裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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道交法違反

今、会いに行きます(後編)

検察官から追い込まれ、戦意喪失気味の被告。
そんな被告に対し、更なる試練が襲い掛かる。
満を持して、説教好き裁判長からの質問だ。

+ + +

「この10年以内に3回罰金になっていますね、これまでに合計で44万円を支払っていますよね。
これは自分で支払ったの?」
「半分は親戚に借りました」
手厳しい質問だ。そして更に説教好きからの質問攻撃は続く。

「返せたの?」
「あと5万円・・・残っている」
「痛い目にあっていまよね?」
「はい」
「それでまた何でやろうと思ってしまうの?」
「酒で気が緩んでいた・・・何で乗ってしまったのか、今は反省しています」
「これまでに3回捕まって、罰金まで払っている。それでもこれまでは勾留はされていない。
日頃シラフな時に分かっていればしないはずですよね。それは言い訳ですね。
大したことはないと思っていたんじゃないよね?」
「はい」
もはや防戦一途の被告。そんな被告に対して、まだまだ裁判長からの説教交じりの質問は続く。

「今回はワインまで飲んでいる。ワインを飲んだら酔うことは分かるよね?
それに飲んで直ぐだったし、いくらなんでもそれは無理だと思いますよ」
「はい」
「0.4mgは多い方だと思います? 少ない方だと思います?」
「多分多い方だと思います」
「分かっていますよね・・・この時は相当フラフラしていたはずだよね。
気持ちよくてほーっとしてたんじゃない?」
「多分」
「その状態は危ないよね。保障はできないでしょ?」
「できません」
「今回誰にも迷惑が掛からなかったのは偶々なかっただけで、
社会的に酒帯び運転はかなり問題になっていることは知っていますよね?」
「はい」
「それで事故を起こしていたらTVやニュースの範囲になりますよ」
「はい」
「彼女からTELが掛かってきた時に返せと言われたの?」
「いいえ、原付は『いつか返して』と言われていただけです」
「TELの時に酒を飲んだので彼女に来て貰うこともできたんじゃない?」
「はい」
なすすべなし。

「いつから仕事をしていないの? 将来の目途は立っているの?」
「今度同級生が会社をおこすのでそこで雇ってもらうことにはなっています」
「どんな仕事をやるの?」
「ペンキ屋・・・塗装業です」
「塗装の仕事も結構つらい、難しい仕事だと思いますが本当に大丈夫なの?」
「大丈夫です」
「まぁ、そこで厳しさを教えて貰えるかもしれないが、それをいい加減にやると、
今日みたいに必ず罰を受けることになるのでそのことを十分に学んで貰いますね」
「はい」
こうして被告は晴れて解放されたのだった。

 

今、会いに行きます(判決編)へ続く

今、会いに行きます(中編)

原付の酒気帯びで捕まったパピヨンヘアの被告。
その弁護を引き受けたやる気のない弁護人からの被告人質問が早々に終わり、
続いて、佐古キャスター似の検事からの質問だ。

「家で飲んでいたの?」
「はい」
「交際相手から連絡があったのですか?」
「はい」
「交際相手に会いに行くためですね?」
「はい」
佐古キャスターはいつもジャブから入る。

「その時に乗るのは止めようと思いませんでしたか?」
「それは思いましたが、その時は軽い気持ちだったので・・・」
被告はこうして徐々に検察の術中に嵌るのだ。

「別の手段は考えなかったの?」
「徒歩でも良かったと思います」
「交際相手の家まではおよそ1.5km程度ですよね、十分に歩けますね?
「はい」
「この日借りていたバイクを返そうと思ったの?」
「はい」
「なぜこの日に返そうと思ったの?」
「・・・・・・早く返そうと思いまして」
被告はもう追いつめられている。

「うん、酒気帯びがどうして悪いのかについては分かっていますよね、
事故を起こしてしまうとは考えなかったの?」
「考えませんでした、その時は・・・」
「何で飲んで運転しようと思うのかな・・・どうして壁があるのに
乗り越えてしまうのでしょうかね?
「・・・・・・よく考えていませんでした」
これは厳しい。

