裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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裁判 膨張

燃える涙(前編)

男は酒が飲みたいと思い、それを求めて近くのコンビニに入る。
ビール(発泡酒)を手に持ち、そしてビールの肴としてポテチを選択する。
その時あることに気づいた。
所持金が140円しかなかったことに・・・。
大抵ならビールのみを選択し、ポテチはすんなりと諦めるだろう。

しかし男は考えた。
いや、この男の場合は直ぐに間違った方の答えを出したのかもしれない。

というのも男はビール(発泡酒)をズボンのポケットに入れ、
ポテチのみを清算するためにレジへと向かう。
つまり誘惑に負けたのだ。

そしてポテチ代のみレジを済ませ、悠然と店外へ出ようとした時・・・
店員に声を掛けられて、あえなく御用となったのだ。
何とも格好の悪い話である。
◇  ◇  ◇
男は窃盗の罪に問われ、被告として法廷に現れている。
年は四十を超しており、見た感じは松山千春に似ている。
犯行時交際していた相手が居り、
この日は交際相手から1000円をもらっていたとのことだった。

そして、この交際相手がこの日証人として出廷していることが、
森三中大島似の弁護人から知らされ、直ぐに証人質問へと入った。

「出会ったのはいつごろですか?」
「一昨年の8月のはじめです」
「出会ったきっかけは?」
「病院に入院している時に出会いました」
そんな出会い方もあるんだ。

「普段の被告の人柄はどうですか?」
「温厚で優しくて、自分には親切にしてくれました」
「付き合いだしたきっかけは?」
「病院で知り合った共通の友人とボーリング、カラオケなど交流していく中でです」
確かに内臓以外の病気が原因で入院しているならば案外時間を持て余すのは分かる。

「彼の仕事は?」
「当時は生活保護を受給していました。その後は派遣で勤めたりもしていました」
「アパートを借りていますよね?」
「2人で一緒に生活していくことを考えて」
「誰の名義で借りたのですか?」
「私が借りました」
財力は交際相手の方があるようだ。

「アパートには一緒に住んでいますか?」
「私は未だ実家に住んでいます。実家とアパートを行き来するようになっていました」
通い妻といったところか。

「暮らしてみて彼の人柄はどうですか?」
「以前と変わらず、私に対して優しくて思いやりがあります。
それに友だち思いだと思います」
「具体的には?」
「友だちから身の上相談をされていますし、
私と一緒の時は、先にドアを開けてくれたりとか、そういうところで優しさを感じます」
昭和の香りがした。さすがは千春。

「前科については知っていましたか?」
「付き合いはじめたころから知っていました」
「そのことについてどう思いましたか?」
「それは過去のことなので、彼の人柄を見ていると信じられないところがありました。
そして私と付き合うようになってもう大丈夫かなと思うようになりました」
なかなかの万能感である。

 

燃える涙(中編)へ続く

急所をねらえ!(後編)

同じ刑務所に入る被害者の陰嚢を赤く腫れ上がるまで蹴り、
傷害の罪で問われている被告。
柔道黒帯の弁護人からの被告人質問に対して、
被害者が社会に出てから困らないようにしつけをしたと言っていることから
また繰り返す予感を覚えたUNICOだったが・・・。
この心証を続く検察からの被告人質問で変えることはできるだろうか。
◇ ◇ ◇
「被害者に対しては今どう思っていますか?」
「無理やり手出しをしてしまったことを悪いと思っています」
「具体的にどこが悪かったと思うの?」
「別の方法、他人のことは放っておくしかないということを分かっていなかった。
それができずに短気なところがあったと思う」
正しいのか正しくないのかよく分からない意見である。

「なぜできなかったの?」
「半年近く一緒だったのですが、最初は放っておくことができたが、
ただ段々と被害者のことが目につき、それで誰かに相談しようと思っても居なくて、、、。
自分の中で腹が立ってきてしまいました」
やはりしつけでもなく自分の苛立ちである。

