裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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うっかりと、ちゃっかりと。(中編)

うっかりと、ちゃっかりと。(中編)

(中編までのあらすじ)
60歳を超えた被告。
空腹のまま某量販店に入り、パンを2つ、252円相当を盗んだ。
本来ならば被害額が少額であるため、直ぐに不起訴となるはずだが、
この被告の場合は違った。
その理由は簡単、被告には前科8犯というご立派な過去があったのだった。

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そんな被告を守るべく、1人の男が証言台へと向かう。
禿げあがったアニメ顔の証人の年の頃は70歳くらいだろうか。
書記官から渡された宣誓書を情緒たっぷりに堂々と読み上げる姿に、
裁判長すら苦笑している。

証人質問を行う弁護人からなぜか証人の経歴が紹介される。
証人は、大学卒業後に銀行へ勤務。
その後不動産部門に左遷され、入居者管理の業務を行うようになったらしい。
その時に宅建の資格を取得したらしいが、証言にどの程度必要なのかは不明。
そして、証人は入居管理の業務をしている時に「福祉に興味を持った」らしい。
かなり胡散臭い証人であったが・・・。

>福祉に興味を持ったきっかけは何ですか?
「入居者管理をしていると正常な感覚のない人が居まして・・・。
支払えなくなる人が居てどうしたらいいかと考えるようになり、
生活保護受給について勉強をするようになりました。
そして自分は被告を○○○だと考えているのですが・・・
それで○○○の方の生活保護受給に携わるようになりました」
この証人の証言には、差別発言が目立つ。

>被告との関係はいつからですか?
「5年ほど前からです。自分の友人から被告が困っているといった相談を受けまして、
それで被告と会ったのですが、その時被告は栄養失調で、さらに足を患っており・・・」
・・・弁護人と裁判長の両名から制止される。質問以上の回答をしたためである。

>それで生活保護受給の仕方など助言をして差し上げた訳ですね?
「緊急保護から居宅保護に切り替えて。ただ居宅保護は住居がなければ受給対象にならないので
そうしたことの手続きをしたり・・・」
再び弁護人から制止される。なかなか懲りない証人である。

>それから被告に対して、何か援助をしましたか?
「現在被告の居宅を私が世話したので、大家さんの手前、生活指導と言いますか、
そういったものを友人として行っておりました」
>生活指導とは具体的に何をされたのですか?
「万引きをしたことを聞いて、強く叱りました」
・・・しびれる回答である。

>それを聞いてどう感じましたか?
「失望感はありました」
>それからあなたは対応を変えましたか?
「精神的な欠陥があるのではないかと思い、以前は月1回の訪問をしていたのですが、
以後週1回位被告のところへ行くようにしました。
そして『何で言ってくれなかったの、相談してくれなかったの』と言いました。
『そんなしょーもないことをするな、その程度のお金がないんやったら私があげるから』とも伝えました」
やはりポイントがずれている。

>最近被告と会ったのはいつですか?
「入院中に見舞いを2回行きました」
>そこで被告とどんな話をしましたか?
「世間話、馬鹿な話、彼にあった話をするようにしています。それといつも強く言っています。
『万引きはするな、そんなしょーもないことをするな』と言っています」
>今後は?
「私のできる限りのことをしていきたいと考えています」
>それでももし次もしてしまったら?
「縁を絶つつもりです、仏の顔も2度までと言いますか。
ただ自分の性分として困っている人が居ると見過ごせないところがありますのでその時の状況に応じますが」
・・・弁護人がわざわざ証人の経歴を紹介した理由が分かった気がした。

これで俄然勝機が見えてきた不機嫌検事。どうこの難敵を料理するのかが見ものだ。
>前にも同じようなことをして罰金刑になっていますが?
「知っている」
>そして今回比較的短期間でまた犯行に及んでいますがどう思いますか?
「弁護士の先生からお話を聞くまで万引きの事実を知らなかった」
話の噛みあわない証人だからこそできる離れ業である。

>それを聞いて証人から被告に何か言いましたか?
「2度、3度としょーもないことをするなと。仮に100円のコーヒーとか、
そういったものが欲しくなったら自分に言えば買ってやるんやないか。
それを万引きするといった社会的に逸脱したことをするなと言ってやりました。
ただ缶コーヒーなども彼の要求に合わせて、無制限に与えるといったわけではなく、
費用対効果ですね・・・憐憫というのはおかしいですが、
もっと強く指導できなかったかと思っています」
「終わります」と告げる不機嫌検事の眉間の皺がより一層険しいものと
なったことは言うまでもない。

これを見兼ねた裁判長が内容を整理するため、証人に質問を投げかける。
>被告との関係は?
「5年程度です。彼が自分を慕うと言いますか、私は彼に精神的な欠陥があると言っていますが、
彼は自覚できていないので指導をしています。
ただ彼は『俺を●●●●扱いするな』と言って私の言うことを聞いてくれませんが」
>今後被告にどう接するのか?
「これ以上しょーもない犯罪をしたら縁を切りたいと考えています」
必殺!差別発言で締めるなんちゃって証人は、証言が終わり至極満足げだ。

 

うっかりと、ちゃっかりと。(後編)へ続く。

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