裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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交通事故 裁判

点と点(中編)

還暦を過ぎた被告。
黄色信号だと思い込んで交差点に進入したところを被害者が運転する
自動二輪者と衝突し、左脚関節靭帯損傷の重傷を負ってしまった被害者。
さらに事故後4か月が経過しても、なお症状が固定せず、
加療期間が当初3か月だったものが、6か月へと悪化してしまい、
見通しが付かない状況でこの裁判の日を迎えてしまったのだった。

被害者は被告の人柄の良さを評価し、
処罰を望まないと話しているにも関わらず、被告の罪を問う裁判は続く。
それが法律である。
+ + +
そして弁護人からの被告人質問を迎える。
「起訴事実に間違いないですか?」
「はい」
(調書の図面を見ながら)停止線では信号が赤だと言うことにが気付かなかったのですか?」
「助手席の妻に『赤やで』と言われ、そこでブレーキを踏んだのですが・・・」
「しまったと思ったんやね・・・。
単車を確認して、急ブレーキをかけたと・・・それでも間に合わず。
停止線の前で黄色だったのになぜ減速しなかったのですか?
「その時は黄色だったので。前の車についていっていたので(黄色だと思った)」
案外前を走る車の車高が高いと信号は見えないことがある。

「加療6か月、左足関節靭帯損傷となっているが、示談の状況は?」
「12月位にギブスも取れて、会社復帰のめどがつきつつあると話していました」
「見舞いには行きましたか?」
「事故後1週間くらいに1度嫁と一緒に行きました」
「他に何か連絡を取っていますか?
「電話では3~4回話しました」
「その時に話した内容は?」
「具合はどうですかと。あと保険の話、何か月くらいかかるかなどです」
至極まともな会話内容だ。

「車を45年程度乗っているが、交通事故を起こしたことは?」
「交通違反(行政処分)程度です」
「今回のことをどのように思っていますか?」
「悪いことをしたと思っている。
相手に怪我をさせた罪というか、会社も休まなあかんことになって、
本当に申し訳ないことをしたなと思って。
我がもはねられたことがあるので」

こうして弁護人からの被告人質問が終わる。

 

点と点(後編)へ続く

点と点(前編)

現代のニッポンで、自分で運転するかしないかは別にして、
クルマと無縁で過ごすことは難しいことなのかもしれない。
その圧倒的な母数の多さに比例して、ごく極身近なところで事故が起きている。
+ + +
そして法廷には、還暦を過ぎた善良そうな男性がひとり、
交通事故を起こしたという理由により、今から裁かれようとしている。

被告は、帰宅するために妻が同乗する普通自動車を運転していた。
被告が運転する車は、交差点に差し掛かる数十メートル手前には信号は黄色になる。
そのことに気付かずそのまま速度40km/hで交差点へ進入する被告。
そこへ横の信号が青になった被害者が運転する自動二輪車と衝突。

バイクはクルマに勝てない。
バイクを運転していた被害者が倒れ、
結果加療180日の左脚関節靭帯損傷の重傷を負うこととなった。

事故後に被害者は、
「被告はいろいろと詫びてくれているし、
ケガも重傷ではないと思うので物損扱いでいいと思っていた」と話していたらしい。
さらに「被告の処罰は望まない」とも言葉を添えている。
つくづく善人である。

しかし、そんな心優しき被害者を事故の後遺症が容赦なく襲いかかる。
当初は加療3か月の診断結果だったものが、後に加療6か月へと変更になる。
そして事件から4か月経過した今も未だ症状が固定しておらず、
会社も休職中とのことだ。
+ + +
法廷には、示談の状況を立証するため、保険会社の社員が出廷していた。
「被告が事件を起こしたことは知っていますか?」
と分かり切った質問からはじめる弁護人。
その後、補償金額が幸い上限なしだったこと、
被害者の症状が未だ治療中であること、
被害者と話ができていること、
既に保険金の一部が支払われていることなどが述べられて終了する。

弁護人の立証は非常に丁寧な進行だと感じた。
それも被告の徳なのかもしれない。
というのも、中学卒業後、溶接業など職を転々とするもこれまでに前科前歴もなく過ごし、
現在は定年を迎え、妻と二人暮らしをしている被告。
そんな日本の高度成長期を支え、真面目に勤めてきた被告を
一瞬の心の隙をつくように事故という魔物が襲ったのが今回の事故だ。

交通事故は、誰も得をしない。
そうつくづく感じさせられる裁判である。

 

点と点(中編)へ続く