裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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暴行・傷害

急所をねらえ!(前編)

UNICOにとっては、はじめての裁判であった。

起訴されている被告は、某刑務所で服役中の身である。
30歳を超すメガネを掛けた被告が起こした事件は傷害であった。
刑務所内で被告はどんな事件を引き起こしたのだろうか。
◇  ◇  ◇
受刑中、同室の受刑者(33歳)の発言に立腹し、
連日第●居室で右脚の甲で同人の陰嚢(のう)に蹴りを入れて、
陰嚢血腫、陰嚢打撲、加療22日のケガを負わせたとのことだった。
平たく言えば、男の急所を相当の力で蹴り入れたということだ。

その痛みを分からぬ女性ならばいざ知らず、
男が男の急所を狙うということは余程のことを言われたのか、
それともよほどの悪人かのどちらかであろう。

まず被告の身上から整理をしてみる。
被告は高校中退後、飲食業など職を転々としたのち、現在○○刑務所で受刑中。
前科3犯で、うち平成18年に傷害で罰金20万円、
平成19年には窃盗で懲役1年6か月に処されている。
まずまずの経歴ではあるが、見るからに悪人相といった印象は受けない。

ということは、やはり被害者の発言がよほどだったのだろうか。
冒頭陳述によると、平成24年7月頃より○○刑務所○○○号室に入室するようになり、
そこに被害者と同室のAが居た。
被告は、まもなく被害者の掃除が雑なこと、他人の悪口を言うことなどに対して、
被告は再三注意を促したが、一向に改まらなかったようだ。

そして被告から同室のAに対して
「被害者をこの部屋から追い出そう」という話を持ちかけ、
今回の暴力を思い付く。ただ刑務官が見回りに来るため、
暴行中に刑務官が来たら知らせるようAに見張り役を頼む。
準備万端だ。そして被告は実行する。

被告は被害者をまず手拳で倒し、その後足の甲で股間を数回蹴るということを
少なくとも4日間程度は行ったとのこと。
ほかの日には食堂内において、被害者の姿を見つけるや被告が横に座り、
右太ももをつまみあげることをしたらしい。
「このようなひどい目に合わせた被告を許せない」と語る被害者。

ここまで聞いて、30過ぎたいいオッサン二人が、
じゃれ合って、電気アンマーでもしたのだろうかと思っていた。
しかし、調書からチラッと見えた赤黒く腫れあがった陰嚢部を映した写真を見ると、
そうではないらしい。これは正真正銘の傷害事件だ。
ただ部位が部位だけに、傍聴席からどこからともなく噛み殺した笑い声が聞こえてくる。
憐れ・・・被害者。

 

急所をねらえ!(中編)へ続く

言葉にできない(後編)

このようにどこかパッとしないまま裁判は淡々と進んでいき、
次は、検察からの被告人質問だ。

+ + +

「暴力をふるうのは今回がはじめてではないですよね?」
「2回目です」
「前回は尺八で被害者の頭を殴ったそうですが、
その時もインターフェロンの注射をしていたのですか?」
「はい」
「その時は何で殴ったのですか?」
「尺八の稽古をしていた時、妻が丁度夕飯の準備をしていまして、
自分はその横で稽古をしていたのですが、
その時妻に『サルが稽古して』と言われまして、それで頭に来て・・・」
確かに被告の顔は、見ようによってはサルにも見えなくはない。

「その時被害者はケガをしましたか?」
「2針程度縫いました」
「調書に『妻から挑発されたのでやった』とありますが、
自分自身でもそうなると抑えが利かなくなるといった自覚はあるのですか?」
「このままやっとったらえらいことになると思っておりまして、
そのことを妻にも言っていたのですが・・・。
自分の態度がおかしかったら言ってくれと伝えていました」
インターフェロンの副作用がそれ程キツイものなのだろうか。

「インターフェロンを投与すると調子が悪くなる、短気になってしまうということですか?」
「自分は嘘を吐かれるのがダメで、自分は嘘を吐かないので、それをされるとどうしても許せない」
「そのことは殴った理由になりますか?」
「ならない」
「それでも殴っている、それもコーヒーの瓶で殴っていますよね?」
「はい」
まさに言葉にできない、といったところだろうか。

