裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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窃盗 鉄屑

熱き男の友情(中後編)

ハゲ武者のおやじに対する証人喚問の後は、
ちちくり坊やに対する小次郎弁護士からの被告人質問だ。
これまで半分眠そうな顔をして、戦況を眺めていた小次郎弁護士の出番だ。

「電線を盗んだのは間違いない?」
「間違いない」
と雑に応答するちちくり坊や。

「以前にハゲ武者と鉄屑を盗んだことはあったようですが、それはあなたから誘ったの?」
「ハゲ武者に誘われてやりました・・・やはり生活が苦しかったので」
「氏名不詳者であるお兄ちゃんのことについては?」
「知らない」
「本当に知らないの?」
「本当に知らない」
「なぜお兄ちゃんと一緒にやろうと思ったの?」
「ハゲ武者に紹介して貰ったので」
ハゲ武者の立場がどんどん悪くなる。

「3人で電線を盗んだ回数は何回位ですか?」
「・・・7回位」
「犯行の役割分担を決めたのは誰ですか?」
「お兄ちゃんが決めた」
「あなたは電線をほぐして外側のものを切り取る役割をしていたの?」
「はい」
「分け前は?」
「お兄ちゃんが6割で、あとの4割を自分とハゲ武者で半分半分にしていた」
「分配は誰が決めたの?」
「はじめからお兄ちゃんとハゲ武者で決めていたので分からない」
ここまで聞いて益々お兄ちゃんの存在が気になってくる。

「今回はじめての逮捕、拘留を2か月位かな、入ってみてどうだった?」
「反省している、今後はちゃんと仕事をして生活を改めてやっていきたい」
「具体的には?」
「電気屋や左官などをやっていた知り合いに声を掛けたい」
「一緒にできるの?」
「連絡も取れるし、ちゃんと話し合えばいけると思う」
なかなか刹那的な回答だ。

「家族関係ですが、母とは音信不通、父も物心がついたときから知らない。
ほかに妹が2人、弟が1人いるんですよね? 全く連絡が取れないの?」
「はい」
「身内は居ないが自分を律してちゃんとできるの?」
「できる、自信がある」
「何で自信があるの?」
「ちゃんと仕事をして、ちゃんと話し合っていけるように努力しようと思っている」
と弱気に語るチチクリ坊や。信憑性は薄い。

「今回きちんと反省した? 自由じゃない時間を過ごしてみて分かった?」
「はい」
「終わります」
それでも、質問を終えた小次郎にとっては、上々の仕上がりだったのだろう。
満足げな表情を浮かべている。

次は乾燥剤検事からの質問だ。
「いつから無職なのですか?」
「3年前」
「最後の仕事は?」
「建築での左官」
「収入は?」
「某所へ行って、1日仕事して稼いで、他に鉄やステンレスを盗んで生活をしていた」
「月にどれ位になりましたか?」
「そこまでは考えていなかったが、15万円程度かな・・・」
意外に稼げていることに驚いた。

「その時家はどうしてましたか?」
「3年前は知り合いと一緒に暮らしていた」
「家がなくなったのは?」
「3年前くらい」
3年前にいったい何があったのか?

「それから寝泊まりはどうしていたのですか?」
「ネットカフェや尞に泊まったりしていた」
「家族とは連絡は取れないのですか?」
「はい」
「今後も連絡を取る気はない?」
「はい」
天涯孤独なのか、チチクリ坊や。

「他に相談できる人は居ますか?」
「一応居てますが・・・」
「具体的に誰ですか?」
「昔一緒にいた左官屋の職人」
「困った時はその人に相談をしていたのですか?」
「そこまではいっていない」
「どうしてですか?」
「自分で努力をして何とかなっていたので・・・。鉄を盗ったりしていけるかなと思った」
人とのつながりを頑なに拒んでいるようにも窺える。

