裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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暴行・傷害

空手家の信条(後編)

はじめは予定調和に進んでいた裁判であったが、
徐々に被告のアラが明らかとなってきた。
次は、銀シャリメガネ検事からの被告人質問である。
そろそろ仕上げの時間のようだ。
◇  ◇  ◇
「ビデオのことは気付いていましたか?」
「いいえ、踊り場に偶々マスクがあったので・・・」
「周りには誰も居なかったからですか?」「はい」

「なぜ盗ったのですか?」
「・・・・・・欲しかった」
「深くは?」「考えていません」
ハハハ。

「店員に現場を見られましたよね?」
「見ていないと思いますけど・・・」
そういう問題なのだろうか。

「それではやはり言い方ですか?」
「ムカついた」
「そのことは悪いとは思いましたか?」
「分かってました!分かってました!」

「正直に謝ろうとは思いませんでしたか?」
「何なのその言い方は!になってしまった」
「今は?」「分かっています!!」
これは何一つ分かっていないことは疑いようがなさそうだ。

「バレたくなかった?」「はい」
「ヤクザと関係があるぞとか言いました?
ほかにも、住所教えろ! 火つけたろか!とか言っていますよね・・・これ必要あります?」
「自分じゃなくなっている時なので止められない。怒っていました」
この言葉を置き換えると、自分はいつ何時でも正しいので、
自分を怒らせる相手が悪く、その際怒った自分は何をしてもいいという主張なのだろう。

「今までも今回のようなことはありましたか?」
「今まではない。カッとなって後先を考えなくなったことは今までに1回もないです」
こう話しながら若干怒っているように映ったのはUNICOだけだろうか?

「その日見に行った格闘技が影響したの?」
「格闘技を目で見て、身体に入ってきて、それで身体を動かしたくなります」
あなたは子どもですか?

「若い店員には?」「腹が立っていました」
「またバレなければやるの?」「それはないです」
「マスクは?」「要りません!!」

「犯行後に違うマスクと入れ替えましたよね? それでも返そうとは思わなかったの?」
「はじめはないと言っていて、それが戻ってあると言うたらおかしいでしょ!
返すものを返すわはない。
物を盗ったことを忘れて怒っていました」

「店内で暴れ回ったの?」「かごを蹴りました」
「今後この店には?」「2度と行きません!!」
「レンタルは?」
「別の店に行きます。僕も正直傷ついているんですよ! 2度とビデオを見ません」
傷つく、一体誰が???

「いけないことをしたと思っています? 普通は店員に向かわないよね?
相手が弱そうだとかは思わなかった?」
「一切ありません!!」

「殴った相手に対しては?」「申し訳なかったと思っています」
「直接謝りたい?」「はい」
◇  ◇  ◇
この様子を見て、これまで沈黙を守ってきた風水裁判長がタイマツへ質問を投げかける。

「事件後の今、自分の性格についてどう思っていますか?」
「短気です。見ず知らずの人には誰にも関係なく切れます!
相手が弱っている時には話をします」
ここまでくれば、被告の言葉は日本語でありながら日本語とは言い難いものである。

「知り合いには切れません、身内と一緒なので。それに腹を割って話せるので。
ただ知らん奴から偉そうに言われると切れます!!」
「なぜですか?」
「見知らぬ人なので切れます」
これで実刑は免れないだろう・・・。
◇  ◇  ◇
そして論告求刑へと続く。
「悪質な犯行態度で、1分間程度の時間で上着のポケットに入れるなど大胆かつ手慣れた犯行。
また無抵抗な相手に対して、制止を振り切って、一方的に暴行に及んでいる。
盗品は2000円相当とそれほど高価なものではないが、
被害者は太ももを蹴られるなどの暴行を受けており、
「本当に怖い思いです、2度と会いたくありません」と恐怖を感じている。
また「とてつもなく理不尽です」とも話しており、厳罰を望んでいる。
これは他の店員も同様で、
「すごい剣幕だったので、再び店に来ないかと怖がっていました」と証言している。
このことから被告の犯行態様には酌量の余地はなく、動機も短絡的である。
また暴行の動機も
「すべてを見ていないのに言われた」といった身勝手極まりない言い分であり、
かつ「お客様を疑うってどういうこと」
「疑ったので金を払え」などと言ったことからも反省の態度が見られない。

