裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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愛に飢えている私を見て!!(後編)

愛に飢えている私を見て!!(後編)

(これまでのあらすじ)

短大卒のアラフォー、前科2犯、会社経営者、長い髪の毛先は金髪といった
なかなかの経歴を持つ被告。どうやら窃盗の常習犯のようだ。
ただ四十前にして会社経営をするいった大きな賭けをした被告にとって、
窃盗というあまりにスケールの小さな犯行に、何らかのメッセージ性を
探ってしまうのは、些か考え過ぎだろうか。
その疑問を探るべく弁護人が被告の父を証人に喚問するも、
また違った方向へと流れていく。
続いて、弁護人からの被告人質問だ。

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>保安員から「ややこしいものを持っている」との声掛けはありましたか?
「こうしたやりとりはなかった」
>今回はなぜ犯行に及んだのか?
「前回(刑務所に入って)辛かったので二度としないと誓ったが、
(素敵な服だったので)義姉にあげたら喜ぶかなぁと思ってやってしまいました」
>なぜ盗ろうと思ったのですか?
「時折万引きをしてしまうのではないかという恐れがあり、その時は決まって自殺願望が背景にある。
その不安から逃れるためにこうした衝動に駆られる」とのこと。
>1月に愛犬が死に、3月に長く付き合った男性と別れたがこれも影響していますか?
「あります。それもあって7月よりカウンセリングへ行っています。自分の気持ちを整理しようと。
カウンセリングでは日常生活や悩みを聞いてもらい落ち着いてきていることを実感しています」
「カウンセリングへ行った後は明るく、軽くなります。何よりも第三者の意見を聞けていい」
「カウンセラーから犯罪は自傷行為と一緒と言われた。H10年に母が死んでから不安定になっていた」
・・・饒舌だ。更に母の話題になるあたりから切り札の涙である。
>今後はどのようにしていくつもりですか?
「カウンセリングを続けます。また自助グループにも参加して、気持ちを話し合おうと考えています」
>店に謝罪は行きましたか?「2回弁護士の方と一緒に行きました」
>なぜ義姉の名前を名乗りましたか?「姉と警察には迷惑を掛けた」
>現在自営の店はどうしていますか?
「現在休業中です。その他に週3~4日程度手伝いに行っていますが今は行けていません」
>店の資金はどうしましたか?「親戚、友人から借金をしました。現在借金は540万円あります」
と何とも締まらない、核心に迫っていない内容だ。

そして、検察からの被告人質問。
>義姉は名前を使ったことを義姉は知って何て言っていますか?
「勝手に使ったことを怒ってはいない」
>なぜ義姉の情報を知っているのですか?
「出身を知っており、学校名などは適当に言った」
>店員に捕まった時に警備員に対して偉そうに言っていますがなぜですか?
「兄と一緒でして、まだ兄が(自分の犯行に)気付いていなかったので、
兄の手前、ごまかしている状態だったので、つい・・・」
>指紋で嘘がばれるとは思いませんでしたか?
「その時はその方法しか考えられなかった」

・・・これも不完全燃焼だ。何を遠慮しているのだ、検察!
というのも被告は、自分の不利な質問に対しては、
ほぼ1度は自己防衛のための見え見えの嘘を吐いている。
なぜその部分を突っ込まないのだろうか。
更に、「愛犬が死んで、付き合っている男と別れたことが窃盗の原因のひとつに繋がる」
といった論理はどうしても受け容れることができない。
なぜなら世界は被告を中心にして回っていないためだ。その上、
「気分障害の診断が付いていて、その影響で自殺願望が出てきて・・・」
までは共感はできないが理解までは辛うじてできる。ただ、
「その衝動を打ち消すために窃盗をする」といった論理は詭弁である。
なぜ検察はそのことを突っ込まないのだろうか。
こうした被告の詭弁や虚言癖を増長し続けてきたことが、
被告を窃盗に駆り立てる根底のこころの闇ではなかろうか。
確かに、こうしたこころの闇を解決するのは司法の場でもない。

検察からの求刑。
身勝手な犯行で情状酌量の余地はありません。
防犯タグを破損したこと、取り調べ時に虚偽の名前を語るなど、
社会的信用を害するような今回の犯行は悪質である。
また出所後1年余りの犯行でもあることから再犯も十分に考えられる。
懲役2年が相当である。

ひとまず弁護人の陳述も聞いておく。
計画性がないこと、盗品も戻っているし、破損したタグは弁償しているので実害はない。
謝罪にも2回行っているし、何より反省もしている。
確かに規範意識の低下は否めないが、カウンセリングに行っていることや
自助グループに参加する予定であることなどは再犯防止に繋がる材料であろう。
また父も対応を変えてくれると言っていることから酌量をお願いしたい。

最後に被告の最終陳述。
申し訳ありません。もう二度とやりません。

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後日の判決を聞きに行く気にならなかったが、おそらくは実刑は免れないだろう。
ただ確かに刑務所に入って、施設内で矯正教育のために税金を投入したところで、
いかほどの効果が出るのかは些か疑問ではある。

ふとUNICOは思った。
被告はこれまでに親から褒められたことがないのではなかろうかと。
そんな被告だからこそ、盗品を人にあげようとしてまで、
誉められたかったのではなかろうか。
案外被告のこころは、幼い少女のままなのかもしれない。

(了)

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