシュカードを譲ってほしい」
「作った通帳は被告が使用していい」と見ず知らずの人から電話で言われ、
言われるままに、フラフラとゆうちょ銀行へ行き、口座を作って、
見ず知らずの相手にキャッシュカードを送付した教員志望の被告。
こんなゆるい被告を守るため、仏壇弁護士は母を証言台に呼びよせ、
続く被告人質問では、絶妙な演出をして有利に裁判を進めることに成功した。
しかし、その後の吹石似検事からの被告人質問で、
仏壇弁護士が築き上げた勝ちパターンを吹石似が完全にぶち壊し、
もはやKO寸前にまで追い込まれた教員志望・・・ここからどこまで巻き返せるのだろうか。
☆  ☆  ☆
その後裁判長が沈黙を破った。被告人への質問だ。
「今回の事件についてどう思っているの?」
「事件に対して思うことは、両親や家族を本当に辛い思いをさせてしまったことに対して、
本当に後悔の気持ちで一杯です」
「今回の事件は社会で起きている犯罪を助長したんですよね?」
「はい」
「俺も被害者何だって!!」という被告のこころの声が聞こえてきそうな勢いだ。

「通信制大学に行っていますが、今後はどうするつもりですか?」
「教員免許を取得できる過程ですので、今後は教員となって生活をしていこうと考えています」
どこまでおめでたい人なのだろうか。
前科つきの被告を採用するほど教育委員会は理想を追求する集団ではない。

「今回の詐欺の刑罰は懲役刑しか規定されていません。
それだけの事件を起こしたということだよ・・・」
「はい」
やんわりと教員以外の道を促す裁判長の助言は、被告には届いていないようだった。
☆  ☆  ☆
注目の求刑。
「行為が悪質です。10万円を貰えるという理由で組織犯罪を助長し、
実際にその口座は振り込め詐欺に利用されています。
動機も報酬欲しさといった自己中心的な理由であり情状の余地はありません。
昨今組織的、社会的犯罪として問題になっている振り込め詐欺に加担したというのは、
一般的な犯罪予防的見地に立つと厳罰が求められます。
また今回被害にあった郵便局も第三者譲渡をしないように周知しているのを無にするもので、
被告を厳重に処罰してほしいという希望もあります。
求刑は懲役1年6か月を相当と思料します」
極めて妥当な求刑だと感じた。

これを受けて仏壇弁護士の答弁。
「起訴事実は争いません。以下に被告の斟酌する事情を述べます。
①直接の罪は重大ではないこと。実際の被害は通帳、キャッシュカードの各1通ずつのみであること、
②報酬、金銭的には何も得ていないこと、ただ誘いに乗っただけであること。
また今後は自らが働いて稼ぐと言っており、再犯の可能性はなく二度と同じ事件をおこさないこと、
③犯行の動機も口座を作っただけで、被告は犯罪に利用されるまで想像が及ばなかったこと、
被告自体も誰かに騙されたといった側面があること、
④被告は事件のことを悔やんでいること、
未だ若くてやり直せること、今後は母が監督をすることなどの理由からもぜひ寛大な判決を」
仏壇弁護士の主張はやはり勝手な主張に感じてしまう。

そして、被告人の最終陳述。
「自分がしたことを今後の人生に行かして、
社会のためになれるように、社会貢献をしていきたいと思います」

・・・こうして、結審を迎えるのだった。
☆  ☆  ☆
この教員志望の被告は仏壇弁護士の主張では「若い」とあったが、もう26歳。
あまりにも一般常識が欠落した被告であったように感じた。

「ゆとり教育」が叫ばれ、その学力低下ばかりがクローズアップされていたが、
この被告を見ていると一番低下したものは、案外一般常識ではなかろうか。
そんな被告の口から「社会貢献」という口先だけの言葉が聞けただけでも、
今回の傍聴は、拾い物であったのかもしれないが。
(了)

<現代版>青年よ、大志を抱け!(中編3)