これらを考慮して求刑は懲役2年が相当であると思料します」
この間黙って銀シャリメガネ検事をじっと睨み付けるタイマツ。
どこが優しいのかを知りたいものである。

そして幾三弁護士のピントのずれた答弁。
「反省の弁がみられる。窃盗したものは一定期間のみ置いてあるものであり、
被害額も軽微である。また弁償の意志もある。
暴行は興奮状態のもので普段はないし、また事件後に謝罪にも言っている。
前科がないこと、仕事が決まっていること、また証人をはじめ監督者もおり、
厳しい監督も期待できること、一貫して真摯に犯行を認めていることから執行猶予を求めます」

タイマツの最終陳述。
「申し訳ございませんでした、だけです!!」
この被告に対してUNICO裁判長は、
「被告には懲役刑があるだけです!!」
と言ってやりたい。

 

(了)

空手家の信条(中編)

こうして予定調和な裁判は淡々と続く。
次は、銀シャリメガネ検事から証人への質問だ。

「被告と話したことはありますか?」
「ほぼ毎日話します。他にも食事をしたり、家族ぐるみの付き合いです。
どんな時でも決して殴ることはしません」

「事件以後、被告と会いましたか?」
「接見で何回か会いました。短い時間でしたが」
「その時に被告とは何を話しましたか?」
「どうしたの、何があったの、と聞きました。被告はその時に泣いていました」
「何で犯罪を犯したのでしょうか?」
「泣いてばかりだったので・・・また自分は説教をしたので・・・」

「ご主人は接見に行きましたか?」
「拘置所に行きました」
「被告はあなたたちの話をよく聞きますか?」
「はい」
何だろう、被告の髪型とは裏腹に、この裁判はどこか整然としている。
そう違和感を覚えていたUNICOの予感は的中した。
◇  ◇  ◇
そして、裁判は被告人質問へと続く。
まずは、幾三弁護士からだ。

「今回の事件を起こす直前にあなたは何をしていましたか?」
「以前働いていた会社の人と格闘技を観ていました」
何の前振りだ?

「レンタルビデオ店には何をしに行きましたか?」
「新しいスパイダーマンのDVDがあるかなぁと思って行きました」
「マスクを盗ったのはどうして?」
「クリスマス前で・・・子どもを驚かせようと思って」
急展開だ。脈絡も何もあったものじゃない。

「それでも盗っていいの、なぜ盗ったの?」
「・・・・・・出来心ですね」
長い沈黙で引っ張ったあとのコメントが「出来心」とは。

「盗った後に店員を殴ったのはなぜですか?」
「言い方がすごく・・・・・・確かに自分もモノを盗って悪いけど、何か凄かったんで・・・」
被告のコメント程すごくはないはずだ。

「カッとなった理由は他に?」
「・・・・・・」
出た!! 伝家の宝刀である誘導だ。

「格闘技を見た後で、少々熱くなったのかな?」
「はい」
あの前振りはこの結論を引っ張りたかっただけなのだろう。
それにしても、何かショボい。

「間に入った女性に暴力はなかったの?」
「一切ありません」
「今、殴ってしまった相手に対してはどう思っている?」
「謝罪したいと思います」
「事件後に謝罪へ行こうとした時に慰謝料も提示しましたか?」
「はい、1回行って拒否されています」

「あなたが盗ったマスクはどうしましたか?」
「店に返還されました」
「被害弁償は考えていますか?」
「したいです」

「今は?」
「後悔しています、ダメなことをしたと思います」
「今後は?」
「仕事一筋でいきたいと思います」
「仕事はどんな仕事ですか?」
「外装、造園です」
まだ来1年の猶予がある。

「今後展示しているものは?」
「買います! 金がなければ我慢します!」
ここで傍聴席から小さな笑い声がこぼれた。
被告の関係者たちだ。

「今後腹の立つことがあったら?」
「謝ります、いや、ずっと堪えます」

被告の様子を見て、こりゃダメだと思った。

 
空手家の信条(後編)へ続く

空手家の信条(前編)

