裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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警官 不祥事

pride(結審編)

落ちていた覚せい剤を拾って抽斗に隠し、
証拠隠滅と覚せい剤取締法違反で起訴された元警察官。
イカツイ体格にいかにも警察官といった厳格なその表情とは裏腹な
あまりにもスケールの小さい事件である。
この事件を引き起こしてしまった至った被告の言い分の続き。
◆  ◆  ◇

 

ボソ検からの被告人質問。
「昨年12月に停職処分となりましたね?」
「その同日に依願退職しました」
「数日経つと検挙は難しいとありましたが、他にやり方はあったのでは。
指紋を調べるとか。そういったことを考えませんでしたか?」
「その時にはそういった考えを持っていませんでした」
「帰って来てから指紋を照合すれば、もしかして前科者リストなどから割り出せたのでは?」
「その時は思いませんでした」

「人定質問をしないと叱責をされるの?」
「過去にそういった話を聞いたことがありますので・・・」
「それが何!? それで自分の評価が下がるとでも思った?」
ボソボソ話すボソ検には珍しく強い語調だ。正義の味方・ボソ検といったところか。

「まぁ評価が下がるというよりは(厭味を)言われたくないと思いました」
「何者かが通報すると心配だったのですか?」
「それは本当です」
「わざわざそんなことがありますか?」
「一般的にはありません。××(地名)だったのでそういうところもあるかと思っていました」
いかにも公務員らしい発想である。

「同僚の方を心配しなかったの?」
「考えたこともありましたが、その時は何とか言おうかなと」
「嘘をつくとか?」
「その時に考えようと」
「口止めは?」
「していないです」
嘘と言い逃れとは違う。被告はそう主張しているのであろう。

「覚せい剤を発見するのは経験が必要なのでは?」
「はい」
「見つけたら終わりだけではなく経験でしょ?
同僚はあなたのことを素晴らしい行動力だと言っていました。
今回の事件の問題はあなただよね?」
テンションが上がったボソ検の質問はその意図が見えにくかった。
沈黙する被告に対して、マンネリ弁護士が助け舟を出す。

「覚せい剤は現認では見つけにくいのですか?」
「通常は車を被疑者の真横で止めるのですが、この時は歩道がありましたので、
それで被疑者の前方まで行って、被疑者を追い越してから職質をしましたので、
その時に捨てたのではないかと思いました」

「車の運転は被告、助手席に同僚だったの?」
「はい」
先ほどとは矛盾しているようだが。

「途中で捨てたのを見付けるのは同僚には未だ難しいと思った?
さらに当時は現認があるものはいいが、ないものはちょっと喜ばれないという感じだったのですか?」
「そうですね」
「もう1回引き返して身に行ったのはなぜ?」
「同僚が現認、自分が指導する立場でしたので、
投棄されたのを見つけて「目を離すからやで」と指導するつもりでした」
「そのあとに管轄警察署に持って行けばよかったのでは?」
「はい」
裁判を傍聴していた誰もがそう感じた瞬間であった。

ここで欺瞞裁判長が沈黙を破る。
「その職務に5年程度従事していましたがそれは長い方ですか?」
「一般の人よりは長いと思いますが、それまでは殆ど接していなかったので・・・」
「引き継ぎは、管内で見つけた際は管内にするものなのですか?」
「正式には決まっていないが周辺の署に引き継ぐこととなっています」

「人定確認をしておらず、不詳・不完全な引き継ぎでは躊躇いが出たということですか?」
「はい」
「それで個人的に傷つくと考えたのでは?」
「ひとまず自分の気持ちが弱かった。
ただ指紋は刑事課員がするので自分ではしません。
『お願いします』と引き継ぐことになります」

「それでも犯人逮捕の機会を奪ったと考えますか?」
「はい」
「隊長でしたよね?」
「はい、その誇りはありました。
そのことで人定確認すらしないのかと言われ、隊の名に傷がつくのが嫌でした」
何という目先を追っただけの誇り・・・。

「それでも結局逮捕されていますよね?」
「迷惑を掛けました。
みんなに謝っても謝り切れない・・・自分が情けないです」
「これまでに不祥事を起こしたことは?」
「ありませんでした」

「今後仕事はどうなさるおつもりですか?」
「未だ全然頑張るつもりではありますが・・・最近アルバイトをはじめましたが」

「報道で警察官の不祥事が多いですよね?」
「はい」
「今となっては自分もそうなったがどう思っていますか?」
「迷惑を掛けるばっかりで本当に申し訳ないです」
◇  ◆  ◇
論告求刑では、テンションが上がっているボソ検が勢いそのままに、
朗々と被告の悪口を並び立て、懲役1年6か月を求刑した。
一方マンネリ弁護士は、執行猶予を訴えかけて・・・。
最後に、被告人の最終陳述。
「出世のためではありません」
そうボソ検を見ながらそう力強く語る被告に、
被告の中での美学を見た。

 

(了)

pride(中編)