「鉄を売ることはいいことだと思っていましたか?」
「悪いとは思っていたが、生活のために・・・」
「そこから抜け出そうとは考えなかったのですか?」
「考えていました」
「具体的にはどうやって?」
「仕事を探して、尞付のものを探してやっていこうと思っていた」
「なぜそれを実行できなかったのですか?」
「鉄の方が直ぐに現金が入ってきて・・・それで出来心で鉄を」
出来心・・・なかなか便利な言葉だ。

「電線を1回売ったらどれくらいになるのですか?」
「良い時で8、9万円からダメな時で2万円」
「鉄と電線ならどちらの方がお金は多く稼げるのですか?
「電線の方が多い」
1回やって9万円稼げることを覚えてしまえば、なかなか真っ当な仕事はできないだろう。

「今後ハゲ武者とは付き合っていくのですか?」
「今後も付き合うとして、考えてちゃんとしていこうと思っている」
「なぜハゲ武者との関係を続けようと思うのですか?」
「友だちだし、ちゃんと話し合って友人として付き合っていきたい」
ハゲ武者との年齢差はひとまわりほどあるが・・・不思議と波長が合うのかもしれない。

「お兄ちゃんとはどうですか?」
「今後は付き合わない」
「今後知り合いに声を掛けていくとのことでしたが、もし上手くいかなかったらどうするのですか?」
「何人かいるので多分いける、一応全員に当たっていくし」
「大丈夫ですか?」
「一杯居るので」

空かさず、ハゲ武者の弁護人であるお蔵入りから質問が入る。
「ハゲ武者とはいつからの付き合いですか?」
「3年くらいの付き合い」
「また盗みをする付き合いにはならないですか?」
「はい、大丈夫です」
「お兄ちゃんのことを知っているの?」
「詳しくは知らないので」
「過去に7箇所くらい行ったと思うがどんなところだった?」
「殆ど解体現場だった」
「何れにしても古くなったもの、使ってなさそうなものを盗んでいた?」
「はい」
「それは誰が決めていたの?」
「お兄ちゃん」
「行先は誰が決めていたの?」
「お兄ちゃん」
やはりお兄ちゃんの存在が大きいようだ。

そして、仕上げに裁判長からの質問がなされた。
「これまでに7回位盗ったのですか?」
「はい」
「これまでの分け前の総額はいくら位ですか?」
「5,60万円」
「これで最後だと思ってくださいね」
「はい」
「これを続けたら次は刑務所に行くことになるので気を付けてくださいね」
「はい」
「これまでは、これくらいはまっいいかと思ったの?
「はい、思っていました」
「悪いこととは思っていたの?」
「悪いことと思っていました」
「当時は仕事を探していたのですか?」
「仕事をしながら探していた」
「これからはどうするの、住む場所もないですがどうするの?」
「○○さんが居る、門真に住んでいるので一応頼ってみようかと思っている」
チチクリ坊やには身元引受人が居らず、また話し方もボソボソとしており、
裁判長の心証は決して良くないはずだ。
チチクリ坊やにとって、初犯であることが唯一の救いだろうか。

 

熱き男の友情(後編)へ続く。

熱き男の友情(中編)

ハゲ武者の父親が証言台へ。
ただこのおやじ・・・頭がなかなかでかしたものだった。
恐らくこのおやじ本人には自力の毛髪力がない。
その上に、後ろから見るとホームベースみたいな形をしたヅラを乗せている。
恐らく100人が見れば100人が「これはヅラだ」と言わしめること間違いなしの仕上がりを見せている。
やはりハゲの血は争えない。父と子の熱い遺伝子が勝利した瞬間である。
うっかり暴走をしてしまった。

そんなヅラ証人へお蔵入り弁護人からの質問がはじまる。

「息子ですか」「はい」
「息子さんの性格は?」
「気がいいというか、そういう感じでざっくばらんなところがあります」
そういう感じというのは、いったいどういう感じなのだろうか。
「息子さんは優しい?」
「人に対しては」
このように不思議なやりとりが続く。さすがはお蔵入り弁護士といった感じだ。

