裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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熱き男の友情(完結編)

熱き男の友情(完結編)

いよいよとばかりに冷静極まりない乾燥剤検事が、
ハゲ武者の涙・涙の演出に待ったをかけるべく立ち上がった。

「いつからチチクリ坊やと鉄屑を盗んだりしているのですか?」
いきなり核心を突く質問をぶつけたその時、
―異議あり!! それは盗んだのとは違う!!
その声の主は、ハゲ武者の涙の演出をアシストしたお蔵入り弁護士だ。
「盗んだという表現は誤解を与えかねないので相応しくありません」
と声を荒げるお蔵入りに対して、
「分かりました」
と乾燥剤は意外なほどあっさりと折れたのだった。
おそらく落としどころが違ったのだろう。
* * *
「それでは、町工場の敷地内の鉄屑を盗んだことは?」
この質問の仕方に対して、未だ異議ありげなお蔵入り弁護士であったが、
ぐっと堪えている姿が印象的であった。
そんなお蔵入りの様子を知ってか知らずか、
「ないです」
とあっさり答えるハゲ武者。

「他人のものかもしれないとは思わなかったの?」
「・・・微妙に要らないものだろうという気持ちでやっていました。
おそらく使わないだろうと思って・・・」
「工場の敷地外とは具体的な場所で言うとどこですか?」
「み、溝から外れたところです」
と少し焦るハゲ武者。このまま持ち堪えることができるのか。

「持ち出しはじめたのはいつからですか?」
「1年8ヶ月くらい前からです」
「その頃は廃品回収業を行っていたのではないのですか?」
「はい」
「その時の収入は月にいくらくらいですか?」
「・・・15万円程度です」
「15万円で生活は無理?」
ハゲ武者にとって、我慢の時間が続く。
「ギリギリ・・・何とかいけていましたが」
と渋々答えるハゲ武者。そろそろ討死するかもしれない。

「お兄ちゃんとは1年6か月前から電線を盗っていたの?」
「ちょうど知り合ったころからです」
「電線を盗ったのは何回くらい?」
「8回位です」
「手元に入ったこれまでの分け前の総額は?」
「はっきりとはわかりませんが、・・・50万円程度」
「15万円程度あったのになぜ?」
「手取りは10万円程度しかなかった、鉄屑を合わせて15万円・・・」
ハゲ武者にとって不利な質問がようやく終わって、
ホッとしていた矢先のことだっただけに、支離滅裂な回答となってしまったようだ。

「今後は?」
「もう少し真面目に頑張っていればいけたのにと思います」
「真面目にとは?」
「8時~17時までやれば15万円程度にはなると思います」
「それをやらずに他のことをするのはなぜですか?」
「お金が多少・・・収入がそちらの方がいいと思ったからです」
完全に墓穴を掘ったハゲ武者が、落ち武者になるのも時間の問題か。

「鉄屑を集めた方が多少お金がいいということですか?」
「多少いいですし、それにお客さんと接しなくてもいいので・・・」
「接客は煩わしい?」
「煩わしいというか、ちょっと苦手なところがありまして」
起死回生の一発であった。
なぜかハゲ武者に多少同情をしてしまうのはUNICOだけか。

「こういったことは止めようとは思わなかったの?」
「毎日これでやめようと思っていました」
「なぜやめられなかった?」
「単純に悪いことをしたと思っています」
「なぜ続けたの?」
「誘惑にかられてしまいました」
「誘惑とは?」
「お金を得れるということです」

「今後廃品回収業で頑張りたいの?」
「父にもお願いし、それで会社も一応来て貰ってもいいですよ、
とあったので、またやっていきたいと思っています」
「今後続けていけるのですか?」
「自分としては苦手な部分を克服して、人と接しないといけないと思いました」
ハゲ武者の発言に対して、思わず頑張れと感じてしまった。

「今後チチクリ坊やとは?」
「年上なのに申し訳ないという気持ちもあり、
今後お互い真面目にやっていければと思います」
「申し訳ない気持ちとは?」
「年上なのに窃盗の道に進ませてしまったという気持ちがあります」
「チチクリ坊やとの関係は今後も継続するの?」
「・・・深くは考えていませんでしたが、ともかくお互いが働くことを前提として、
社会復帰できるように、友人関係を続けていきたいと思っています」
ここまで来ると、ハゲ武者のいい人柄ばかりが印象に残る。