「10万円を資金するので口座を作ってそのキャッシュカードを譲ってほしい」
「作った通帳は被告が使用していい」とある人から言われ、
言われるままに、フラフラとゆうちょ銀行へ行き、口座を作った教員志望の被告。
こんなゆるい被告を守るため、仏壇弁護士は母を証人として喚問するもあえなく撃沈した。
しかし、被告人質問ではなかなかの構成・演出力を見せつけて、
若干傍聴人たちの心をつかみ、裁判を有利に運ぶことに成功した。
ただそうはさせまいと、「切れモノ」吹石似検事が被告人の前に立ち憚る!!
☆  ☆  ☆
「事件の経緯ですが、口座開設の依頼主より電話があったのですか?」
「はい」
「口座開設の依頼をして来た人物のことをまったく知らないのに口座を作って、
それをその人物に渡したということですね、本当は心当たりがあったのではないですか?」
「ないです」
「本当に全く心当たりはないのですか?」
「ないです」
少しずつ事件の内容が明らかになっていく。
ここまで聞いているだけでも恐ろしい話だ。

「パチンコのサクラのアルバイトとはどういったことをするのですか?」
「パチンコのサクラをやるにしても先ず軍資金が要るのでこちらから10万円を渡す。
それでその作った通帳にバイトの報酬が入ってくるという話でした」
・・・うん!?

「口座開設の依頼人はあなたにどうやって10万円を渡すと言っていましたか?」
「先ずは自分名義の口座を作り、そのキャッシュカードを口座開設の依頼人へ送り、
そこに口座開設の依頼人が10万円を振り込むので、自分は通帳で引きだすといった感じです」
一瞬、被告は一体何を言っているのかと一瞬耳を疑った。
そのあと、被告に口座振替という文明の利器があることを
傍聴席より伝えてあげたい気持ちで一杯になった。

「それであなたはどうやって口座開設の依頼人にキャッシュカードを渡したのですか?」
「携帯で指示された通り、ゆうパックを使って指定した住所へ送るといったものでした」
ここまで来るとこの被告はホンマモンの人であるか、
嘘を吐いているかのどちらかしかないことになる。

「おかしいとは思わない?
いきなり知らない人から電話が掛かって来て『キャッシュカードを送れ』って。
何か犯罪に使用されるとか思わなかった?」
言いたいことをきっちり言ってくれる、吹石似はそんな検事だ。

「そのときはパチンコのサクラのバイトだと思っていたので考え付きませんでした」
「それで今、考えたらどうですか?」
「何かの犯罪に使われる可能性は否定できないと思います」
つくづくトホホな回答である。
これで仏壇弁護士の秋元康張りの奇跡の演出は完全に台無しである。

「振り込め詐欺って知っていますか?」
「はい」
「今回のことであなたは犯罪を手伝ったという自覚はありますか?」
「はい」
「それではなぜ当時はそう思わなかったのですか?」
「まず経済状況が逼迫していましたので・・・」
余りにも芸のない回答だ。
それとも、お金がないことを言えば許して貰えるとでも考えているのだろうか。

「生活費は家族ですよね、それなのにどうしてそんなに逼迫するのですか?」
「会社を辞めて、病気になって・・・。
会社は急に辞めたので、お金が貯まらないうちだったので・・・。
その状態で学費や携帯代を親に甘えたくないと思い、自分で支払っていましたので・・・。
収入がない状態だったのでかなり逼迫してしまいました」
ハハハ、親に甘えたくないときましたか。だから社会に甘えるわけですね、この教員志望は!

「今はどう思っていますか?」
「あまり詳しく分からないですが、振り込め詐欺の被害者が居て、
それで騙されて、お金を盗られた人が居る、その方に対して申し訳ない気持ちで一杯です」
心にもないことを話している。これほどまでに分かり易いサンプルを見たことがない。

「郵便局を騙した自覚はありますか?」
「はい」
「郵便局がこうしたことのための措置を講じている。
そのことに対して費用が多く掛かっていることを知っていますか?」
「はい」
晴れ舞台を物の見事にぶち壊された仏壇弁護士が、見兼ねて被告へ質問をする。
「口座開設依頼人より10万円を受け取ったの?」
「受け取っていません」

まさに焼け石に水。
教員志望の被告は、もはや真っ黒である。

 
<現代版>青年よ、大志を抱け!(後編)へ続く

<現代版>青年よ、大志を抱け!(中編)

「10万円を資金するので口座を作ってそのキャッシュカードを譲ってほしい」
「作った通帳は被告が使用していい」とある人から言われ、
その言われるままに、フラフラとゆうちょ銀行へ行き、口座を作った教員志望の被告。

