裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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あの日に戻りたい(後編)

あの日に戻りたい(後編)

その後裁判は弁護人からの被告人質問へと続いていく。

「起訴内容に間違いはないですか」
「はい」と神妙に答える被告。
「なぜ包丁を持ち出してしまったのですか、そのきっかけは何ですか」
「事件当日に選挙に行くため、郵便物を返してもらおうと
兄のやっている居酒屋へ行きましたが、脳梗塞で右脚が不自由になったこと、
生活保護を受給していることを大声で罵られたので、ついカッとなってやってしまいました」

「いつから郵便物が届かないのですか」
「約5年前です」
「原因は何ですか?」
「原因は母の遺産相続です。向こうも納得いかんとこがあったんかと思います」

「兄とは同じ建物に住んでいるのですか?」
「兄は3F、自分は4Fに住んでいます。そして兄は経営する居酒屋を1Fでやっています」
「毎日顔を合わすのではありませんか」
「月に2、3回程度です」
同じ建物に住んでいて、月に2、3回しか顔を合わさないものだろうか?

「郵便受けは別々ですか」
「別々です」
「これまでに自分の郵便物が届かないことをなぜ言わなかったのですか」
「言おう、言おうとは思っていたが、兄は短気なもので、だから言わずにおいたんです。
そこで兄嫁に道であった時にそのことを兄嫁から伝えて貰おうと思って頼んだら、
『(兄は)今は聞く状態じゃないから無理』と言われた」とのこと。
確かにかなり深刻そうである。
しかし、遺産相続でビルを受け継いだ兄に何の不満があったのかよく分からない。

「これまでに包丁を持ち出したことはありますか」
「ないです」
「それでは今回はなぜですか」
「中傷されたことと・・・大分大声で罵られましたので・・・」
「こういったことで警察沙汰になったことはありますか」
「はじめてです」
「このことでこれまでに誰かに相談をしなかったのですか」
「区役所の福祉課へ2、3回相談へ行きました」
「何か助言は貰えましたか」
「職員が自宅まで来てくれて、それで郵便局へ行って私書箱を
つくってみてはどうかと言って下さいました」
私書箱をつくる・・・何とも妙を得た案である。

「中傷された発言については謝ってほしいですか」
「いや、この拘留生活が辛い状態で・・・。
この件については深く反省しておりますし、もうしませんのでお許しください」
何か釈然としない回答である。

「このことを蒸し返すことはありますか」
「ないです。自分も至らないところがあったし、今後は低姿勢でいきたい。
それで世間並の兄弟関係に戻りたい」
「今後トラブルは起こさない」
「トラブルは今後起こさないと決意しています」

「家族は面会に来てくれましたか」
「兄の息子が一度警察へ来てくれた。その時に被害届を取り下げるよう兄に言ってくれると
言ってくれましたが、それっきり連絡はないですが・・・」
「今後あなたとお兄さんと間を他の家族が間に入ってくれそうですか」
「兄嫁と息子に期待しています」
これは到底期待できそうにない。

「取り調べの時には謝罪の意志はありませんでしたよね、何か心境に変化はありましたか」
「22日間拘留されて、これが辛くて辛くて・・・。
こういうことは2度と犯しません、反省していますのでお許しください」
「お兄さんに直接謝罪をする予定ですか」
「はい、その時は低姿勢で謝りたい」
「今、事件をふり返ってみてどうですか」
「悲しい状態ですので、普通の兄弟関係に戻りたいと願っています」
「今回の件についてはどう考えていますか」
「拘置所は堪え難い。寒くて、昼も夜もとても眠れません。本当に反省しています」

こうして核心に触れられることなく弁護人からの質問が終わる。
次は検察からの質問だ。
+ + +
「お兄さんとで郵便物のトラブルがあったの」
「はい」
「個人の郵便受けは使えたのですか」
「2Fのパーマ屋の使用が空になってからは、隙間から郵便物を入れて貰うように
言っていましたが自分のはなくなっていました」
よく分からない回答である。

「なぜお兄さんの仕業だと思うのですか」
「ビルには他に誰も居ませんし、誰も入って来ることがありませんので」
う~ん、何とも言えない回答である。
「そのことをお兄さんには言ったのですか」
「遺産相続のことを言われると思って、言い出しませんでした」
やはりここが問題の核心だと思うが・・・。

「お兄さんが中傷をするのもそれはそれですが、包丁を相手に突きつけるのは危険なことだと
あなたは認識していましたか」
「傷つけるとかそういうのではなく、ただ脅すつもりでした」
ややポイントのずれた回答である。改めて質問をする検察。
「直接被害者に刃先を近付ける行為は相手が危険だとは認識をしませんでしたか」
「ただ脅すつもりだけでしたので、その時は危険なことだとは思いませんでした」

「捜査段階では否認していましたが、一転この法廷では認めて謝ることになっている、なぜですか」
「この50日・・・本当に辛くて辛くて・・・。
そこで1日中そのことばかりを考えていたら悪いことをしたという気持ちが一杯になりましたので」
恐ろしいくらいに後付けの話である。

「今後住むところはどうしますか」
「また同じビルに住ませて貰おうと兄にお願いするつもりです」
「これまでのところを引っ越して、違うところに住むつもりはありませんか」
「考えてないです」
「今後絶対にしないと約束できますか」
「できます」
「終わります」
ここで終わるのもどうかと思うが・・・。

 

あの日に戻りたい(結び編)へ続く

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