裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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引き寄せる宿命(後編)

引き寄せる宿命(後編)

業務の運転中に交通事故を起こし、不本意ながら人の命を奪ってしまった被告。
一方、店を任せて貰い、結婚を控え・・・と、これから人生の絶頂期を迎える、
まさにその前に命を失ってしまった被害者。
この事故は、双方がこれまでに築きあげてきたものが一瞬にしてひっくり返ってしまったのだ。

そんな自動車運転過失致死という言葉に含まれた、重い裁判の続編。
+  +  +
吹石似検事からの質問を終えて、若干狡い面が見え隠れした被告。
いつもの裁判ならば、この後は求刑となるのだがこの裁判は違った。
ここで被害者の家族全員からの意見陳述の時間となったが・・・。

まずは、被害者の下の妹からの意見陳述。
妹は予め手紙を書いてきており、それを朗読する。
「兄は被告に殺されました。
店の店長に「これからだ」ということを言われ、
まさにこれからという時に命を奪われてしまいました」
センセーショナルな内容を淡々と読み上げる妹。
「それで、違う人が店長に任されることになりました。
この悲しみは一生忘れません。
被告は通夜にも葬儀にも来ませんでした。
被告は警察に『今日事情聴取で良かった』などと言っており、
被告のことを本当に腹立たしく思いました。

いつまで経っても被告が現れないので家に電話をしても電話には出ず、
会社へ掛けても出ませんでした。
そして、ようやく連絡が取れて事故のことを聞いても、
『すべて警察、検察に聴いてくれ』と言われました。
そして、裁判の日が近づいてから被告から家に電話が掛かってきたと姉から聞きました。
このことを聞いて、本当に被告の誠意を感じませんでした。

あの事故以来、兄の平穏な日常生活を被告に奪われました。
そして私たち家族も同じです。
被告には兄や私たちと同じ苦しみを味わってほしいです」

若い下の妹からの包み隠さない率直な内容の意見陳述・・・。
これが被害者家族の声なのかもしれない。

 

続いて、上の妹からの意見陳述。姉は手紙を用意していない。
「帰宅途中、長時間労働を終えて、兄は正しく運転をしていました。
今でも兄の写真などを見ると、未だ本当のところ亡くなったことを分かっていません。
被告は、そんな気持ちを分かって下さい」

シンプルな内容であったが、痛みの伝わってくる内容であった。

 

最後は、被害者の母親からの意見陳述。
下の妹同様、手紙を認めてきている。

「3人の子どもに恵まれました。
そして、事故で長男が仕事へ行くのを見送ったまま帰らなかった。
このことでこの世の最高の悲しみを味わいました。

心臓マッサージをしている時、2度ほど脈を取り戻したと聞きました。
そのことを聞いて、長男は私たちの来るのを待っていたのだと思いました。
そして長男は、私たちが駆けつけた5分後に亡くなりました。

長男は毎日その日あったことを話してくれていました。
そして、事故の3日前には店長に抜擢されたと話していました。
そして、その数年後には独立も考えていました。

「今が一番幸せや」と話していました。
「近々広島から彼女も来る」とも話していました。

彼女もメールで『受け容れないといけないと思っていても涙が止まりません。
幸せを一瞬にして奪った運転手さんを許しません』とありました。

今でも婚約者は月に1、2回訪れます。
そして忙しい時には、事故現場にだけ行き、そっと手を合わせて帰る時もありました」

痛烈な被告への批判である。
確かにこの被告は被害者家族への誠意が足りない。
+  +  +
検察からの求刑は、禁錮1年2か月。
確かに人の命を奪っておいて、この刑期は軽すぎるとの見方もあろう。
ただ注意義務があるとはいえ、自動車運転中の過失での処罰である。
交通事故はやはり誰も得をしない。

その後弁護士からは、執行猶予が主張された。

最後に、被告からの最終陳述。
「『取り調べで良かった』とそれは言っていません。
被害者に対しては申し訳ない気持ちで一杯です」

最後に保険会社の人も居たが、事故後8ヶ月も経過しているが、
示談交渉は未だ条件提示すら済んでいないとのこと。
+  +  +
息がつまりそうな裁判であった。
それぞれがギリギリのところで踏ん張っているということが裁判中にも十二分に感じ取れた。

被害者家族にとって、
「今回は事故なので仕方がない」とは終わらせることができない。
ただ被告は「事故なので被害者には申し訳ないが・・・何とか終わらせたい」
といった想いもどこかにはあるだろう。

知り合ってはいけない縁もゆかりもない二人が、
最悪の形で知り合ってしまった結果である。

何かいい妥協点を見出すことができればいいのだが。
(了)

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