そんな被告の弁護の為、仏壇弁護士が準備した立証は、
書証として被告の反省文、情状証人として母を喚問。仏壇弁護士からの証人質問だ。

傍聴席から60歳くらいの母が証言台へ向かう。
被告の母は宣誓前から既に泣いている。悲痛な表情だ。

「被告との関係は?」「被告の母です」
「仕事は何をやっているのですか?」
「こどもに関わる仕事です」
よくあるパターンである。

「いつ今回の事件のことを知りましたか?」
「昨年11月です」
「どういった経緯で事件のことを知りましたか?」
「警察から電話があり、その時主人も一緒に居ました。
そして子どもが帰ってきたので、話を聞きました」
「話を聞いてどう思いましたか?」
「普段は何でも話してくれるので、何でこのことを話してくれなかったのかと思いました。
それも人に迷惑を掛けるようなことをして・・・信じられない・・・すごくショックです」
自分の都合の悪い話は隠す・・・この被告には教員の素質は十分のようだ。

「被告はこのような事件を起こしてしまった考えられる原因は何ですか?」
「会社を辞めた後、毎月の支払いもあり、親に迷惑を掛けてはいけないと思って、焦った結果かなぁと」
なるほど。焦りは人の正常な判断を鈍らせると言いたいのだろうか。

「今後どうしたらいいですか?」
「楽なことに騙されず、一所懸命に働いて、困ったら親に相談するようにしてほしい」
「今後は一緒に住みますか?」
「はい、一緒に住みます」
「監督は?」
「します」
仏壇弁護士は、なかなかシンプルで的を射た質問内容であった。

続く、吹石似検事からの証人質問。
「事件当時から同居をしていましたか?」「はい」
「被告がお金に困っていることを知っていましたか?」
「知らなかったです」
早くも証人の監督能力がないことを立証することに成功した吹石。巧者である。

「お金のやりくりはどうですか?」
「朝からと夜からとバイトをしていましたので・・・。
お金に困っているのは、学費、本代、携帯電話などや趣味をやっているが、
うまくやりくりはしていると思っていました」
「生活費はどうしていますか?」
「実家で持っています」
「その他は被告が使っているということですか?」「はい」
これで、被告の奔放さも立証できたわけだ。

「どうして今回やったのかを被告と話し合いましたか?」
「お金の支払いに困っていたらしく、お金が必要だったのだと思いました」
なぜか最後に自分の考えを織り交ぜて証言してしまう証人。
きちんと話し合いができていないことも立証できた訳だ。

「どういった内容を話しましたか?」
「嘘を吐くなと言いました。
育ててきた人の立場からすれば、困ったことは何で言ってくれなかったのかと言いました」
「今後のことは話し合いで決めていくのですか?」
「はい、話し合いながら決めていきたいと考えています」
「今後困っている時には援助をしますか?」
「はい」
「終わります」
この間も母は始終泣いている。
見ていると怒りと情けなさに打ち震えている様子が見てとることができた。

ただここまでの裁判を傍聴席から見ている限りでは、圧倒的に検察側が有利に見える。
何か秘策はあるのか、仏壇弁護士!!

 
<現代版>青年よ、大志を抱け!(中編2)へ続く

<現代版>青年よ、大志を抱け!(前編)

ここに薄っぺらい感じを受ける被告がいる。
リクルートスーツに身を包む被告は現在26歳。大学生であるとのこと。
市場調査などの会社へ就職後、教員を目指すべく再び大学生となったらしい。
婚姻歴はなく、現在は両親と姉と一緒に暮らしている。
これまでに前科前歴はない。
そんな教員志望の被告、教師の定番、痴漢でもやったのだろうか。

吹石似の検事が、相変わらず緊張感のない口調で、
ゆっくりと、それでいて堂々と起訴状を読み上げる。

被告は第三者に使わせるような考えを持ちながら郵便局へ赴き、
ゆうちょ銀行の係員に対し、さも自分自身で使用するように装い、
総合口座1通を交付させ、その後同年12月にキャッシュカード1枚を交付させたことによるもの。
詐欺罪、刑法250条。