「酒を飲んだら正確な判断はできないよね、万一の場合、責任はとれるの?」
「取れません」
「取れないよね、過去にもありますよね・・・それを踏まえてこの時は考えなかったの?」
「考えました」
「酒を飲むとそういったものも緩んでしまうのかな?」
「その面もあったと思う」
もはや被告はKO状態である。

「今後原付には乗るの?」
「もう乗りません。自動車も去年11月に処分しました」
「今後運転することは?」
「原付や自動車はもう使いません」
「それで不便じゃないの?」
「はい、自転車を買いましたので、これで行ける範囲で必要なものを探します」
検察の圧勝であった。
そして30歳にして、今後二度と運転をしないと宣言させてしまったのである。
本当に自転車で交際相手は納得するのだろうかは疑問である。

 

今、会いに行きます(後編)へ続く

今、会いに行きます(前編)

簾のような前髪をバッチリと決めたパピヨンヘアの被告が出廷する。
まさにバブル期を彷彿するものだ。
そんなパピヨン被告の年齢は、世間的に言い訳のできない30歳だ。

起訴状によるとこのパピヨンは、深夜1時過ぎに酒気帯びで原付を運転していたところを
警察官に呼び止められたらしい。
呼気からは0.4mgのアルコール分が検出されたらしい。

以前なら、行政処分で終わっていたものだが、
近年は酒気帯び運転が社会的問題となり、それを受けて道交法が改正され、
罰則規定が設けられるようになったわけだ。
+ + +
それにしても、酒気帯びだけで正式な裁判となってしまうには何らかの理由があるはず。
佐古アナ似の検事による冒頭陳述を聞いてみよう。

被告は、高校中退後、自動車販売業に勤務。
これまでに交通違反による罰金が3件あり、うち2件は速度超過で各7万円の罰金、
残りの1件は酒気帯びで30万円の罰金となっている。
合計44万円・・・積もるとかなりの金額である。

そして今回。
500mlの缶ビールと750mlのワインを飲んだところに、
交際相手より連絡があり、彼女の元へ駆けつける際に、
借りていた原付を返そうと思い付き、ふらつきながら原付を運転。
そして、彼女の家の前で警察官に職務質問を受けて捕獲されたようだ。
自宅からおよそ1.5km程度の距離だったらしい・・・。
+ + +
被告、弁護人とも異議なしであったため、早々に被告人質問が行われる。
まずはやる気のない弁護人からの質問だ。
「酒気帯び運転をして悪いところは何ですか?」
やる気のない弁護士、恐ろしく早口だ。
「正常な運転ができなくなることです」
「なぜ正常な運転ができないのですか?」
「人をはねてしまったり、ケガをさせてしまうからです」
「前回平成17年に罰金を受けていますが?なぜやってしまったの?」
「一度捕まっているのに、またやっているので申し開きはありません」
「これから運転をすることはありますか?」
「免許も返還していますし、車も処分しましたので、もうするつもりはありません」
「今後絶対にしませんか?」
「はい」
「終わります」
・・・何とも淡泊な被告人質問。本当にやる気がない。
こんな調子じゃ、実刑になるのでは???

 

今、会いに行きます(中編)へ続く

ママ、ぼく捕まっちゃったぁ~!!

法廷には、額がやけに狭い、大柄な男が入廷する。
被告はどうやら保釈中のようである。
年齢は42歳。
高校中退後、現在は塗装業に勤務している。
これまでの前科前歴は計3犯。
うち1件は、傷害罪で懲役4月、執行猶予3年。
次は、業務上過失傷害で15万円の罰金刑。
3件目が恐喝及び窃盗罪で懲役3年、執行猶予4年に処されている。
またこれまでに交通違反の前歴も複数回あり、うち3回は信号無視で捕まっている。
そんななかなかの経歴を持つ被告。
今回は、道路交通法違反と自動車運転過失傷害の罪に問われている。
+ + +
今回の事件のあらましはこうだ。
無免許(免許取消)で自動車を運転中に、
信号待ちをしていたタクシー運転手である65歳の被害者の運転する車両に後方よりぶつけ、
被害者が負傷したことを認識しながらも、
110番通報をせずに逃げたことによるもの。