「Aさんに相談はしましたか?」
「工場で何回かしました」
「相談したあとの結果は?」
「Aさんは『そうですね』としか言わなかったので、具体的な解決にはならなかった」
それが大人の対応というものであろう。

「被害者の言動はAさんも知っているよね、それでもAさんは暴力をふるっていないよね?」
「はい」
「あなたは平成17年にも傷害事件を起こしていますが、この内容は?」
「同じ部屋で生活している若い子が、他の子に怪我をさせたり、
嘘を吐いたりしていたので、腹が立って・・・」
「拘置所といった今回と同じような環境で相手の行動が気になって暴力をふるっていますね」
「はい」
「このような我慢できない状況で今後暴力を振るわないと言える?」
「しないように十分に自粛します」
拘禁症状なのかもしれない。

「前のときのことは考えなかったの?」
「考えました」
「受刑中という身分、暴力などはあっていいはずもなく本来は反省する場である。
その点については考えなかったの?」
「甘かったところがあったと思います」
「それが歯止めにはならなかった?」
「甘かったです」
「終わります」
今後被告が、このような環境下に身を置くことがないように祈るばかりである。

その後、検察から懲役1年2か月が求刑される。
そして黒帯弁護士が、結果を見て止めたことで重篤化せずに済んだこと、
少ないお金の中で1万円を送金し、弁済していることなどを挙げて、
中赦を適用してもいいのでないか。寛大な判決を望みますと主張するに至った。

そして被告の最終陳述は、
「今回やったことは相手を傷つけたことを反省しています。
できる限り被害者についても償っていこうと思っています。
今後は真面目にやっていこうと考えています」
と無難にまとめ、結審となったのである。
◇ ◇ ◇
この被告は、良く表現すると真面目なのであろう。
ただ自分の狭い価値観を押し付けてしまうところが
被告のウィークポイントなのかもしれない。

今回は方法が良くなかった。
この行為に対して減免しろと主張する黒帯弁護士の意見はどうかと思った。
残念だが、検察の求刑をUNICOは支持したい。
(了)

急所をねらえ!(中編)

そして、裁判は「柔道黒帯三段」といった感じの弁護人からの被告人質問へと続く。

「起訴状に間違いない?」
「はい」
「この日は朝から被害者が股間を抑えて蹲っていたの?」
「はい」

「それであなたは見せてくれと言ったのですか?」
「はい」
「それでどうだったの?」
「はい、股間が赤く腫れていました」
「それを見てどう思った?」
「ものすごく痛かったやろうなと思いました」
「どの程度の強さでやったの?」
「そんなに強くない・・・10だったら2-3程度の強さです」
それでも腫れる部位である。想像しただけで堪らない。

「破裂する可能性は考えなかった?」
「分かります」
「腫れたらどうなるか分かる?」
「子どもができなくなることがある」
「認識はありますか?」
「はい」
それならばあえてそこを狙わなくてもいいだろうが。

「被害者が朝の準備やそうじをちゃんとしていなくて、
その上に工場の班長の悪口を言っていたのを聞いたの?」
「はい」
「その人とあなたは知り合いだったの?」
「はい」
う~ん、身内びいきか。

「放っておくという方法もあったはず。そういった選択肢を考えなかったの?」
「はじめはそう思っていたのですが」
「最初から暴力を振るっていないよね?」
「はい、はじめは口で注意をしていました」
「それでも改善しなかった、それでも放っておくことはできたのになぜ?」
「社会に出てから被害者が苦労すると思いました。このままじゃいかんと思いました」
主観的な正義感は、時に暴力を振るう口実となる。

「途中でしつけるのは?」
「無理だと思った。その時点で出て行ってくれと言ったのですが、絶対に出て行くとは言わなかった」
「放っておくべきだったと思っている?社会にはいろいろな人が居て、
それをいちいち相手にしていたらこんなことになるということを教訓にしてほしい」
「はい、分かりました」
質問中に説教を織り交ぜるといった高等テクニックをさらりと組み込む黒帯。

