裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

3

窃盗・不法侵入

熱き男の友情(中編)

ハゲ武者の父親が証言台へ。
ただこのおやじ・・・頭がなかなかでかしたものだった。
恐らくこのおやじ本人には自力の毛髪力がない。
その上に、後ろから見るとホームベースみたいな形をしたヅラを乗せている。
恐らく100人が見れば100人が「これはヅラだ」と言わしめること間違いなしの仕上がりを見せている。
やはりハゲの血は争えない。父と子の熱い遺伝子が勝利した瞬間である。
うっかり暴走をしてしまった。

そんなヅラ証人へお蔵入り弁護人からの質問がはじまる。

「息子ですか」「はい」
「息子さんの性格は?」
「気がいいというか、そういう感じでざっくばらんなところがあります」
そういう感じというのは、いったいどういう感じなのだろうか。
「息子さんは優しい?」
「人に対しては」
このように不思議なやりとりが続く。さすがはお蔵入り弁護士といった感じだ。

「現在廃品回収業者に勤めていることを知っていましたか?」
「知らなかった」
「なぜ知らなかったのですか?」
「お寺さんの下働きとか工務店の手伝いをしていると思っていました」
お寺さんの下働きって何だろうか。

「別居ですか?」
「はい」
「それはなぜですか?」
「学校を出たら20歳を超えている訳ですから独立をさせないといけないと思いました。
それじゃないと全部甘えてしまうので。またそういったところがあるのを知っていますので私がやらせました」
ヅラオヤジに一片の迷いはなかった。
しかしUNICOの考え方とはまるで違う。
人は20歳になれば自動的に大人にわけではないはずだ。
恐らくこころの中が幼いハゲ武者はこう解釈したはずだ。
「オヤジに見捨てられた」と。
この辺のさじ加減が子育ての難しさに違いない。

「犯行を聞いてどうでしたか?」
「びっくりしました。まさか警察のお世話になるなんて以ての外だと思いました」
「今後被告と同居するつもりはありますか?」
「ありませんが、連絡を密にして、週1回位にしようかと思っています」
「監督の仕方を変えると?」
「これまでは月1回くらい電話で連絡をしてから会っていましたが、
今後は週1回位電話を貰ってきちんとやっていきたい」
「はじめ禁止されていましたが接見には何回行きましたか?」
「3回程度行きました」
「その時本人から何か言っていましたか?」
「悪かったと言っていましたが、具体的に反省している内容までは聞けませんでした」
おいおい・・・情状証人として出廷しているオヤジ。それなのになぜか息子に不利な発言をしている。
大丈夫か?

「十分反省はしているようでしたか?」
「そういう顔つきをしていました」
どんな顔つきなのだろうか。
「今後は監督をしていきますか?」
「はい、それでよかったらハローワークにも一緒に行こうと思っています」
「現在勤めている廃品回収業者にも行きましたか?」
「本人が今後も行きたいといった思いがあるらしく、そのことを言いに行ってくれ、
と頼まれましたので行きました。それで来てもいいと言ってくれました」
「本人には今後どうして欲しいですか?」
「仕事の内容はメリハリのついたものがいいのではないかと思っています。
廃品回収というのも、廃品かそうでないのかは人から見たら判断が難しいので、
できれば違う仕事に就いた方がいいとは言っているのですが・・・」
「ただ本人が拒んでいる?」
「本人はうんと言いません」
「終わります」

何とも歯切れの悪い弁護人からの証人質問が終わった。
そして、乾燥剤からの証人質問へと続いていく。

「証人は仕事をしていますか?」
「定年になり、無職です」
「成人後に別居されたということですが?」
「はい、学校を出てからずっと高野山に行まして・・・」
ハゲ武者は高野山仕込みのようである。高野山では高野豆腐の作り方の修行でもしたのだろうか。

「今の仕事を知らないとありましたがなぜですか?」
「月1回の電話の中では言わなかったものですから」
「廃品回収の仕事を知らなかった?」
「はい、仕事について何回か聞いたら、工務店や寺の改修をしている以外には話に上がらなかったので」
「廃品とそうでないことの判断が付かなかったのですが、どう思いますか?」
「ゴミか所有物かの判断は難しいので、今後は考えてほしい」
「将来息子さんの仕事はどういったものがいいとお考えですか?」
「同じようなことをすると言っていますが、自分としてはメリハリのつく仕事、
新聞を見たら警備員の仕事もあるのでそういったものをしてほしいと言っていますが」
「それについては被告は?」
「それはアカンと言っています、今までの仕事をしたいと。
ただ今の段階ではハッキリと言ってはいませんが・・・」
「今後の住まいは?」
「今後、そういうことを含めて話し合っていきたいと思っています」
「終わります」