被害者は、頸椎捻挫で加療10日の負傷をした。
被告はその時、交際相手の女性に会いに行くところであったことと、
何よりも、執行猶予期間中であり、
無免許運転をしたことと飲酒をしていたことが警察に知れることを恐れて逃走したとのこと。
確かに今度こそ実刑となる・・・その気持ちは分からないでもないが。

幸い被害者は、事件後2週間程度の加療で業務に戻っている。
また被害者は事件直後には
「被告にはぜひ厳しい判決を下してほしい」と厳罰を希望していたが、
早々に示談交渉を済ませた被告の手際よさを受けて一転、
「仕方のない事故だった、ただ逃げたのは良くないので適正な処罰を」
と態度を軟化させているらしい。
またその嘆願書へサインをして貰えるように現在依頼しているらしい。
・・・相当のカネを積んだのだろう。

この日の法廷はここででストップとなった。
というのも、弁護人が提示した今後の立証予定として、
書証関係では、示談書と自賠責保険の証書を提出し、
次回に情状証人として、福岡に住む母親が遠路はるばる息子のため、
持病を抱えながら出廷することとなっているためだ。
せめて、被告人質問までやって欲しかったが・・・
証人質問のあとが流れなので仕方がない。

結果、次回公判日時を決めて閉廷となった。
次回は2月18日(月)10時~。
+ + +
今回の事件は執行猶予中のものであり、
今度こそ実刑が免れない状況となった被告。
息子の一大事とあれば持病があっても母親は駆けつけるだろう・・・。
母にとって、子どもは何歳になっても子どもなのであろう。

それしにしても、体格に似合わず何ともだらしない被告に対しては、
前回の刑と加重して、懲役3年6か月でどうだろうか、裁判長!!

 

(了)

車社会という幻想 ~道路交通法違反 Ⅱ~

主文、被告を懲役6か月とする、ただしその刑の執行を3年間猶予する。

前回は若い被告の飲酒運転について紹介をしたが、
これから登場する被告は、60歳を超えた結構な年配者であった。
ただこの年配の被告、どこか元気がないのだが・・・一体何があったのか?

被告は、会社を営んでいる。
この事実と被告の様子から直ぐに会社の経営がうまくいっていないのだなと考えた。
まぁ、会社の経営とその人間の状態とが必ずしも直結するわけではないと思うが。
ただ出廷した被告の顔を見れば、経営状態が決して芳しくないことくらいは容易に想像できた。
それほど被告の表情が暗かったのだ。それも悲壮感が漂うほど暗かったのだ。

そんな悲壮感を漂わせる被告が、今回引き起こした事件は無免許運転。
それも1度や2度ではなく、何度も繰り返していた。
免許を取りに行く金もなく、何十年も無免許で乗っていたのかと勝手に妄想するUNICO。
ただ話を聞いているとどうも状況は違うようである。
この被告の場合は、細かい違反をコツコツと積み重ね、免許取り消しに至ったらしい。
更に、今回捕まったのは、免許再取得までの欠格期間を待機しきれず、
しれーっと無免許であることを知りながら運転していて、
信号無視という新たな違反を積み重ねたところを警官に見つかったというのだ。

これは苦しい・・・。
ただ被告には、自分なりの言い分があったようだ。
逮捕後、被告の口からは「(仕事で車を使用しなければいけないのに)欠格期間が長すぎる」
とこぼれてきたらしい。
うーん、確かにそう言えなくもないが・・・何だかねぇ。

今回の量刑の判断として、規範意識の低さと無免許でありながら車を所有し続けることから
窺える常習性が問題点として挙げられていた。
確かに、この被告ならばまたやりかねないかもしれない。
それでも執行猶予付の有罪判決となった。
その減刑酌量として挙げられていたのは、被告が起訴事実を認めていること、
そして、被告の妻が今後このようなことが起きないように被告を監督する旨の申出があったことだった。

もし被告が無職で、単身者であったならば、また違った判決になっていたのだろう。
こうした量刑判断は、法解釈平等の見地から判例の影響を多大に受けている。
前回の若者といい、今回の件といい、厳罰にすれば犯罪抑止につながるとは言い難いが、
どこか釈然としないものを残しながら、UNICOは法廷を後にするのだった。