裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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裁判傍聴 ブログ

誘惑の炎(後編)

止めていた三輪原付の後ろカゴに火をつけ、器物損壊の罪で起訴された英明似の被告。
今回の事件を起こした本当の動機を聞きだすべく、
弁護士が被告人に色々と質問をぶつけるも全く見えてこなかった。
続いては、佐古検事からの被告人質問だ。

「前日に見て、また火が見たくなった言っていましたが、
他人の物になぜ火をつけたのですか?」
「毎日19時30分~20時に家を出て、いつもは普通に運動をしていました。
ただ前日の火を見た場所をパッと見た途端に、
『火が見たい』といった衝動に駆られ、それで燃やそうと思いました」

「火が見たい気持ちのあとに他の人のモノに火をつけていいと思ったの?」
「火を見て後悔しました・・・」
「火事の現場で火を見ているよね、火は燃えあがったよね、高さはどれ位まで上がったの?」
「三輪バイクの時は20センチ程度上がりました」
「それを見てどう?」
「やってしまったと思いました。そして直ぐに消さねばと思っている時に
大家さんに声を掛けられて・・・」

「今回は器物損壊で起訴されていますが、火をつける危険性は分かっている?」
「とても危ない行為だと思っています」
「どんな風に?」
「他の物に移り、燃え広がることです」
「人が居るところに火をつけようとは?」「ないです」
「なぜ?」「最悪死んでしまうからです」
「今回の事件でも上には住んでいる人が居ますよね?
その時はそのことを考えなかったの?」
「何も思いませんでした」

「服に穴をあけるのに何で火を点ける必要があるの?」
「火をつける目的ではなかった」
「火をつけるのはどんな気持ちなんですか?」
「すっきりするかと思いました」

「社会復帰後は?」
「住む家を自分で探そうと思っています。
不動産屋の知り合いがいるので言えば直ぐに入れるかと思っています」
「お金は?」
「国の税金で悪いと思うのですが、生活保護で出して貰おうと思っています」
「その後、生活保護の人との繋がりは?」
「特にありません」
「現在生活保護は?」「止まっています」

こうして核心が見えないまま論告・求刑へ。
「市街地で70cm程度の火があがり騒然となったこと、
またこのことで近隣住民に多大な不安を与えたこと、
被害者の移動手段を奪ったことなど結果は重大である。
犯行も短絡的であり、また今後の監督者も居ない。
また再犯の可能性も十分に考えられる。
求刑ですが、懲役1年が妥当だと思料します」

弁護士より。
「単に火が見たかっただけであり、公共の責任は軽くないが、
一時的で計画性がなく、また反省しているので再犯の可能性はない。
障害者手帳2級の影響もあるかもしれない。
無計画で衝動的、自ら火を消しているところから他人を害する意図もない。
入院歴が2回程度あり、更正施設に入ることで専門医の診察が受けられなくなる。
社会ならばデイケアにも毎日行けるし専門医も居る。
最近は癒えつつある状況で定職はないが更正はできるものと思われる。
執行猶予を希望します」

本人からの最終陳述。
「本当に今回いろいろな人に迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした。
心改めて、焦らず、ゆっくりと病院で治療していきたい。
これまで迷惑をかけた分、早く社会復帰して貢献したいと思っています」
◇  ◇  ◇
そこに山があるから登る、といった故植村直巳氏。
被告の場合は、そこに火をつけたいものがあったから燃やした。
この差は一体どこから生まれてくるのか?

現在専門的な治療を受けている状況にあっても、
結局今回のような事件を引き起こしてしまった被告。
医者の診断書に、症状が安定するまで1~3年程度の期間が必要、
そして、出所後も生活保護受給など国庫からの支出が免れない状況を考えると、
今回検察が求刑した期間は1年。

被告の新たな興味、関心を刺激するためにも、
懲役刑の選択は有効かもしれないが。
(了)

誘惑の炎(中編2)

止めていた三輪原付の後ろカゴに火をつけ、器物損壊の罪で起訴された英明似の被告。
今回の事件を起こした本当の動機は一体何だったのだろうか。
その謎を解明すべく弁護士が被告人に質問をぶつけるが、
ここまでは全く見えてこない。この弁護士には荷が重いのだろうか。
被告人質問の続き。
+  +  +
「2か所目は?」「ゴミ置き場のごみです」
「なぜ?」「自転車の前かごに火をつけた時のことを思い出して、
また火が見たいと思い、点けてしまいました」
供述は完全に矛盾している。
しかし、事件を引き起こしてしまう被告の心理とは案外このようなところなのかもしれない。