「お兄ちゃんとは?」
「付き合うのはやめようかと」
「逃げた後はお兄ちゃんと連絡は取った?」
「お兄ちゃんとは連絡を取っていない」
「終わります」
と言って着席する乾燥剤の表情は動かない。
* * *
続いて裁判長がそれとなく質問をはじめる。
「犯行で使用した軽トラはどうしたの?」
「廃品回収の会社から借りたもので、寝泊まりにも使用していました」
「借りたものを犯罪に使うのは悪いことだとは思わなかったの?」
「思いました」
「それなのになぜ使ったの?」
「お金が欲しかった」
「廃品回収での仕事内容は?」
「いらない扇風機や、TVなどの電化製品を回収する仕事です」
「その時に会社から言われている注意点は何ですか?」
「お客さんには丁寧に接するようにと言われています」
「お客さんのものを勝手に持って行っていいと教えられましたか?」
「言われていません」
「やはり持って行っていいか聞くわけですよね?」
「はい」
「何でもかんでも自分で判断して持っていったらダメですよね?」
「はい」
「鉄屑も一緒ですよね?」
「はい」
「勝手に持って行くのはマズイ話ですよね?」
「はい」
「お父さんがこの仕事は分別が大事だと言っていましたが、
あなたにはその分別がなかったんですよ?」
「はい」
「お父さんが心配する気持ちが分かりませんか?」
「はい」
諭すように語りかける裁判長。

「今後気を付ける点は何ですか?」
「分別を弁えながら真面目にやっていきます」
「楽をして金は稼げないということは分かるよね、
それはみんながしていることですよね、分かりますね?」
「はい」
再び諭す裁判長。

「付き合っている女性とは連絡が取れたの?」
「年末から連絡が取れていません」
「結婚を考えているのならなぜこんなことをしたの?」
「お金が貯まればアパートを借りようと思っていました」
「盗みながらではマズイよね? 廃品回収の会社では何時間くらい働いていたの?」
「昼に3時間くらいです。あとは鉄屑を拾っていました」

「休みは?」
「週に1回位です」
「週に1回の休みでも、1日2、3時間では無理ですよね。
以前に同じ仕事の人の法廷があり言っていましたが、
1日やってもなかなか集まらないと話していました。なぜ1日やれないの?」
「誘惑に負けてしまいました」
「一人だけならまだ分からないではないが、結婚したい相手が居るのに・・・、
どう考えていたの、未来については?」
「これまでずっと悪いことをしながらでしたので、
悪いことをやめてから結婚しようと考えていました」
ハゲ武者のこの言葉を受けて、諭し好きの裁判長のスイッチが入った。

「それで貯金できたとして、新しい家には盗んだもので買ったものがある。
そんな家に住みたいの?」
「いいえ」
「今後2人で居たいならその生活は止めなさい。
そして、どうすれば幸せにやれるかを真面目に考えていきなさい」
「はい」
「またチチクリ坊やとの関係も、一緒に居て悪い気持ちが
おこってくるようならば付き合いを止めなさい」
「はい」

こうして被告人質問が終わる。
* * *
乾燥剤からの求刑。
計画的で手馴れていること、未遂とは言え電線を切断したことで実損もあること。
また働かずに金銭を得ようとしているなど悪質である。
また「ほぐす」「切る」といった行為も犯行には不可欠な重要な役割を担っている。
チチクリ坊やは、前科はないが前歴として自転車窃盗で不起訴となったものがあること、
ハゲ武者は前科1犯前歴2犯で累犯性もあるので、それぞれ懲役1年が妥当である。
ハゲ武者とチチクリ坊やの求刑が同じというのは、些かチチクリ坊やにとっては厳しい現実だ。

よってチチクリ坊やの弁護人が弁論する。
「執行猶予が相当です。これまでに電線の窃盗は7回やっているが、
分け前を見ても従属犯に相当するものであること、犯行後素直に認めていること、
初の身体拘束でもあること、36歳とまだ若く更正は可能なこと、
監督者は居ないが本人は真面目にやるとも言っていること、またそれを誓っていることを勘案して頂きたい。

そして、お蔵入りの弁論。
「従属犯であることが窺えること、これまでの電線はすべて解体、閉鎖工場内で
行われたものであり、また実用性がないものでありその何れもが廃品に近いこと、
自ら出頭していること、前回犯行後12年が経過していることなどから再犯の可能性は低いので、
ぜひ情状酌量をお願いしたい次第です」
と敢えて執行猶予を述べなかった。

最後に被告人の最終陳述。
先発は、チチクリ坊や。
「ないです」
とあっさりと終わる。
そしてハゲ武者が前に出る。
「ご迷惑をお掛けしました。
今後は一所懸命働いて真面目にやっていきたいと考えています・・・」
ここまで来て最後の仕上げ、涙の演出だ。
「・・・・・・本当に、申し訳ないことをしました」
そう言ってうな垂れるハゲ武者。すべてを出し切っている。
説教好きの裁判長に、この熱い思いは届いたのだろうか。
* * *
判決は来る2月6日(水)の予定であり、未だ下っていない。
この事件には特有の難しさがある。人の所有物かそれとも廃品なのか。
裁判所はこれまでは、廃品と見なしているため、窃盗未遂で起訴しているのだ。
ただ罪名には出てきていないが、不法侵入との併合罪となっており、
また廃品であれ、累犯性を予期するものであるため、
すんなりと執行猶予とはいかないのかもしれない。
更に再犯の可能性で言えば、チチクリ坊やには身元引受人の姿がなく、
天涯孤独に近い状態のようであり、再犯の可能性は決して低くない。
ただ極私的な判断として、今回のみ双方ともに懲役1年、執行猶予4年でどうだろうか。
説教好き裁判長!!

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