「勾留中に誰か来ましたか?」
「いいえ、来ていない」
「終わります」
この質問で被告の凶暴性がより一層顕著となった。

そして、コナン裁判長からの質問。
「奥さんから連絡はありましたか?」
「ないです」
「今後あなたと一緒に関係を続けられないと言っていますが、離婚も了承しますか?」
「はい、妻がそう言うのならばしつこくはしません」
「今後人との関わりあいで腹の立つこともあると思いますが、その時はどうしたらいいと思いますか?」
「自分に対しては辛抱、友達づきあいは殆どないので。
ただ自分の周りにいる知り合いも嘘を吐くことはなかったので」
「今後カッとなる時は?」
「辛抱です」
この回答は再犯の不安が残る内容だ。
+ + +
以上で証拠調べが終わり、検察、弁護人からの最終陳述だ。
「顔面や頭部を拳骨やコーヒーの空き瓶で殴ったり、足蹴にするといった行動に加え、
『妻の態度が生意気だった』という女性を自分に従わせようとするところがあることは
非常に身勝手である。またケガも5針を縫い、また尾てい骨を骨折する、
被害者は現在施設で過ごしているなど不自由な生活を強いられているなど結果は重大である。
求刑は懲役2年が相当と思料します」
なかなか厳しい内容だ。

一方弁護人の主張は、
「インターフェロンの影響があること、結果が加療2か月とやりすぎではあるが、
激情的で計画性がないこと、直ぐに救護をしていること。
妻は現在DVシェルターに居るが、被告が離婚には応じると言っていること、
監督は居ないが同種の前歴がないこと、前回昭和56年に仮出所して以来犯行がないこと、
被害者弁済を考えていること、
被告の病状が悪化しており、医療刑務所へ入るなど無用の費用がかさむことなどを考慮し、
やはり執行猶予つきを望みます」
とこれまた温いことを言っている。

そして、被告。
「謝っても謝り切れないですが、えらいすみませんでしたと妻に言いたい」
+ + +
他人と摩擦を起こさない手段が「自分が我慢すること」といった被告の回答から、
被告の対人面での拙さを窺い知ることができた。
こうした考え方しかできない被告と同じ時間を過ごす人は、
楽しくないし、何より一緒に居て幸せに思えないであろう。
そのことを矯正施設で教育を施すのか、それとも社会内で勉強をするのかの問題である。

ただ被告の希薄な人間関係を考慮すれば、前者が相当であろうとUNICOは考える。
被告の年齢を考えれば、懲役2年でどうにかなるものでもないように思われるが、
やはり懲役2年が妥当であろう。
(了)

言葉にできない(中編)

腹が立って妻を何度も殴り、大けがを負わせてしまった憂うる困り顔の被告。
ここまでは被告にとって、圧倒的不利な状況である。
この状況を打開するべく弁護人が情状立証として準備したのが、

①被害者(妻)との示談書
②被告の住まいの住居確認
③②の管理元である管理センターへの手紙(賃貸借契約の確認をするため)
④被告が拘置所に居ることの確認
⑤妻が入院している病院からの診断経過
⑥⑤送付の書証
⑦被告が生活保護を受給する際にお世話になった共産党事務員へ証人として
出廷して貰うようにお願いをしたが出廷できない旨の回答書

とツラツラと説明をする弁護人。
他の裁判ではここまで細かな説明はない。
+ + +
そして、細かい弁護人からの被告人質問がはじまる。
「今回の犯行前に、インターフェロンの注射をしていたの?」
「はい」
「インターフェロンの注射をした後、副作用のような症状はありますか?」
「熱が出て、身体がだるい・・・しんどくなる」
「その時の気分は?」
「しんどい」
「その時はイライラするの?」
「イライラします。些細なことでもイライラします。
今回も正直に言ってくれれば辛抱できたのに嘘を吐かれたのが・・・」
インターフェロンの注射がどれほど不快なものか知らないが、
この注射をした人が傷害の罪を犯していたらなかなか怖い世の中である。

「現在はどう思っているの?」
「ケンカしてケガをさせたことには、謝っても謝りきれん」
「現在離婚はしていない?」
「はい」
「もし被害者が復縁、被告のところへ帰ってくるとしたらどうですか?」
「辛抱します・・・インターフェロンもやめようと思っています」
「もし離婚と言われたらどうしますか?」
「しつこくはしない、妻の希望通りにしようと考えている」
「事件後1か月程度経ちますが、被害弁償はしましたか?」
「未だですが、今後分割でもしていきたいと思っている」

「社会復帰後に頼れる人は共産党の稲垣さんだけですか?」
「はい」
「友人は居ますか?」
「深い友人は居ない、知り合いならばいるが・・・」
共産党の人だけが支えかぁ・・・。
選挙前しか支えてくれなさそうだ。

「あなたの病名は何ですか?」
「C型肝炎です」
「未だガン化はしていないのですか?」
「まだしていない」
「おわります」
+ + +
さすが細かい弁護士、質問内容も細かすぎて立証趣旨がぼやけている。
弁護人が立証したかったのは、今回の事件は病気、薬が原因だったと
言いたかったのだろうか。

 

言葉にできない(後編)へ続く

言葉にできない(前編)