「どのように燃えたの?」
「ゆっくりと燃えていました。この日もいったんその場を離れ、戻ってきたら燃えていました」
「気持ちは?」
「もうこれは止めようと。それで白状するつもりで戻ってきました」
「それでどうしましたか?」
「まず消そうと思いました。近くにホースがあったのでそれで水が出ると思いました。
しかしこれは栓がないと出ないもので、結局消火はできませんでした」
「どういう気持ちだった?」
「自分は火を見るとスッキリすると思っていましたが、
逆に後悔にかられ、どうしたら火がおさまるだろう、どうしたらいいんだろう、と思いました」
モヤモヤする気持ちがあった。満たされないものがあった。そういうことか。

「そのあとから逮捕されるまで、この間はしていないの?」「はい」
「また火をつけたい?」「ないです」
「この事件を起こす前には火をつけたいと思ったことは?」「ないです」

「被害者に手紙を書いたその内容は?」
「自分が火をつけて被害者の方に迷惑を掛けてしまったので、
すみませんでしたという気持ちを伝えたいと思いました。
そして、あの時にできることを全部しました」
「弁償金は4万円の所持金のうちから支払ったの?」「はい」
いやいや。お金がないのは個人的な事情で、被害者には全く関係がない。

「アルコール依存の治療は?」
「過去に入院もあります、○×病院で4か月、3か月、3か月の計10か月です」
「入院から現在の通院になったのはなぜ?」
「酒を飲むことが止まったためです」
「何で酒を飲むのが止まったの?」
「フラストレーションがたまることがなくなったためです」
「現在の治療は?」
「アルコール依存専門のデイケアへ行っています。
そこで同じ人たちとふれあい、断酒を確実にしています」
「頻度は?」
「週1回から2週に1回です。他に薬は睡眠薬と安定剤を服用しています。
また精神のデイケアへ月~土は通所しています」

「精神の薬は?」「飲んでいました」
「アルコールのデイはどんな場所ですか?」「安らげる場所です」
「デイサービスは精神にも対応しているの?」「はい」
「現在精神の症状は?」「安定しています」

「お母さんに電話は掛けた?」「対立している状態なので・・・」
「お母さんとは関わりたくない?」「はい」
「相談者は?」
「居ます。自分のことをよく知っている人で入院中に知り合った人です。同じ氏名の人です」
うん!?

「仕事は?」
「早く復帰しようと思いますが、仕事をすることはストレスになり、
それでストレスが溜まることになって、また酒を飲んで止まらなくなる
可能性があるので・・・。
主治医は1~3年はお酒を断って、それで安定するようになっていたら
確実ではないかと言われています」
「まず1年程度はお酒を断って、その後に仕事に復帰したいなぁと考えているのですね?」
「はい」
この時間を施設内矯正教育に充ててみるのがいいのではないか。

「今回近隣の方にも迷惑を掛けたのは分かる?」「はい」
「近隣の方はどんな気持ちだった?」
「原付に、自転車に、ゴミ箱にと、本当に次々と火がつくことは、
近隣の方へ不安を与えてしまったことはとても反省しています」

「今後は?」
「今後は今回の事件を反省して、その心を持ってやっていきます。
またその件で今の家を追い出されたので、また家を探すことになるし、
またイチからやらねばならないので、火だけではなく、
今後人には迷惑を掛けることはなしでやっていきたいと思っています」
・・・果たして、被告はこの約束を実現することが可能だろうか。

 

誘惑の炎(後編)へ続く

誘惑の炎(中編)

止めていた三輪原付の後ろカゴに火をつけ、器物損壊の罪で起訴された英明似の被告。
冒頭陳述ではやや複雑な家庭環境が浮かび上がってきたが、
今回の事件を起こした本当の動機は・・・次は被告人質問。
+  +  +
「(起訴状のことは)やった?」「はい」
「どうして?」
「前日に見た火が忘れられなくて、(今回事件を起こした)マンションを通り過ぎた時に
もう1度火が見たくなった」
「偶然?」「はい」
「そんな気持ちなったの?」「はい」
・・・う~ん、何か釈然としない。