そして裁判長が被告人へ「間違いはないか」と質問をすると、
直ぐに答えず、仏壇弁護士に同意を求める教員志望の被告。
なぜ自分のやったことに対して答えられないのかと疑問に思うUNICO。
そして、なかなか答えようとしない教員志望の被告に対して、
西田さんといった感じの裁判長が、
「打ち合わせがあるならしてもらっても構いませんよ」
と助け舟を出して、ようやく起訴状の内容を認めることができた教員志望の被告。
この言動を見て、教育委員会の顔色を見ながら対応する教員の姿が重なった。
◇  ◇  ◇
そして、吹石似検事からの冒頭陳述。
冒頭陳述になると途端に、切れ良くハキハキと読み上げるのはなぜかは分からない。

今回の事件が発覚したのは、郵便局からセキュリティの掛かった通帳を
使用している人がいるとの110番通報を受けたことによるもの。
そのセキュリティの掛かった通帳というのが被告名義であった。

被告名義の通帳は、以前に振り込め詐欺に使用されていると認定されており、
ゆうちょ銀行が凍結をしていたのだ。
ゆうちょ銀行側は、被告の逮捕後にこう話している。
「第三者等への譲渡を禁止することを通帳開設時に毎回確認しているが、
網を抜けるようにして通帳開設が行われることに頭を悩ませている。
また自社の通帳が振り込め詐欺に使用されたことに対して、強い憤りを感じている」
ご尤もな意見である。

そして逮捕後の教員志望の供述。
「○○○○(人名)から10万円を資金するので口座を作って、
そのキャッシュカードを譲ってほしい、通帳は被告が使用していい」と言われたとのこと。
全く以て、意味が分からない。

 

 

<現代版>青年よ、大志を抱け!(中編)へ続く

似たもの同士!?(前編)

前の裁判時間が予定時間を押してしまい、今法廷は予定開廷時間をかなり過ぎていた。
この法廷を任されている堅物裁判長は、そのことを気にして少し焦っているようだった。

そこへゲンゴロウ弁護士がスーッと入廷し、
普通ならばそのまま着席するところを着席せず、
そのまま裁判長の近くに歩み寄り、
「うちはすぐに終わりますよ」
と小声で話しかけると、そのまま笑顔で着席した。
その言葉に何とも困った反応を示す堅物裁判長。

このやりとりを見て、思わずこの裁判の罪名を確認するUNICO。
そこには「詐欺」と書かれてある。
被告は犯行を素直に認め、サクサクと公判を進めるということであろうか。
+ + +
そこへ法廷警備員に連れられた目つきの頗る悪い被告が、
ふてぶてしく入廷されてきた。
この被告の顔を見て、ゲンゴロウの言葉に疑問を抱くUNICO。
本当に大丈夫なのだろうか。

裁判長から開廷が告げられ、被告が証言台へ。
まずは本人確認なのだが、裁判長からの質問に対して、
「えぇ、そうですよ」
と答える目つきの頗る悪い被告のそれは、
他者と比べるとぞんざいに類する。
何か考えがあってのことだろうか。

そして、検察からの起訴状の朗読へと進む。
吹石一恵似、タヌキ顔の検事が立ち上がり朗読がはじめる。
何とも緊張感の乏しい、それでいて無駄に堂々とした大きめの声で、
法廷内に違った緊張感が走ることとなる。
「被告は、金銭を払う意志も能力もないのにその能力があるように装い、
○○署まで1,220円分をタクシーに乗車したことによるもの」
とのことだった。

ここで、被告と弁護人が今回の起訴内容について、
認めるか、認めないかの意見を求められ、
被告は犯行を素直に認めると、そのまま証拠調べとなり、
サクサクと裁判は進むことになる。
しかし、この裁判は違った。

「一切違いますね、全く違う所やし、全然違う。
無罪を訴えますし。そもそも乗った覚えもないし、
それに無料乗車にして貰っているから一旦会社へ行けと言ったのに違う所へ行くし」
とキレ気味に話す被告。これは真っ向対立の様相だ。
こうなると裁判は時間が掛かると思われるが・・・。
ゲンゴロウ、何が「直ぐに終わります」なのだろうか。

そして、なぜかなし崩し的に、被告人質問となっていくのだった。

 
似たもの同士!?(後編)へ続く