某レンタルビデオ店を訪れた被告。
新作プロモーションのため、等身大のスパイダーマンを2階の階段踊り場にディスプレイしていた。
スパイダーマンの口元にはマスクをしていたが、
被告は「前からそこにあることを知っていた」と逮捕後の供述で話している。
マスクを手に入れたいと考える被告にとって、最大のチャンスが到来した。
周囲に誰も居ない。
今がチャンスとばかりにマスクを上着のポケットに入れたその時――、
若い店員(20歳)が気付き、被告に声を掛けた。
その声掛けに対して被告は、
「俺のことを疑っているのか」と逆ギレしたのだ。
そして、店員の肩を小突いた後、
右脚大腿部を一発蹴り、拳骨で額を殴ってしまったのだ。
その犯行の一部始終は防犯カメラできっちりと撮られており万事休す。
程なく、被告は逮捕されることとなったのだった。
罪名は、刑法366条の窃盗と刑法208条の暴行罪。
いずれも親告罪だ。
◇  ◇  ◇
法廷にあらわれた被告は、タイマツのような髪型をした貧相なタイプであった。
このタイマツの年齢は28歳。見た感じもっと年上だと思った。

タイマツは中学卒業後、飲食店など職を転々とし現在は無職。
意外にも離婚歴があり、現在は母と妹と同居している。
今回の事件の前にも平成13年に窃盗(万引き)と道交法違反があったが、
不起訴処分となっており前歴は残っていない。

早々に起訴事実を認めた被告をはじめとする幾三弁護士。
段取りよく情状証人を召集していた。
◇  ◇  ◇
証言台にあらわれた職場の上司と名乗る40代位の女性の証人は、
裁判を傍聴しているもののすべてが「お水」と予想したであろう、
そう思わせる派手な出で立ちであった。
そして、幾三弁護士が証人への質問を開始した。

「被告との関係は?」
「今後被告が働く会社の経営と管理を主人と一緒にしています」
「仕事内容は?」
「造園、外装を予定しています。開始は2014年1月からです」

「事件を起こす前から被告を雇い入れるつもりでしたか?」
「はい、被告とは7、8年前に2年程度、主人と一緒に働いていたことがあったので
よく知っていますから」
「被告の勤務態度はどうですか?」
「遅刻もなく真面目でしたので」

「被告とはいつから知り合いですか?」
「12年前より知っています」
「きっかけは?」
「夫婦で引っ越した先のアパートに彼が住んでいまして。上の階と下の階といった感じで」
「被告はどんな人ですか?」
「子どもの面倒を見てくれて、優しい人です」

「悪いことをしたりは?」
「これまでに一度もないです」
「今回の事件を聞いてどう思いますか?」
「信じられない、びっくりしました」
「普段はどんな感じですか?」
「逆だと。どちらかと言うと真面目で優しい感じなので」

「習い事をしているんですね?」
「空手をしていると思います、主人も一緒ですから」
「ご主人は空手の大会で優勝をされた?」
「はい」
「今後は?」
「とにかく一所懸命に仕事をさせて、自分たちの子どものように管理、
指導をしていくことを誓います」

 

空手家の信条(中編)へ続く

急所をねらえ!(後編)

同じ刑務所に入る被害者の陰嚢を赤く腫れ上がるまで蹴り、
傷害の罪で問われている被告。
柔道黒帯の弁護人からの被告人質問に対して、
被害者が社会に出てから困らないようにしつけをしたと言っていることから
また繰り返す予感を覚えたUNICOだったが・・・。
この心証を続く検察からの被告人質問で変えることはできるだろうか。
◇ ◇ ◇
「被害者に対しては今どう思っていますか?」
「無理やり手出しをしてしまったことを悪いと思っています」
「具体的にどこが悪かったと思うの?」
「別の方法、他人のことは放っておくしかないということを分かっていなかった。
それができずに短気なところがあったと思う」
正しいのか正しくないのかよく分からない意見である。

「なぜできなかったの?」
「半年近く一緒だったのですが、最初は放っておくことができたが、
ただ段々と被害者のことが目につき、それで誰かに相談しようと思っても居なくて、、、。
自分の中で腹が立ってきてしまいました」
やはりしつけでもなく自分の苛立ちである。

「Aさんに相談はしましたか?」
「工場で何回かしました」
「相談したあとの結果は?」
「Aさんは『そうですね』としか言わなかったので、具体的な解決にはならなかった」
それが大人の対応というものであろう。

「被害者の言動はAさんも知っているよね、それでもAさんは暴力をふるっていないよね?」
「はい」
「あなたは平成17年にも傷害事件を起こしていますが、この内容は?」
「同じ部屋で生活している若い子が、他の子に怪我をさせたり、
嘘を吐いたりしていたので、腹が立って・・・」
「拘置所といった今回と同じような環境で相手の行動が気になって暴力をふるっていますね」
「はい」
「このような我慢できない状況で今後暴力を振るわないと言える?」
「しないように十分に自粛します」
拘禁症状なのかもしれない。