「現在廃品回収業者に勤めていることを知っていましたか?」
「知らなかった」
「なぜ知らなかったのですか?」
「お寺さんの下働きとか工務店の手伝いをしていると思っていました」
お寺さんの下働きって何だろうか。

「別居ですか?」
「はい」
「それはなぜですか?」
「学校を出たら20歳を超えている訳ですから独立をさせないといけないと思いました。
それじゃないと全部甘えてしまうので。またそういったところがあるのを知っていますので私がやらせました」
ヅラオヤジに一片の迷いはなかった。
しかしUNICOの考え方とはまるで違う。
人は20歳になれば自動的に大人にわけではないはずだ。
恐らくこころの中が幼いハゲ武者はこう解釈したはずだ。
「オヤジに見捨てられた」と。
この辺のさじ加減が子育ての難しさに違いない。

「犯行を聞いてどうでしたか?」
「びっくりしました。まさか警察のお世話になるなんて以ての外だと思いました」
「今後被告と同居するつもりはありますか?」
「ありませんが、連絡を密にして、週1回位にしようかと思っています」
「監督の仕方を変えると?」
「これまでは月1回くらい電話で連絡をしてから会っていましたが、
今後は週1回位電話を貰ってきちんとやっていきたい」
「はじめ禁止されていましたが接見には何回行きましたか?」
「3回程度行きました」
「その時本人から何か言っていましたか?」
「悪かったと言っていましたが、具体的に反省している内容までは聞けませんでした」
おいおい・・・情状証人として出廷しているオヤジ。それなのになぜか息子に不利な発言をしている。
大丈夫か?

「十分反省はしているようでしたか?」
「そういう顔つきをしていました」
どんな顔つきなのだろうか。
「今後は監督をしていきますか?」
「はい、それでよかったらハローワークにも一緒に行こうと思っています」
「現在勤めている廃品回収業者にも行きましたか?」
「本人が今後も行きたいといった思いがあるらしく、そのことを言いに行ってくれ、
と頼まれましたので行きました。それで来てもいいと言ってくれました」
「本人には今後どうして欲しいですか?」
「仕事の内容はメリハリのついたものがいいのではないかと思っています。
廃品回収というのも、廃品かそうでないのかは人から見たら判断が難しいので、
できれば違う仕事に就いた方がいいとは言っているのですが・・・」
「ただ本人が拒んでいる?」
「本人はうんと言いません」
「終わります」

何とも歯切れの悪い弁護人からの証人質問が終わった。
そして、乾燥剤からの証人質問へと続いていく。

「証人は仕事をしていますか?」
「定年になり、無職です」
「成人後に別居されたということですが?」
「はい、学校を出てからずっと高野山に行まして・・・」
ハゲ武者は高野山仕込みのようである。高野山では高野豆腐の作り方の修行でもしたのだろうか。

「今の仕事を知らないとありましたがなぜですか?」
「月1回の電話の中では言わなかったものですから」
「廃品回収の仕事を知らなかった?」
「はい、仕事について何回か聞いたら、工務店や寺の改修をしている以外には話に上がらなかったので」
「廃品とそうでないことの判断が付かなかったのですが、どう思いますか?」
「ゴミか所有物かの判断は難しいので、今後は考えてほしい」
「将来息子さんの仕事はどういったものがいいとお考えですか?」
「同じようなことをすると言っていますが、自分としてはメリハリのつく仕事、
新聞を見たら警備員の仕事もあるのでそういったものをしてほしいと言っていますが」
「それについては被告は?」
「それはアカンと言っています、今までの仕事をしたいと。
ただ今の段階ではハッキリと言ってはいませんが・・・」
「今後の住まいは?」
「今後、そういうことを含めて話し合っていきたいと思っています」
「終わります」

ここまでのやり取りでは、乾燥剤の圧勝である。
見事に証人の保護養育能力のなさを裁判長に心証づけることができたに違いない。

 

熱き男の友情(中後編)に続く