ここまでのやり取りでは、乾燥剤の圧勝である。
見事に証人の保護養育能力のなさを裁判長に心証づけることができたに違いない。

 

熱き男の友情(中後編)に続く

熱き男の友情(前編)

法廷には、2名の被告が別々の長椅子に腰かけている。
1人は、若干ひねたチチクリ坊やという感じで、
もう1人は、ハゲ武者という名がピッタリの被告だ。
それに伴い、2名の弁護人がスタンバっている。

2人が問われている罪は窃盗未遂。
恐らく下着が何かを2人で盗ろうとして捕まったのだろう
と勝手にUNICOは期待を寄せている。
それにしても、2人の被告が同じ法廷内で裁きを受けるのを見ることはなかった。
公判の進め方が見ものだ。

カマキリ裁判長が入廷し、一礼を済ませたところで、さぁ開廷だ。
はじめの宣誓では、2名の被告が同時に証言台へ呼ばれ、順番に本人確認がなされていく。
なかなか合理的な進め方だ。
続く、乾燥剤みたいなしけた顔をした検察から起訴状の朗読がはじまる。

深夜1時。
チチクリ坊やとハゲ武者、氏名不詳の「お兄ちゃん」と呼ばれる共犯者との計3名で、
建て替え中の建設現場に行き、現場に置いてある電線を盗ろうとしていたところ、
近隣住民から「不審者がいる」との通報を受け、
駆け付けた警官に見つかり、その行為を成し遂げることができなかったことによるもの。
罪名及び罰条、窃盗未遂罪(刑法243条、250条、260条)。

両名とも起訴された内容に異議がなかったため、
そのまま乾燥剤検事の冒頭陳述へと進んでいく。

そして、1人ずつの身上経歴が明らかにされていく。
チチクリ坊やは36歳。中学卒業後に左官工を経て、現在は無職。
ネットカフェに寝泊まりするなど住所不定。同種の前歴1犯があるとのこと。
一方ハゲ武者の方は44歳。
大学卒業後に飲食業を経て、現在は廃品回収業に勤めている。
しかし、ハゲ武者は会社の車で寝泊まりしていたとのこと。
同種の前科1犯があり、その時は懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けているとのこと。

その後2人の馴れ初めについて語られる。
被告2名は3年ほど前に某パチンコ店で知り合いとなり、
その後は一緒にパチンコをしたり、鉄屑を盗んで売ったりするようになった。
ある日某所でハゲ武者が、氏名不詳のお兄ちゃんと呼ばれる共犯者に声を掛けられ、
その時に今回の犯行を持ちかけられたとのことだ。
その後ハゲ武者がチチクリ坊やを誘い、同種の犯行を繰り返すこととなったようだ。

犯行は、現場に2台の車で乗り付ける。
うち1台はお兄ちゃんが、もう1台をハゲ武者が運転し、
ハゲ武者とお兄ちゃんが電線を持ち運びやすい長さ1mに切っていき、
それをチチクリ坊やが電線をほぐし、束ねる役割を担っていたとのこと。
駆けつけた警察にチチクリ坊やが捕まってしまったようだ。
利益分配は、お兄ちゃんが6割、残りの被告2名で4割を折半してとのことだ。

どうもこの不況下では電線が大人気のようである。
一体何に使うのだろうか。

そして、カマキリ裁判長が弁護人へ今後の立証の進め方を尋ねる。
チチクリ坊やの弁護を預かる小次郎弁護士からは、被告人質問のみといったシンプルな内容の提示がなされ、
一方のハゲ武者の弁護人であるお蔵入り弁護士からは、お決まりの反省文と、
ハゲ武者の父親への証人質問、そして被告人質問といったなかなか凝った内容の提示がなされる。

意外に思ったのがこのお蔵入り弁護士。
見かけはまさにお蔵入りな雰囲気であったのだが、案外やる気があるようだ。

 

熱き男の友情(中編)に続く

オヤジの威厳(後編)

被告人がまだフラフラとしながら証言台へと向かう。
先ずは、弁護人からの質問だ。
「同じものを6台万引きして、更にもうひとつ違うソフトを盗ろうとしたのはなぜですか?」
「子どものために遊ぶ分と他は現金化して少しでも結婚資金に充てたいと考えました」
「だからバチの付いたソフトを盗ったのかな?」
「はい」
「子どもの友達とも遊びたいといった一心でやったんやね、今はどんな風に考えているの?」
「どう言ったらいいか・・・やってはいけないことをしてしまったと思っています。
こんなことをしても子どもは嬉しくないし、また結婚資金もしっかり自分の力で働いて
貯めないと意味がなかったと今は考えています」
あくまでも「子どものためにした」という論理を突き通すつもりらしい。

