裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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酒気帯び 交通事故

ニッポンの伝統と、今を生きる青年と(後編)

語れば語るほどボロが出るといった感じの被告。
続くは検察からの被告人質問だ。

「上司に誘われた時に車で今日は帰ることを伝えましたか?」
「はい」
「その時上司は何と言いましたか?」
「上司からの指示がなかったので、自分で判断して『車内で寝ます』と伝えました」
ただこの検察官、核心に迫る前に違う質問へと移ってしまう。

「事件のことは覚えている?」
「警察の方から聞きましたので」
「上司は路上で寝ていた。あなたもフラフラしていて歩けないほどだったということを知っていますか?」
「警察の人から話を聞き、後で知りました」
「その状態で運転をして、上司の家に泊めて貰おうと思ったわけですか」
「はい」
「これまでにそういったことはあったのですか?」
「2、3度ありました」
この発言は酒気帯び運転の常習性を裏付ける証言となる。
ここを攻めない手はない、はずなのになぜか検察からの質問はここで終了。

そうするとこのまま結審へと向かうのか・・・と諦めてかけていた時、
趣味は手編みのセーターを編むことですといった感じの裁判長からの質問がはじまった。
◇ ◇ ◇
「この会社では4月に入社して9月にクビになっているのですね?」
「はい」
新入社員だったのか。それはいいところを見せようと張り切るわなぁ。

「社用車を使用したのははじめてですか?」
「いいえ」
「今後車にのることは?」
「マイカーがありませんのでないです」
う~ん、当面は運転する車がないので運転しないと言っているように聞こえた。

「会社ではこれまでに飲酒運転について何か指導はありませんでしたか?」
「特にありませんでしたが、はじめの資料の中に書いてあったように思います」
「こういった飲み会は頻繁にあったのですか?」
「滅多になかったので・・・」
滅多にないことはないだろう。

「多少これくらいいいやといったものはなかった?」
「ないです」
「0.5mg/lという量は分かりますか、多い方だと思いますか、少ない方だと思いますか?」
「多い方だと思います」
「この量だと飲酒後何時位までは酒が抜けないと思いますか?」
「朝の8時くらいまでは抜けないかと思います」
ペーパーだが一応免許を持っているUNICOにこのような知識はない。

「酒が抜けるまでには相当の時間が掛かりますよね・・・
そういったことを教習所などで教わりませんでしたか?」
「はじめにあったかもしれませんが覚えていませんでした」
「このことを把握してましたか?」
「いいえ」
また矛盾した回答だ。この被告の発言には整合性がなくうんざりとさせられる。

「会社の保険に上限はありますか?」
「会社からお前は話に入ってくるなと言われていたのでノータッチですので・・・。
会社がやる、お前が入ってきたらややこしくなると言われていますのでよく分かりません」
「今は誰と誰が示談交渉をしているのですか?」
「分かりません」
もっともらしい理由のように聞こえるが、かなり論点がずれているように感じる。

「この裁判が終わった後はどうしたいと考えていますか?」
「・・・・・・」
どうやら質問の意味が伝わらなかったらしい。
「示談になれば損害賠償は保険で賄えるでしょうが、あなたはどうすべきだと考えていますか?」
「会って頂けるなら謝罪をしたいと思っています」
「金銭面では何か考えていますか?」
「保険で賄えると聞いていますので、自分から特には・・・」
「あなたからは特に何もしないというわけですね?」
「そう思っています」
こう堂々と言い放つ被告は素晴らしい神経の持ち主である。
恐らくこの被告は、事件を起こした張本人であるといった自覚はなく、
寧ろ事件に巻き込まれた当事者のひとりだと思っているようだ。
ただそんな被告と同じような感覚をこの会社も持っているようで、
その責任のすべてを被告になすりつけようと腐心しているようだ。
非常に情けない話である。

今回の事件で一番の被害者は、怪我を負った被害者たちである。
それなのに被告も被告が所属していた会社も被害者たちのことを
一番に考えようとする姿勢を全く感じさせない。