「前のときのことは考えなかったの?」
「考えました」
「受刑中という身分、暴力などはあっていいはずもなく本来は反省する場である。
その点については考えなかったの?」
「甘かったところがあったと思います」
「それが歯止めにはならなかった?」
「甘かったです」
「終わります」
今後被告が、このような環境下に身を置くことがないように祈るばかりである。

その後、検察から懲役1年2か月が求刑される。
そして黒帯弁護士が、結果を見て止めたことで重篤化せずに済んだこと、
少ないお金の中で1万円を送金し、弁済していることなどを挙げて、
中赦を適用してもいいのでないか。寛大な判決を望みますと主張するに至った。

そして被告の最終陳述は、
「今回やったことは相手を傷つけたことを反省しています。
できる限り被害者についても償っていこうと思っています。
今後は真面目にやっていこうと考えています」
と無難にまとめ、結審となったのである。
◇ ◇ ◇
この被告は、良く表現すると真面目なのであろう。
ただ自分の狭い価値観を押し付けてしまうところが
被告のウィークポイントなのかもしれない。

今回は方法が良くなかった。
この行為に対して減免しろと主張する黒帯弁護士の意見はどうかと思った。
残念だが、検察の求刑をUNICOは支持したい。
(了)

急所をねらえ!(中編)

そして、裁判は「柔道黒帯三段」といった感じの弁護人からの被告人質問へと続く。

「起訴状に間違いない?」
「はい」
「この日は朝から被害者が股間を抑えて蹲っていたの?」
「はい」

「それであなたは見せてくれと言ったのですか?」
「はい」
「それでどうだったの?」
「はい、股間が赤く腫れていました」
「それを見てどう思った?」
「ものすごく痛かったやろうなと思いました」
「どの程度の強さでやったの?」
「そんなに強くない・・・10だったら2-3程度の強さです」
それでも腫れる部位である。想像しただけで堪らない。

「破裂する可能性は考えなかった?」
「分かります」
「腫れたらどうなるか分かる?」
「子どもができなくなることがある」
「認識はありますか?」
「はい」
それならばあえてそこを狙わなくてもいいだろうが。

「被害者が朝の準備やそうじをちゃんとしていなくて、
その上に工場の班長の悪口を言っていたのを聞いたの?」
「はい」
「その人とあなたは知り合いだったの?」
「はい」
う~ん、身内びいきか。

「放っておくという方法もあったはず。そういった選択肢を考えなかったの?」
「はじめはそう思っていたのですが」
「最初から暴力を振るっていないよね?」
「はい、はじめは口で注意をしていました」
「それでも改善しなかった、それでも放っておくことはできたのになぜ?」
「社会に出てから被害者が苦労すると思いました。このままじゃいかんと思いました」
主観的な正義感は、時に暴力を振るう口実となる。

「途中でしつけるのは?」
「無理だと思った。その時点で出て行ってくれと言ったのですが、絶対に出て行くとは言わなかった」
「放っておくべきだったと思っている?社会にはいろいろな人が居て、
それをいちいち相手にしていたらこんなことになるということを教訓にしてほしい」
「はい、分かりました」
質問中に説教を織り交ぜるといった高等テクニックをさらりと組み込む黒帯。

「今後の仕事は?」
「自分が出来る所からやっていきたい」
「具体的にはどこで?」
「先輩のところでお世話になるつもりです」
「先輩を何をやっているの?」
「カー用品のリサイクル店です」
「そこで雇ってもらえる可能性は?」
「8割程度です」
「根拠は?」
「たまに手紙でやりとりをしています」
本当に8割なのだろうか。

「どこにあるの?」
「○○県です」
「先輩からの嘆願書は書いて貰えそう?」
「大阪に居ているならばお願いできるのですが・・・」
「今後社会に出ると自分より若いモノが居て、マナー面が悪い人も居る。
今後またしつける可能性はありますか?」
「今後は手を出さないようにします。ちゃんと言いきかせる努力をします」
自分が躾けるといった考え方を変えることは難しいのだろうか。

「チームワークが必要なことは分かる?」
「はい」
「今後もう二度とない?」
「はい」

これを聞いて、被告の正義マンっぷりを痛感した。
そして、また繰り返してしまう予感を覚えたのはUNICOだけだろうか。

 

急所をねらえ!(後編)へ続く