「誰にどんな迷惑を掛けたと思いますか?」
「母にはこの年になって捕まるようなことをして心配を掛けてしまったこと、
彼女に対しては、不安やら心配やらを掛けてしまって申し訳ないと思っています。
それでも彼女は自分のことを信用してくれているし見守ってくれている、本当にありがたく思っています」
「お店に対しては?」
「本当に申し訳ないことをしてしまったと思っています」
一番迷惑を掛けたのは、恐らく婚約者の子どもであろう。

「今現在無職だが、今後仕事はどのように探していきますか?」
「婚約をしてからパソコンを使って仕事を探しています。
ただ去年11月に性別が変わったばかりだったので、これからきっちりと探していきたいと思っています」
「やはり戸籍が変わるまでは就職は難しかった?」
「はい、採用は難しかったです。落ちたのも数えきれないくらいでした」
確かに戸籍が変わるまでは、履歴書をひとつ取ってみても性別は女性に印を入れる。
しかし、面接官の目の前に現れる人の見た目は男であるわけだから、
大きな会社であればあるほど敬遠されることになるだろう。

「11月に戸籍が変わりましたね、これでこれまでの障害がなくなった訳だから今後は頑張れますか?」
「はい」
障害がなくなったというよりも少し軽減されたと言った方が正確だとは思うが・・・。

「周囲の信頼を裏切ったと思っている」
「はい」
「保釈手続に時間が掛かり20日程度拘留されたと思いますが、その間何を考えましたか?」
「何でここに居るんだろう、馬鹿なことをしてしまったなぁと考えました。
1日でも早く就職をして結婚をしたい、彼女に対しても申し訳ないことをしたと考えていました」
「自分自身に腹が立ったようで自分で自分の顔をパンチしてはりましたね?」
「はい」

これで顔面にある生傷の原因だと分かったが、それにしてもあれだけの傷を自分で付けたというのか。
「彼女と連絡の取れなかったときは別れることになると思いましたか?」
「それはありました」
「それで彼女と連絡が取れたわけですが、今後このようなことをする可能性はありますか?」
「ないです、絶対にないです。次にやってしまったらダメになることを分かっていますので」
「裁判所へ何か言いたいことはありますか?」
「周りの人に迷惑を掛けてしまい、申し訳ありませんでした。
これからは更正して守るべきものはしっかりと守り、反省していきたいと思っています」
なかなか考えさせられる内容であった。

続いて検察から。
「何が一番犯罪に走らせた要因ですか?」
的を射た質問である。そして回答に詰まる被告。
「お金があったのになぜ盗んだのですか。1つでも遊べますよね?」
と空かさず畳み掛ける検察。

「取りあえず子どもが好きだったのでその一心もあり、また婚約者との結婚を考えていたので・・・。
自分の家に子どもが泊りに来るようになって、4~5人の子どもが来た時には喧嘩になるし、
それに結婚資金にも回したいと思いましたので」
あくまでも子どもが原因のようだ。

「遊ぶのはひとつで十分ですよね、たくさん必要がないのになぜ何個も盗ったのですか?」
「間違いだとは思うのですが、喜んでもらえると思いました。取りあえずの一心です」
取りあえずの意味が分からないが。

「子どもに盗んだものを渡して喜んでもらえると思った?」
「いいえ」
「子どもが欲しがっていても我慢させることも必要ですよね、
あなたはそのお手本を示す必要があることを分かっていますか?」
「今はそう思っています、これから先は絶対にしません、ちゃんと頑張ります」
「二度としないためにはどうしたらいいですか?」
「子どもに好かれるように、昔やったゲームなどで遊べるように子どもとの遊び方を考えます」
「それでも欲しいと言ったら?」
「お金があれば考えますが、なければお金がないので買えないことをハッキリと言います」
ポイントのずれた回答が目立つ被告。混乱しているのだろうか。
「仕事をする気はありますか?」
「あります、結婚資金の貯金もできていませんし・・・パソコン関係の仕事か技師を目指します」

その後、裁判長からもう二度としないかの確認があり、検察からの求刑は懲役1年6か月。
弁護側は執行猶予の主張がなされた。

—————————————————————————————

待望の彼女、婚約者が出来て、意気込んでしまったのは理解できる。
また子どもに気に入られようと「優しいパパ」を演じたかったのだろう。
しかし、これから先は「優しいパパ」だけでは、この関係を維持していくことは難しい。
子どもは成長する。そして、子どもはパパ、ママの難しい問題に直面するわけだ。
これまでも頑張ってきた被告。これからも踏ん張っていい家庭を築いてほしいと願うUNICOであった。
(了)

オヤジの威厳(中編)