「運転手の方とは連絡が取れたのですね、何と言っていますか?」
「どちらも比較的怪我が軽くて不幸中の幸いだった。
あなたが自分の息子と同じくらいなので、これにめげず頑張ってくださいと言ってくれました」
「現在示談ができていないのは治療以外のことが理由ではなく、
症状が落ち着いていないので示談が成立していないということですね?」
「はい」
ハハハ。
何という都合のいい解釈だ。
それならば被害者たちはなぜ「被告には厳しい処罰を」と言ったのか。
もし私がこの被害者の立場ならば、間違いなく厳罰を希望する。
そして、法廷で検察側の証人として出廷し、この被告の矛盾を追及するだろう。

「今、あなたは会社員とありましたがどこかに勤めているのですか?」
「11/5より再就職をしています。
前の会社の取引先の方に拾って貰い本当に感謝しています」
今を生きる青年は逞しく、強靭な精神を持ち併せているようだ。
またそうでもないととても生き抜くことができないのであろうが・・・。
◇ ◇ ◇
そして、検察からは懲役10か月の求刑が主張され、
弁護人からは、執行猶予の情状を訴えられる。
最後に被告人から、
「今回のことは大変深く反省しています。また懲戒免職となり、
そして今は取引先に拾って貰うことができ本当に感謝しています。
今後は被害者の方に謝罪をしていきたいと考えています」
といった白々しいことが告げられて結審を迎えるのだった。
取引先に拾って貰ったことをアピールする被告。
あくまでも自分の人柄の良さをアピールするためであろう。
つくづく思慮が浅い被告の言動にうんざりしながら、
UNICO裁判長ならば、この被告に対しては、
間違いなく懲役の実刑を言い渡すであろうと思うのであった。

 

(了)

ニッポンの伝統と、今を生きる青年と(前編)

営業マンの必須アイテムと言って、思い浮かぶものは何だろうか。
恐ろしいほどの残業、過剰な接待、営業スマイル、
そして必須アイテムのクルマであろう。
どのような職業に就いても継続するには一定の才能が必要であろうとUNICOは考えるが、
この営業という職業もまた類稀なる才能が必要なものであろう。
◇  ◇  ◇
UNICOの目の前に現れたスーツに身を包んだ若い被告(24歳)は元営業マンであった。
この元営業マンは、道路交通法違反、自動車運転過失傷害という罪名で起訴されている。

起訴状によると、
早朝に被告は青色信号で普通自動車を走行していた。
そして、右に曲がろうとしたとき対向車線にはみだしてまい、
不幸にも対向車線を走る被害者が運転する普通自動車の右前部と、
被告の運転する車の右前部とが正面衝突した。

運転していた被害者Aは外傷性頸部症候群、背部挫傷で加療11日、
助手席に乗っていた被害者Bは外傷性頭部頸部症候群、腰部挫傷、左腕打撲で、
加療24日のケガを負ってしまった。

事故後、被告の呼気から0.5mg/lのアルコール成分が検出された
ということによるものだ。
◇  ◇  ◇
弁護側はこの起訴状に対して、特に争う姿勢は見せず、
そのまま検察の冒頭陳述へと進む。

翌朝早い時間に取引先へ行く予定がありながら、
前の晩に上司から「取引先の人と飲んでいる、これから来ないか」と誘われ、
無断で会社の車を使用して、現地まで車を運転し飲酒をした。
被告が飲んだ酒は、ビール中ジョッキ数杯、日本酒にハイボール、
ウイスキーなどたらふく飲んでいたとのこと。

そのため被告は、アルコールが抜けるまで眠ろうとしていたが、
上司が酔っ払い、道端で眠りはじめたので、
被告は自宅まで送り届けなければいけないという使命感に駆られ、
上司を自宅まで送り届けようと考えたのだった。
そしてその運転中、助手席に居る上司に気をとられた結果上記の事故を起こしたとのことだ。

事故後、警察が来る前に被告は後部座席に移動し、
「運転手は逃走した」とうその証言をしたらしい。

なお被害者2人は釣りへ行くところだった。
被害者は「いきなり対向車が突っ込んできた。被告には厳しい処分を」と話しているとのこと。

 

ニッポンの伝統と、今を生きる青年と(中編)へ続く