裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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窃盗 手口

愛に飢えている私を見て!!(中編)

(前編のあらすじ)

短大卒のアラフォー、前科2犯、会社経営者、長い髪の毛先は金髪といった
なかなかの経歴を持つ被告。どうやら窃盗の常習犯のようだ。
ただ四十前にして会社経営をするいった大きな賭けをした被告にとって、
窃盗というあまりにスケールの小さな犯行に、何らかのメッセージ性を
探ってしまうのは、些か考え過ぎだろうか。

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犯行当日。
被告は兄夫婦と買い物をするために、ショッピングセンターへ出掛けた。
そこで立ち寄ったスポーツ店で、スーツ2着44,000円相当の衣料を自分のカバンに押し込んだ。
その様子を見ていた私服警備員に声を掛けられた被告は「何の話ですか?」ととぼけ、
事務所へ来るように促す警備員に向かって「何で事務所に行かなくてはいけないのですか」
と逆切れをしてみせたらしい。
そのやりとりに気付いた妹の犯行を知らないと供述をしている兄が警備員に、
「用事があるんや、弁護士の先生にTELするぞ」とすごんだらしい。
何とも美しい兄妹愛ではないか。

その後「カバンにややこしいものを持っていますね?」といった問いに対して、
「はい」と素直に犯行を認めた被告。一体何の心境の変化があったのだろうか。
そのままあえなく逮捕されて、警察で取り調べを受けることになる。
その時にこの被告は、なぜか被告は兄嫁を装って署名する。
一緒に付き添った妹思いの兄もまた妹の奇行に気付きはしたが、
咄嗟に話を合わせてしまったらしい。
結局これが私印偽造、同使用といった尾びれを付けることとなった。
更に被告のカバンの中からニッパーが出てきたが、
どう考えても防犯タグを破損するためのものと考えたくなるところだが、
本人は「タグは手でこじ開けた」「ニッパーはCDデッキが不調であり修理しようと
したために持っていた」と主張したらしい。

その後、弁護人は検察の調書の信用性について一部争うことを表明する。
そして、弁護人は被告の父を証人に喚問した。

>今回の犯行を聞いてどうでしたか?
「今回の犯行を聞いて驚き、そしてまたやってしまったか・・・という想いでした」
>何か原因は思い当たりますか?
「本人も犯罪はダメということが分かっているのに止められないというのは、
精神疾患の問題もあるのかなぁ・・・過食症、情緒不安定などもあるし」とのこと。
確か被告には、気分変調症の診断が下りている。しかし、それが原因なのかは甚だ疑問だ。
>犯罪抑制への啓発として何かしていますか?「声掛けをしている」
>カウンセリングへ行っているとのことだが?
「効果が見られ、以前に比べて落ち着いてきている」らしい。
>今後の改善方法は?
「厳しく言い過ぎた面もあるし、今まで以上に会話を中心にやっていくより仕方がない」
とのことだった。弁護人は、今回の犯行が気分変調症に起因しているということを立証しようと
していることは明らかである。

これを受けて検察からの証人質問は、
>厳しく言い過ぎたとは?
「買い物のときでも袋を持っていたら『入れてまうから袋を持つな!』と言っていた」
>その言葉に従いましたか?「それはなかったが・・・」
と父の保護能力が機能していないことを立証しようとしていた。

・・・何か物足りない。
続く、被告人質問に期待をしてみよう。

 

愛に飢えている私を見て!!(後編)へ続く

切ない窃盗②

入廷した裁判官に不思議な親近感を覚えたUNICO。
その理由を探るまでに、そう時間を要さなかった。
というのもこの裁判官が、国民的アニメである「サザエさん」に出てくる
「波平さん」に似ていただけのことであった。
・・・また話が逸れました。
ここで、事件の概要を検察の起訴状の朗読よりまとめてみる。

アルミ缶回収を行っていた被告(67歳)が、飲み屋で飲んでいる時に、
「エアコンの室外機は2000円で売れる」「盗るのは簡単」と近くの人が話しているのを聞いて、
お金に困っていた被告は、民家のエアコン室外機を「たまたま拾った」グリッパで配管を切断、
そのまま手押し車で持ち去ろうとしたところを御用となった。

これまで被告は前科13犯で、そのいずれもが窃盗。
前回出所直後には、生活保護を受給したが、僅か2ヶ月で打ち切りとなる。
打ち切りの理由を日サロ検事から尋ねられると、
「簡易宿泊施設で知り合った男からお金の無心をされ、断り切れずにお金を貸していた」
ことが続き、それが嫌で宿を出ることを決意する。
その後、野宿者となった被告は、数年間アルミ缶の回収などを行い、生活費を凌いでいたが、
近年の不況の影響を受け、いよいよお金に困り、今回の犯行に及んだとのことだった。

続いての証拠調べでは、検察官から何度も「またやるんじゃないの?」
「余罪があるんじゃないの?」と質問攻めを行い、
事前の調書では、余罪が3件と言っていた被告だったが、
話しているうちに訳の分からなくなった被告は、
「4件くらい・・・」と自分の首を自分で締める始末。
それを見た老弁護士も、
「何でお金に困るの?」「何で誰かに相談しなかったの?」とコンコンと説教をしはじめるし・・・。
まぁ、老弁護士からすれば、頼まれたら断り切れない被告の「人の好さ」を強調したかったようであるが、
本当に人のいい人は、2000円が欲しくて室外機を盗むといった選択はしない。

さらに老弁護士は、「身内は居るの?」と質問を続け、
「身寄りは居るが今さら会えない、迷惑を掛けられない」と被告が切なさを訴え、
情状酌量を訴る戦法に出たのだが・・・。
これも何ていうか、白々しいというか。

その茶番を見切った波平裁判官。
「刑務所はどうなの? 刑務所に戻りたいんじゃないの?」
と被告が、刑務所に戻ることにこだわって、何度も犯行に及んだのではないかを見極める質問が続く。
また波平からしてみれば、再犯防止が必須条件であるため、
「支援センターの存在を知っているか」など地域資源活用の必要性を訴えかけてはいた。

そんな何となく脱力感が漂う中、日サロは、毅然とした棒読みで、
「再犯を繰り返していること、身寄りがないこと、これまでの教育的矯正の効果が乏しいことなどを
理由に懲役3年を求刑」し、やる気のない老弁護士は、特に何も言わず、
被告は被告で、「やはり刑務所は自由がないので、娑婆がいい」
「今度こそ真面目に就職活動をして、再犯しない」
などとどこか噛みあわないやりとりが続いていた。

・・・切なさと諦めの空気が法廷内を覆う。
「やはり3年が妥当だろうな」
と心の中でつぶやくUNICOだった。