法廷に姿を現した被告。
その表情は、どこか困り果てていた。
この憂うる困り顔の被告が今回起こした事件は「傷害」。

起訴状によると、被告人方で妻の言動に立腹した被告は、
妻に対してまずは頭を拳骨で殴り、
その後、インスタントコーヒーの空瓶で頭を殴打し、
そして左肩や顔面、後頭部、腹部を拳骨で殴打したとのことだった。
結果妻は左肩骨折に、頭頂部は打撲と挫傷による出血という大けがを負うこととなった。
その後妻から救急車を呼ぶように促され、病院へと担ぎ込まれたことにより、
今回の事件が発覚した。

被告は起訴状に対して、素直に犯行を認めたため、
そのまま裁判は検察からの冒頭陳述へと進む。
+ + +
被告は中学卒業後、建築業などに勤めるも現在は無職、生活保護を受給している。
これまでに窃盗の前科があるとのことだが傷害の前歴はない。
なぜ被告は、ここまで妻へ暴力を振るったのだろうか。

被告は過去に脳血栓を患い、それ以後思うように言葉が出なくなっていたらしい。
今回の事件のきっかけも、妻と一緒に出かけた帰り道で、
妻から家賃の引き落としの書類の所在について聞かれ、
うまく答えられなかった被告。
そのことで口喧嘩となるも、自分の思いを満足に言い返すことができなかった被告。
そして怒りがおさまらず今回の犯行に及んだようだ。

事件後に被告は、警察の取り調べに対して、
「『薬であんたはぼけているんや!!』『やれるもんならやってみい!!』
と挑発されてカッとなって立て続けに殴ってしまった。
好きな女が生意気な発言をすると腹が立つ」と供述していたらしい。

これまでにも被告は、妻を殴っていたことがあるらしく、
うち一度は尺八で頭を殴り、出血までのケガを負わせたことがあったらしい。
+ + +
う~ん、難しい。
被告の身体を若干考慮に入れても、やはりやり過ぎの感は否めない。
もう少し細かい事情を聞きたいところである。

 

言葉にできない(中編)へ続く

子どもっぽいあなたたちに喝! ~傷害罪の判決~

人間をそれなりの期間やっていると、理不尽なことや腹立たしいことに遭遇するのは避けられない。
ただそのイライラを暴力という形にしてしまったらどうなるのか?
大人であれば、誰もが分かることである。
しかし、そんなことが分からなかったのがこれから登場する被告と被害者である。

ふてぶてしい態度で鎮座する被告は、多少物分かりの悪そうな面構えをしていた。
年のころ、60はゆうに超えているように見える。
この被告は、今回傷害罪で起訴されている。
傷害罪と暴行罪とあるが、傷害罪は人の身体を害する傷害行為を内容とする犯罪であり、
広義には刑法第2編第27章に定める傷害の罪(刑法204条~刑法208条の2)を指し、
狭義には刑法204条に規定されている傷害罪を指す。
要は相手に怪我を負わせてしまったら、傷害罪となってしまうようだ。
ただこの罪に対する法廷刑は意外と重く、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる(WIKI)。

被告は、いったいどんな因縁をつけたのか?
事件の経過を聞くと、どうもこのふてぶてしい態度の被告は、
以前、近くに住む今回の被害者から暴行を受けていたらしい。
それでも大人だった被告は、その場は何の報復もせずにじっと我慢したようだ。
しかし、いつまで経っても被害者から謝罪の言葉がなく、次第に被告は苛立ちを募らせることとなる。
後日、行きつけのスナックで、不幸にも被告と被害者が鉢合わせとなった。
それでも今回の被害者からは、謝罪の言葉はおろか、
まるで何ごともなかったかのようにそのまま通り過ぎてしまったのだった。
被害者のこの行動で被告は、切れてしまった。
切れた被告は、被害者の背後に回り、ウィスキーの空き瓶でいきなり殴りつけ、
その衝撃でふらついている被害者の顔面に手拳を一発お見舞いした。
結果、被害者は全治2週間程度の軽傷を負うこととなったのだった。

主文、被告を懲役10か月に処する。ただし刑の執行を3年間は猶予する。

判決理由として、酔者同士の小競り合いということがあったにせよ、
被告の粗暴さ、執拗さについては、同情の余地もない。
ただ被告が起訴事実を認めていること、初犯であること、
そして断酒を誓う被告に対して知人がフォローすると言ってくれていること、
被告が被害者に対して賠償を申し出ていること、
そして、暴力行為の割には偶然にも被害者のケガが軽傷程度で済んだことを鑑み、
社会内更正が相当と判断したためとのことだった。

最後に裁判官から、今回の事件は、お互いに大人げないものですから、
今後はくれぐれも周囲に迷惑を掛けないように、
そして、今回の事件が生涯で一度きりとなるように心掛けてくださいと釘を刺され閉廷となった。

法廷刑の割には、比較的軽い量刑である。
これも喧嘩両成敗ということになるのだろうか。