裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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熱き男の友情(後編)

熱き男の友情(後編)

チチクリ坊やへの質問が終わり、
次はお蔵入り弁護士からハゲ武者への被告人質問だ。
お蔵入り弁護士は、どうやって前科のあるハゲ武者の社会内更正を立証していくのか。
* * *
「公訴事実に間違いはありませんか?」
「はい」
「今回の犯行は誰に誘われたの?」
「お兄ちゃんです」
「どこの現場に行くのか、どうするのかもお兄ちゃんが指示を出していたの?」
「はい」
未だ逃走中にあるお兄ちゃんに責任をなすりつける作戦のようだ。

「お兄ちゃんには、いつどこで声を掛けられたの?」
「1年6か月程前に○○○(場所)で声を掛けられました」
「お兄ちゃんの名前や住所は?」
「いや、知りません」
「お兄ちゃんもあなたの名前を知らなかったの?」
「はい」
「なぜそれで一緒にやろうと思ったの?」
「深い意味はないが、声を掛けられたので・・・」
そう、しれーっと答えるハゲ武者。
見ず知らずの者から窃盗を持ちかけられて一緒に盗みをやってしまうのか。

「どうやって連絡を取っていたの?」
「お兄ちゃんから週に1回くらいこの場所に来てくれと言われて・・・」
「その次はいつ会おうかと約束するわけですか?」
「まぁ、そうですね」
「今回もそのやり方ですか?」
「はい」
「本件以外もそのやりかたですか?」
「はい」
そんな口約束だけで法を犯すというのは恐ろしい感覚である。
* * *
「今回警察官が来ましたが、その時あなたは逃げることができましたね」
「はい」
「それなのに後日、自分から警察に出頭しましたね?」
「はい」
「どういつもりで出頭したのですか?」
「申し訳ないことをしたと思いまして」
新たな展開である。ハゲ武者は自首をしたというのか。

「その時は、お兄ちゃんと一緒に逃げたのですか?」
「はい」
「ただ調書では、自動車を取りに来たことになっていますが、自分から出頭したんですよね?」
「そのつもりだったのですが、『何しに来たのか』と警察官に聞かれて動揺してしまい、
思わず『自動車を取りに来ました』と言ってしまいました」
恐ろしい言い訳である。
犯行現場に会社の車を置いてきてしまって、翌日困って取りに行っただけだろう。

「自分では自首のつもりだったのですね?」
「はい」
そんなことはまるでお構いなしといった具合に話を進めるお蔵入り弁護士。
ここまで来れば達人の域である。
* * *
「チチクリ坊やと一緒に鉄屑を盗んだことはあるの?」
「はい」
「どんな場所ですか?」
「川沿いとか・・・」
「それはどこかの敷地内ですか?」
「いや敷地の外です」
「落ちている鉄屑を拾ったのですね?」
「はい」
「もしかしたらどこかの会社の人の物かもとは思わなかったのですか?」
「捨てていると思われるものを拾っていましたので、そういったことは考えませんでした」
とシラを切り通すハゲ武者。

「今回みたいに敷地に入ったことはありますか?」
「いいえ」
「今回みたいに敷地の中に入ったのはお兄ちゃんに知り合ってからですか?」
「はい」
正体不明の実態のないお兄ちゃん。
しかし、その悪人像だけはどんどんと膨らんでくる。

「平成12年にも窃盗未遂で捕まって、その時は執行猶予となり、
その猶予期間中は何事もなく過ごしていたわけですが、
その間は何か仕事をしていたのですか?」
「左官をしていました」
「左官は長いのですか?」
「はい」

「現在の廃品回収業はいつからですか?」
「1年8ヶ月ほどです」
「現在住所不定となっていますが、具体的にはどこに住んでいたのですか?」
「今の会社で借りている車の中です」
車で寝泊まりか・・・。
ハゲ武者の荒んだ日常が浮き彫りとなってくる。

「今後はどうするつもりですか?」
「まず勤めていた会社へ謝罪に行きます。そして未だ雇ってくれるのならば続けたいと思います。
それでダメならば建築関係に行きたいと思っています」
「それを接見に来てくれたお父さんにもお願いをしましたね?」
「はい」
「お父さんは廃品回収業以外がいいのではないかと言っていますが、
やはりあなたは廃品がいいの?」
「はい、取りあえず元の会社へ戻りたいと思っています」
何がハゲ武者をそこまで惹きつけているのかは分からない。

「結婚を考えている女性が居るの?」
「はい、一緒に生活をしたいと思っています」
「まじめに考えているの?」
この質問に対して、今まで即答をしていたハゲ武者からの返事がなくなる。
よく見るとハゲ武者は男泣きをはじめていた。
頷いてはいるが言葉が出ないようだ。
「ちゃんと声に出して!」
とハッパを掛けるお蔵入り弁護士。
「・・・・・・考えています」
声にならない声でそう言い切るハゲ武者。
「ちゃんとして上手くいけば結婚したいと考えているの?」
「・・・はい」
「お父さんも今後あなたのことをこれまで以上に注意して見てくれると言っていますが、
それについてはあなたは応えられるの?」
「できます」
こうして、涙、涙の演出を引きしたところで、お蔵入り弁護士は着席した。

 

熱き男の友情(完結編)へ続く。

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