被告の情状証人として婚約者の女性が証言台へと向かう。
早速弁護人から質問が投げかけられる。

「被告人とはどういった関係ですか?」
「被告の婚約者です」
「いつ頃結婚する予定ですか?」
「未だはっきりとは決まっていませんが、そんなに遅くない時期にしようと考えています」
「被告は性同一性障害の診断を受けて、戸籍も変わっていることを知っていますか?」
「はい」

これには驚いた。被告は生物学上は女性だったのだ。
この事実を聞いてようやく被告が生活保護を受給しているという合点がいった。

それにしても現行の法律で、生物学上は同性であるもの同士の結婚が実現できるのか。
調べてみると平成15年に性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律が、
施行されていた。日本も相応に諸先進国と足並みを揃えていたようである。

弁護人からの質問は続く。
「証人には7歳になる子供がいますね?」
「はい」
「子供と被告の関係はどうですか?」
「子どもも被告になついています」
・・・婚約者には前夫との間に子どもが居た。
これで一気に難しい問題になったような気がした。

「万引きをしたことを知っていましたか?」
「急に連絡が取れなくなったので、心配になって被告の家を訪れたら、家に警察が来ていました」
警察に取り調べられている被告を見て、婚約者はビックリしたに違いない。

「あなたが考える被告の犯行の動機は何だと思いますか?」
「子どもがゲームソフトを欲しいと言っていましたので、それでやってしまったのかなと思いました。
多分子どもに喜んでほしかったのだと思います」
「この犯行をどう思いますか?」
「もう2度としないでほしい、そしてこれから頑張って更正して欲しいと思います」
この証言にはおかしな点がある。
子どもがゲームソフトを欲しがっていることを気遣って、
被告が仕方なくソフトを盗んで調達してしまったと言いたいのかもしれないが、
犯行動機として情状酌量の材料にならないことは明らかであろう。
このあと、弁護人は被告には今後を支える人が居るということを立証する内容を続けて、
被告人質問を終了した。

そして、不機嫌検事からの証人質問。
「今は別々に住んでいるのですか?」
「はい」
「証人は今働いているのですか?」
「はい」
「今後被告に働いてほしいですか?」
「働いてもらいたいと考えています」
「終わります」
これで終わりであった。えらくやる気がないなぁ・・・。
裁判長からの質問も、
「今後仕事をしようと考えているのかな?」
「はい、探しているようですが未だ決まっていません。
今後も被告と一緒に頑張っていきたいと考えています」
とあっさり終了。何となく後味の悪さを残しつつ、法廷は被告人質問に移っていくのだった。

 

オヤジの威厳(後編)へ続く

オヤジの威厳(前編)

今まさに顔面を殴られたばかりといった生傷をつけて、
フラフラと法廷に現れた被告。軽いめまいを起こしているようだ。
現在被告は保釈中であるため、身体の拘束は受けていない。

そんな被告、宣誓でも立っていることがままならず、
異例の着席のまま行われることとなった。

罪名は窃盗。
某量販店で、ゲームソフト計8点、50,230円相当を盗もうとしたこところを
保安員に声を掛けられ、あっさり犯行を認めたようだ。

今回盗もうとしたゲームソフトは「太鼓の達人」。
はじめの動機は、現在の交際相手の子どもにあげようとしたものだったが、
残りは換金をしようと思ったようである。
盗んだ数から判断すると、換金目的の方が優位であろうか。

犯行の手口は、防犯テープ(シール)をはがして、持っていたトートバックに太鼓の達人を3個入れる。
そのまま店外に出て、駐車場に置いていた車の中に隠すといったものだ。
これを2回繰り返し、無事成功に終わった。
味をしめた被告、更に盗もうとして再び売り場へ戻り、
次は別のソフト2個を物色、シールを剥がしてトートバックに入れよう・・・
としたところを保安員に声を掛けられあえなく御用となった。

さすがに3回も同じことを繰り返したら、いくらやる気のない保安員でも見つけてしまうよ・・・。
それに犯行の模様はきっちり防犯カメラに撮られている。もはや言い逃れはできない。
犯行時の被告の所持金は3万8千円余りあったらしく、どうやらお金に困ってやったのではなさそうだ。
これはマイナスポイントである。

そんな被告は現在30歳。
中学を卒業後、飲食店など職を転々としたあと、
無職となり、現在は生活保護を受給している。
これまでの前歴はなく、婚姻歴もない。これは大きなマイナスポイントだ。

それにしても、30歳で生活保護受給・・・多少の違和感を覚えた。
確かに、気弱そうだし、見た目も小柄で貧弱ではあるが、まるで働けないといった感じには見えない。
どこか健康上で差支えがあるのかもしれない。
今こうして、めまいもも起こしていることだし・・・
UNICOは自分なりの帰着点を探していた。

しかし、この後の被告の婚約者による証言で、
この謎の解明がなされることとなったのだった!

 

オヤジの威厳(中編)に続く