落ちていた覚せい剤を拾って抽斗に隠し、
証拠隠滅と覚せい剤取締法違反で起訴された元警察官。
イカツイ体格にいかにも警察官といった厳格なその表情とは裏腹な
あまりにもスケールの小さい事件の概要が明らかとなる。
◇  ◇  ◇
ボソ検が期待を裏切らず、ボソボソと冒頭陳述をはじめた。
まずは被告の身上経歴から。
被告は19歳の時に入職し、以後巡査長、巡査部長と昇進を果たし、
退職時は警部補、機動隊警ら隊長時に懲戒処分を受けて即日依願退職した。

事件当時。
事前に無線が入り、警らを実施していた時に前から不審な男が歩いてきた。
その男を所持品検査で調べたところ所持金なし、覚せい剤も所持していなかったので、
人定質問をせずにそのまま解放した。

その後被告は「もしかして道中に捨てたのではないか」と思い、
不審人物が歩いてきた道を確認しに戻ると、
予想は的中、道には15×5cmの茶封筒を発見、
中には4×5cmの覚せい剤の入ったパックが見つかった。

人定質問をしておらず、身元も分からなかったため、
管轄警察署へ氏名不許者が所持した物として引き継ごうとした。
ここまでの行動は理解できる。
しかし、ここからの行動が被告は良くなかった。

被告は、管轄警察署へ引き継ぐ際に「人定質問をすらしていないのか」と咎められると考えた。
そして引き継ぎは、次の出勤時にしようと先延ばしにしてしまったのだ。
そのため、この日は覚せい剤を引き継ぎをせずに庁舎へ持ち帰り、
ひとまず自分の机の抽斗にしまったのだ。
この抽斗にしまった覚せい剤が次に陽の目を見たのは、
結局事件が発覚する当日であった。

事件当日。
被告は、普段覚せい剤の取り締まりをしていない別の課の警察官が、
覚せい剤の知識向上のため、アンプルを用いて簡易検査をやるという
情報を出先からキャッチする。
この時既に覚せい剤を発見してから、およそひと月半が経過しており、
管轄警察署へいよいよ引き継ぎができない時期となっており、
処分に困っていたところでのこの情報である。

これをチャンスと考えた被告。
別の課の警察官しか食堂に居ないことを確認したうえで、
被告は簡易検査の模擬練習を買って出る。
もちろん簡易検査では、本物の覚せい剤を使用することはない。
しかし被告は、簡易検査と称して、
自分の抽斗にしまってあった覚せい剤を処分したのだった。
そして残りの覚せい剤は、その勢いのまま喫煙所の灰皿代わりに使用していた
空缶の中で焼却処分したというものだった。
結局この行為がバレて、事件が発覚するというお粗末な結末を迎えたのだった。

「まさか本物とは思わなかった。
あの厳格な●●警部補がこのようなことをするとは・・・許されるならば仕事は続けて欲しい」
そう語るのは、食堂で「簡易検査」に同席した別の課の警察官の話。
「何とかすると言っていたのでとっくに引き継ぎをしたと思っていた」
と述べるのは、一緒に取締をしていた部下の話。

余りにも、お粗末すぎる理由で今回の事件を引き起こした被告。
これでは「さすが警察官」としか言いようがない。

 

 

pride(後編)に続く

pride(前編)

【汚職】

公職(公職以外の場合は背任)にある者が、その地位や職権を利用して、
収賄や個人の利益を図る不正行為を行うことをいう。
また汚職のうち、政治にからむ大規模な贈収賄事件や、
犯罪の事実が特定しにくく判決のむずかしい裁判事件のことを、特に疑獄(ぎごく)という。
警察用語では「汚」の部首からサンズイとも呼ばれる(出典:WIKI)。
◇  ◇  ◇
最近では、この汚職と呼ばれるものはそう珍しいものではなくなった。
そして、UNICOの前に居るこの被告もまた「汚職」に手を染めてしまったとのことだ。
この被告の元々の職業は、警察官であったとのこと。
その精悍な表情と姿勢の正しい被告を見ると、確かにと納得することができる。
しかし、今回起訴されている罪名は、そんなTHE警察官といった本人像とはかけ離れた
証拠隠滅、覚せい剤取締法違反である。

ひとまずボソ検の読み上げた起訴状の内容は以下の通り。
①H23年5月。
機動警ら中に、×××にて覚せい剤の遺留物を発見した。
その後近くに居た不審者に職務質問をするも人定質問を怠り、
そのことを誹謗・中傷されることを免れるために、自分の机の抽斗にしまっていた。
(刑法第104条:証拠隠滅)

②後日警察庁舎の食堂及び灰皿にて、メチルプロパンが使用された痕跡が発見されたことによるもの。
(刑法41条の2第1項)

落ちていた覚せい剤を拾って抽斗に隠していたが、
後日使ってしまったという話だろうか。
ただなぜ直ぐに使わなかったのかがよく分からない。

 
pride(中編)へ続く