「今後の仕事は?」
「自分が出来る所からやっていきたい」
「具体的にはどこで?」
「先輩のところでお世話になるつもりです」
「先輩を何をやっているの?」
「カー用品のリサイクル店です」
「そこで雇ってもらえる可能性は?」
「8割程度です」
「根拠は?」
「たまに手紙でやりとりをしています」
本当に8割なのだろうか。

「どこにあるの?」
「○○県です」
「先輩からの嘆願書は書いて貰えそう?」
「大阪に居ているならばお願いできるのですが・・・」
「今後社会に出ると自分より若いモノが居て、マナー面が悪い人も居る。
今後またしつける可能性はありますか?」
「今後は手を出さないようにします。ちゃんと言いきかせる努力をします」
自分が躾けるといった考え方を変えることは難しいのだろうか。

「チームワークが必要なことは分かる?」
「はい」
「今後もう二度とない?」
「はい」

これを聞いて、被告の正義マンっぷりを痛感した。
そして、また繰り返してしまう予感を覚えたのはUNICOだけだろうか。

 

急所をねらえ!(後編)へ続く

言葉にできない(後編)

このようにどこかパッとしないまま裁判は淡々と進んでいき、
次は、検察からの被告人質問だ。

+ + +

「暴力をふるうのは今回がはじめてではないですよね?」
「2回目です」
「前回は尺八で被害者の頭を殴ったそうですが、
その時もインターフェロンの注射をしていたのですか?」
「はい」
「その時は何で殴ったのですか?」
「尺八の稽古をしていた時、妻が丁度夕飯の準備をしていまして、
自分はその横で稽古をしていたのですが、
その時妻に『サルが稽古して』と言われまして、それで頭に来て・・・」
確かに被告の顔は、見ようによってはサルにも見えなくはない。

「その時被害者はケガをしましたか?」
「2針程度縫いました」
「調書に『妻から挑発されたのでやった』とありますが、
自分自身でもそうなると抑えが利かなくなるといった自覚はあるのですか?」
「このままやっとったらえらいことになると思っておりまして、
そのことを妻にも言っていたのですが・・・。
自分の態度がおかしかったら言ってくれと伝えていました」
インターフェロンの副作用がそれ程キツイものなのだろうか。

「インターフェロンを投与すると調子が悪くなる、短気になってしまうということですか?」
「自分は嘘を吐かれるのがダメで、自分は嘘を吐かないので、それをされるとどうしても許せない」
「そのことは殴った理由になりますか?」
「ならない」
「それでも殴っている、それもコーヒーの瓶で殴っていますよね?」
「はい」
まさに言葉にできない、といったところだろうか。

「勾留中に誰か来ましたか?」
「いいえ、来ていない」
「終わります」
この質問で被告の凶暴性がより一層顕著となった。

そして、コナン裁判長からの質問。
「奥さんから連絡はありましたか?」
「ないです」
「今後あなたと一緒に関係を続けられないと言っていますが、離婚も了承しますか?」
「はい、妻がそう言うのならばしつこくはしません」
「今後人との関わりあいで腹の立つこともあると思いますが、その時はどうしたらいいと思いますか?」
「自分に対しては辛抱、友達づきあいは殆どないので。
ただ自分の周りにいる知り合いも嘘を吐くことはなかったので」
「今後カッとなる時は?」
「辛抱です」
この回答は再犯の不安が残る内容だ。
+ + +
以上で証拠調べが終わり、検察、弁護人からの最終陳述だ。
「顔面や頭部を拳骨やコーヒーの空き瓶で殴ったり、足蹴にするといった行動に加え、
『妻の態度が生意気だった』という女性を自分に従わせようとするところがあることは
非常に身勝手である。またケガも5針を縫い、また尾てい骨を骨折する、
被害者は現在施設で過ごしているなど不自由な生活を強いられているなど結果は重大である。
求刑は懲役2年が相当と思料します」
なかなか厳しい内容だ。

