ハゲ武者の父親が証言台へ。
ただこのおやじ・・・頭がなかなかでかしたものだった。
恐らくこのおやじ本人には自力の毛髪力がない。
その上に、後ろから見るとホームベースみたいな形をしたヅラを乗せている。
恐らく100人が見れば100人が「これはヅラだ」と言わしめること間違いなしの仕上がりを見せている。
やはりハゲの血は争えない。父と子の熱い遺伝子が勝利した瞬間である。
うっかり暴走をしてしまった。
そんなヅラ証人へお蔵入り弁護人からの質問がはじまる。
「息子ですか」「はい」
「息子さんの性格は?」
「気がいいというか、そういう感じでざっくばらんなところがあります」
そういう感じというのは、いったいどういう感じなのだろうか。
「息子さんは優しい?」
「人に対しては」
このように不思議なやりとりが続く。さすがはお蔵入り弁護士といった感じだ。
「現在廃品回収業者に勤めていることを知っていましたか?」
「知らなかった」
「なぜ知らなかったのですか?」
「お寺さんの下働きとか工務店の手伝いをしていると思っていました」
お寺さんの下働きって何だろうか。
「別居ですか?」
「はい」
「それはなぜですか?」
「学校を出たら20歳を超えている訳ですから独立をさせないといけないと思いました。
それじゃないと全部甘えてしまうので。またそういったところがあるのを知っていますので私がやらせました」
ヅラオヤジに一片の迷いはなかった。
しかしUNICOの考え方とはまるで違う。
人は20歳になれば自動的に大人にわけではないはずだ。
恐らくこころの中が幼いハゲ武者はこう解釈したはずだ。
「オヤジに見捨てられた」と。
この辺のさじ加減が子育ての難しさに違いない。
「犯行を聞いてどうでしたか?」
「びっくりしました。まさか警察のお世話になるなんて以ての外だと思いました」
「今後被告と同居するつもりはありますか?」
「ありませんが、連絡を密にして、週1回位にしようかと思っています」
「監督の仕方を変えると?」
「これまでは月1回くらい電話で連絡をしてから会っていましたが、
今後は週1回位電話を貰ってきちんとやっていきたい」
「はじめ禁止されていましたが接見には何回行きましたか?」
「3回程度行きました」
「その時本人から何か言っていましたか?」
「悪かったと言っていましたが、具体的に反省している内容までは聞けませんでした」
おいおい・・・情状証人として出廷しているオヤジ。それなのになぜか息子に不利な発言をしている。
大丈夫か?
「十分反省はしているようでしたか?」
「そういう顔つきをしていました」
どんな顔つきなのだろうか。
「今後は監督をしていきますか?」
「はい、それでよかったらハローワークにも一緒に行こうと思っています」
「現在勤めている廃品回収業者にも行きましたか?」
「本人が今後も行きたいといった思いがあるらしく、そのことを言いに行ってくれ、
と頼まれましたので行きました。それで来てもいいと言ってくれました」
「本人には今後どうして欲しいですか?」
「仕事の内容はメリハリのついたものがいいのではないかと思っています。
廃品回収というのも、廃品かそうでないのかは人から見たら判断が難しいので、
できれば違う仕事に就いた方がいいとは言っているのですが・・・」
「ただ本人が拒んでいる?」
「本人はうんと言いません」
「終わります」
何とも歯切れの悪い弁護人からの証人質問が終わった。
そして、乾燥剤からの証人質問へと続いていく。
「証人は仕事をしていますか?」
「定年になり、無職です」
「成人後に別居されたということですが?」
「はい、学校を出てからずっと高野山に行まして・・・」
ハゲ武者は高野山仕込みのようである。高野山では高野豆腐の作り方の修行でもしたのだろうか。
「今の仕事を知らないとありましたがなぜですか?」
「月1回の電話の中では言わなかったものですから」
「廃品回収の仕事を知らなかった?」
「はい、仕事について何回か聞いたら、工務店や寺の改修をしている以外には話に上がらなかったので」
「廃品とそうでないことの判断が付かなかったのですが、どう思いますか?」
「ゴミか所有物かの判断は難しいので、今後は考えてほしい」
「将来息子さんの仕事はどういったものがいいとお考えですか?」
「同じようなことをすると言っていますが、自分としてはメリハリのつく仕事、
新聞を見たら警備員の仕事もあるのでそういったものをしてほしいと言っていますが」
「それについては被告は?」
「それはアカンと言っています、今までの仕事をしたいと。
ただ今の段階ではハッキリと言ってはいませんが・・・」
「今後の住まいは?」
「今後、そういうことを含めて話し合っていきたいと思っています」
「終わります」
ここまでのやり取りでは、乾燥剤の圧勝である。
見事に証人の保護養育能力のなさを裁判長に心証づけることができたに違いない。
熱き男の友情(中後編)に続く