裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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似たもの同士!?(後編)

似たもの同士!?(後編)

どこか混とんとした様相を帯びてきた詐欺裁判。
起訴状の朗読後に、なぜか検察からの被告人質問らしきものがはじまるのだった。
+ + +
「お金を持っていませんでしたよね?」
と淡々と質問をするタヌキ検事。それに対して、
「お金を持っているし。無料乗車にして貰っているから先に会社へ行けと言ったし、
○○署へ行けと言ったけど、その内容を・・・」
とキレ気味に、そして支離滅裂な内容で応戦する被告。

少々話し過ぎる被告に対しては、堅物裁判長からの制止も入るが、
なかなか止まらない被告。

「待ちなさい!!!」
と堅物裁判長が一喝する。
場内が一瞬無音となり、そして、タヌキからの質問へと切り替わるのだった。

「最初に行っていないとはどういうことですか」
「全然違うことで捕まったんで、後からお金を払うつもりなのに現行犯とかで逮捕になるし。
目的地まで行ってませんね、ねー。身体も弱かったもので」
と不思議な応答を繰り出す被告、ただものではない。

「それでは、騙すつもりはなかったということですか」
「全然ないですね!!勝手に現行犯逮捕やし、何のために捕まったんか分からへんし」
このやりとりを見て、埒があかないと判断をした堅物裁判長、
今度はゲンゴロウ弁護士へ話を聞いてみることにした。

「弁護人も被告と同様、無罪を主張します」

法廷内が凍てついた。しかし、そんなことはお構いなしのゲンゴロウ、
「被告は心身喪失状態でありますので、罪に問えないし、
またそもそも騙そうとしてタクシーに乗っていない。
料金を課金されない状態でタクシーも走っていたのでありまして」
およそ法律の専門家である弁護士とは思われない、
ぶっ飛んだ発言を紡ぎだしたのだった。

「課金されない状態で走っていたこと、
それと心神喪失?耗弱?検察の簡易鑑定を待ちます!」
と自信たっぷりに言い切るゲンゴロウ。

「そして統合失調症ということで検察からの簡易鑑定の結果の開示を待って、
今後具体的に無罪を主張します」
ゲンゴロウからのキラーパスに苦笑いを浮かべるタヌキ検事。

ただ誰よりも一番ダメージを受けていたのは、堅物裁判長のようだった。
「ひとまず検察官、冒頭陳述をしてください」
という堅物裁判長からの表情は明らかに怒りを噛み殺していることが読み取れる。

「被告の身上ですが、住所不定の無職。これまでに前科は4犯。
今回事件を起こした時も『金がない』などと述べ、所持金は20円だった」
相変わらずタヌキ検事の読み方からは緊張感を感じることはできなかったが、
内容はかなり端折っていた。

「起訴事実はすべて保留、検察の簡易鑑定を請求してからですね」
と再度堂々と言い放つゲンゴロウ。
「検察官はどうですか、何か意見はありますか?」
という堅物からの質問に対して、
「こちらとしては、特に差支えはありませんので、
書面で開示請求を頂ければ、応じますが」
と切り返すタヌキ。これを聞いて焦りはじめたのはゲンゴロウだった。
「口頭では請求をしたのですが・・・書面は未だでして・・・」
しどろもどろに回答するゲンゴロウに対して、
「こういうことは事前に打ち合わせをしていて貰わないと、
それで弁護人からの意見はいつ頃でしたら可能ですか」
とバッサリ切り捨てる裁判長。

「最近高齢者や障害者の事件が多くて・・・2、3週間程度頂ければ何とか・・・」
この言葉を聞いて、誰の目から見ても分かる位に深く眉間に皺を寄せる裁判長は、
「それでは、今日でもいいですので、まずは書面で開示請求をしてください、
それがあれば直ぐにできますよね」
「はい、書面さえ頂ければ直ぐに出します」
淡々と答えるタヌキ検事。ゲンゴロウはなす術もなく下を向いてブツブツと言っているだけだった。

こうして、この日は閉廷を迎えるのだった。
+ + +
裁判のスピード化が叫ばれるようになり、
それを受けて、検察と弁護人は開廷前に打ち合わせをするようになった。
このおかげで、昨今ここまでグダグダな裁判をお目にかかることはなくなった。

ただ相手がゲンゴロウみたいないい加減な弁護士になると、
簡単な話もややこしくなってしまうのだろう。
つくづく弁護士という職業が究極の自由業であることを痛感するUNICOであった。
(了)

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