一方弁護人の主張は、
「インターフェロンの影響があること、結果が加療2か月とやりすぎではあるが、
激情的で計画性がないこと、直ぐに救護をしていること。
妻は現在DVシェルターに居るが、被告が離婚には応じると言っていること、
監督は居ないが同種の前歴がないこと、前回昭和56年に仮出所して以来犯行がないこと、
被害者弁済を考えていること、
被告の病状が悪化しており、医療刑務所へ入るなど無用の費用がかさむことなどを考慮し、
やはり執行猶予つきを望みます」
とこれまた温いことを言っている。

そして、被告。
「謝っても謝り切れないですが、えらいすみませんでしたと妻に言いたい」
+ + +
他人と摩擦を起こさない手段が「自分が我慢すること」といった被告の回答から、
被告の対人面での拙さを窺い知ることができた。
こうした考え方しかできない被告と同じ時間を過ごす人は、
楽しくないし、何より一緒に居て幸せに思えないであろう。
そのことを矯正施設で教育を施すのか、それとも社会内で勉強をするのかの問題である。

ただ被告の希薄な人間関係を考慮すれば、前者が相当であろうとUNICOは考える。
被告の年齢を考えれば、懲役2年でどうにかなるものでもないように思われるが、
やはり懲役2年が妥当であろう。
(了)

言葉にできない(中編)

腹が立って妻を何度も殴り、大けがを負わせてしまった憂うる困り顔の被告。
ここまでは被告にとって、圧倒的不利な状況である。
この状況を打開するべく弁護人が情状立証として準備したのが、

①被害者(妻)との示談書
②被告の住まいの住居確認
③②の管理元である管理センターへの手紙(賃貸借契約の確認をするため)
④被告が拘置所に居ることの確認
⑤妻が入院している病院からの診断経過
⑥⑤送付の書証
⑦被告が生活保護を受給する際にお世話になった共産党事務員へ証人として
出廷して貰うようにお願いをしたが出廷できない旨の回答書

とツラツラと説明をする弁護人。
他の裁判ではここまで細かな説明はない。
+ + +
そして、細かい弁護人からの被告人質問がはじまる。
「今回の犯行前に、インターフェロンの注射をしていたの?」
「はい」
「インターフェロンの注射をした後、副作用のような症状はありますか?」
「熱が出て、身体がだるい・・・しんどくなる」
「その時の気分は?」
「しんどい」
「その時はイライラするの?」
「イライラします。些細なことでもイライラします。
今回も正直に言ってくれれば辛抱できたのに嘘を吐かれたのが・・・」
インターフェロンの注射がどれほど不快なものか知らないが、
この注射をした人が傷害の罪を犯していたらなかなか怖い世の中である。

「現在はどう思っているの?」
「ケンカしてケガをさせたことには、謝っても謝りきれん」
「現在離婚はしていない?」
「はい」
「もし被害者が復縁、被告のところへ帰ってくるとしたらどうですか?」
「辛抱します・・・インターフェロンもやめようと思っています」
「もし離婚と言われたらどうしますか?」
「しつこくはしない、妻の希望通りにしようと考えている」
「事件後1か月程度経ちますが、被害弁償はしましたか?」
「未だですが、今後分割でもしていきたいと思っている」

「社会復帰後に頼れる人は共産党の稲垣さんだけですか?」
「はい」
「友人は居ますか?」
「深い友人は居ない、知り合いならばいるが・・・」
共産党の人だけが支えかぁ・・・。
選挙前しか支えてくれなさそうだ。

「あなたの病名は何ですか?」
「C型肝炎です」
「未だガン化はしていないのですか?」
「まだしていない」
「おわります」
+ + +
さすが細かい弁護士、質問内容も細かすぎて立証趣旨がぼやけている。
弁護人が立証したかったのは、今回の事件は病気、薬が原因だったと
言いたかったのだろうか。

 

言葉にできない(後編)へ続く