「毎日散歩に出かけるはなぜ?」
「アルコール依存なので、そのためです。
20時~21時が1番飲みたくなる時間なのでそれを紛らわせるためと健康のためです。
それで毎日ウォーキングやジョギングをしています」

「前日の火が衝撃的だったということは分からなくはないですが、
火をつけたら周囲に迷惑になるとは考えなかったの?」
「その時は分かりませんでした」
「火をつけたあと現場は立ち去ったのはどうして?」
「そこに居れば自分が犯人と思われてしまうと思ったためです」
当たり前だ。いつまでもその場に居てどうする。

「それでも再び現場に戻っている?どうして?」
「火がどういう状況になっているかが気になりました」
「見たいと思ったの?」
「見たいというより、気になった」
単に語用の問題ではなかろうか。

「どんな感じ?」「燃え上がるのを見て後悔しました」
「願いが叶ったのでは?」「そこまで大ごとになるとは思わなかったので・・・」
そこまでは思い至らなかったということか。

「消火を頼まれて?」「消すべきだと思いました」
「なぜ?」「自分がやったので・・・」
「駆けつけた消防官には?」「正直に話せませんでした」
「なぜ?」「刑務所に行くのが怖かったので」
う~ん。
弁護人の質問からは立証趣旨が見えてこないのはなぜだろうか。
+  +  +
「2日後にまたやっているよね?」
「1か所は・・・前からタバコを吸うところで、パン屋がありまして、
そこに何か月か止まっている自転車のかごに薄手の服が置いてあって、
誰のものかと気になっていたが・・・。
それを見るまではいつもジョギングをしていたのでそのまま通り過ぎていたのですが、
この日はちょっとタバコを押し当ててしまいました」
タバコを押し当てた!?

「この日、散歩に出かけたのはやろうと思っていたから?」
「それは思っていなかったです」
「はじめから火をつけようとは?」「違います!」

「いつ原付を見てやろうと思ったの?」
「ジョギングをしていた途中に、咄嗟に目に入ったものに火をつけたいと思いました」
「自転車は?」
「自転車を見て、火を見たいというよりは服に穴をあけてみようと思い・・・
それで火が上がってしまったので、逃げ出しました」

「自転車の方は単にいたずらしたいと?」
「はい。そのあと穴が広がるように燃えていって、それで立ち去ってしまいました」
「なぜ?」
「自分で点けた火なのに関わると犯人扱いされてしまうと思い逃げました。
ちょうど遠くから自転車で近づいてくる人が居たので・・・」
衝動に駆られての犯行といったところだろうか。

 

誘惑の炎(中編2)へ続く

裁判員裁判を傍聴してみる(現住建造物等放火未遂)(後編)

重い犯罪を対象とする裁判員裁判。
この裁判を傍聴しているのは、UNICO以外にもう1人のみ。
何となく重苦しい雰囲気が法廷内を包む。
そんな中、裁判は朴訥裁判長が進行をする。
次は、検察官らの冒頭陳述だ。

まずは、検察から裁判員に対して、ペーパーが配布される。
そして今回の事件についての概要説明がなされた。
「今回の事件は、被告が焼身自殺を図ろうとしたものによるもので、
起訴状について争いがなく、情状のみが焦点となります」との説明がなされた。

次に、被告の身上・経歴の説明。
被告は現在62歳。高校卒業後、職を転々として定職に就かなかった。
40代に脳溢血を患い、その後てんかん発作が出るようになり、
以降は母の年金で暮らすようになっていた。
母が平成19年に老人介護施設へ入所することとなり、
以後は実弟と暮らすようになり、生活費は実弟に頼っている状況であった。
被告はそのことを情けなくて惨めだと考えていた。
そして自分は邪魔者なので、居ない方が弟も楽になると度々自殺を考えるようになり、
事件当日、昼食の準備でうどんを調理しようとしたところ、
思ったよりうまく調理できなかった。
それを捨てることもできない自分自身を情けなく感じ、上記の犯行に及んだといったもの。

