裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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高齢者 道交法違反

点と点(前編)

現代のニッポンで、自分で運転するかしないかは別にして、
クルマと無縁で過ごすことは難しいことなのかもしれない。
その圧倒的な母数の多さに比例して、ごく極身近なところで事故が起きている。
+ + +
そして法廷には、還暦を過ぎた善良そうな男性がひとり、
交通事故を起こしたという理由により、今から裁かれようとしている。

被告は、帰宅するために妻が同乗する普通自動車を運転していた。
被告が運転する車は、交差点に差し掛かる数十メートル手前には信号は黄色になる。
そのことに気付かずそのまま速度40km/hで交差点へ進入する被告。
そこへ横の信号が青になった被害者が運転する自動二輪車と衝突。

バイクはクルマに勝てない。
バイクを運転していた被害者が倒れ、
結果加療180日の左脚関節靭帯損傷の重傷を負うこととなった。

事故後に被害者は、
「被告はいろいろと詫びてくれているし、
ケガも重傷ではないと思うので物損扱いでいいと思っていた」と話していたらしい。
さらに「被告の処罰は望まない」とも言葉を添えている。
つくづく善人である。

しかし、そんな心優しき被害者を事故の後遺症が容赦なく襲いかかる。
当初は加療3か月の診断結果だったものが、後に加療6か月へと変更になる。
そして事件から4か月経過した今も未だ症状が固定しておらず、
会社も休職中とのことだ。
+ + +
法廷には、示談の状況を立証するため、保険会社の社員が出廷していた。
「被告が事件を起こしたことは知っていますか?」
と分かり切った質問からはじめる弁護人。
その後、補償金額が幸い上限なしだったこと、
被害者の症状が未だ治療中であること、
被害者と話ができていること、
既に保険金の一部が支払われていることなどが述べられて終了する。

弁護人の立証は非常に丁寧な進行だと感じた。
それも被告の徳なのかもしれない。
というのも、中学卒業後、溶接業など職を転々とするもこれまでに前科前歴もなく過ごし、
現在は定年を迎え、妻と二人暮らしをしている被告。
そんな日本の高度成長期を支え、真面目に勤めてきた被告を
一瞬の心の隙をつくように事故という魔物が襲ったのが今回の事故だ。

交通事故は、誰も得をしない。
そうつくづく感じさせられる裁判である。

 

点と点(中編)へ続く