その後、スライドを使用して、事件の被害状況の説明に入った。
裁判員の手元には、小型モニタが、
傍聴席には、大きなモニタが設置されている。
状況を分かり易くするために、視覚に訴えかけようという試みだろう。
そして、スライドに映し出されたものは、
自家と隣家との距離が隣接していることを裏付ける写真が
何枚も角度を変えて提示される。

次に、今回の事件で焼け落ちた場所の写真。
今回の事件では、河童親方は自室の障子に燃え移らせて放火を試みた。
その異変に実弟が気付き、119番通報した後、
水を掛けるなどの消火活動を行ったため、障子とたんす、天井が焼失するにとどまった。
その焼けたものが次々に、品を変え、角度を変えて映し出される。
これらの被害状況は、ただ言葉で聞くよりも写真で見ることにより、
強くリアリティを実感してしまうため、被告の心証はどうしても悪くなってしまう。

ここで裁判員に配慮して、30分程度の休憩が挟まれる。

次は、通常の裁判にはない弁護士からの冒頭陳述がはじまる。
落武者弁護士が今後立証する予定は、
次回実弟を情状証人として呼ぶこと、そして事件についての争いがないこと、
今回の放火は、あくまで自殺しようとして火をつけたものを強調する。
そして、情状酌量を目指して、被告の善悪判断が低下していること、
前歴がなく、今は事件のことを反省していること、
現在62歳だが、40歳前半で高血圧が原因で脳溢血となり、
「自分の生活が惨めだ、死んでしまいたい」と思うようになったこと、
今回は自殺企図のみが目的で、焼失した箇所も幸い全焼免れ、一部分のみで済んだこと。
被告は、心身耗弱、神経衰弱で睡眠薬を服用していたこと。
逮捕されてから4か月、留置所に勾留されて、事件のことを反省していること、
何より実弟に厳しい処罰感情がないことを訴えて、弁論は終了し、
それを受けてこの日の裁判は終了となった。
◆  ◆  ◆
裁判員裁判は、時間を空けず、連日開廷で一気に結審まで進むことが特徴だ。
ただ事件の状況が視覚的に訴えかけられることで、厳罰化は進まないだろうか
といった懸念がなされるのも事実だ。

確かに、自分の身を儚んで、自殺を試みようとする人は数多いる中で、
敢えて、放火を試みるといった方法を選択する被告の行動は、
決してほめられたものではない。
そう考えてみると、被告が重い罪に問われてもある程度仕方がないのかもしれないが。

この裁判を傍聴しても、なお裁判員制度を行う必要が
あるのかが分からないUNICOであった。

 

(了)

裁判員裁判を傍聴してみる(現住建造物等放火未遂)(前編)

裁判員裁判――。
2009年(平成21年)5月21日に施行、
賛否両論が叫ばれる中、同年8月の東京地方裁判所で最初の公判が行われた。

裁判員制度が適用される事件は、地方裁判所で行われる刑事裁判(第一審)のうち殺人罪、
傷害致死罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪など、
一定の重大な犯罪についての裁判がその対象となる(出典/WIKI)。

今回UNICOが傍聴した裁判は、現住建造物等放火未遂罪。
人が現に住居に使用しているか、または現に人のいる建造物等(建造物、汽車、
電車、艦船又は鉱坑)を放火により焼損させることを内容とする犯罪であり、
刑法では108条が該当する。
その法定刑も死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役と規定されており、
現行法上殺人罪(刑法199条)と全く同等の法定刑を有する重罪とされている。
◆  ◆  ◆
傍聴席に入ると、正面の裁判官が座るスペースには、
朴訥そうなこの裁判を取り仕切る裁判長、サブには公務員庶務課と固い女性の裁判官3名、
そして裁判員には20代~60代までの幅広い年齢層の男女8名、
計11人もの人間が犇めいていた。

そこへ今回の被告である河童親方が登場する。
ヒガミ検事が、早速起訴状の朗読をはじめる。

被告は、被告人方において、実弟と暮らしていたが、
現在自分自身が無職であり、収入のすべてを実弟に頼っていることを惨めと思い、
焼身自殺を図ろうと同方1F台所ガスコンロの新聞紙に点火し放火を試みたが、
実弟が異変に気付き、消火したため障子と天井の一部を焼失するに止まった。
罪名及び罰条、現住建造物等放火未遂。刑法108条。

この起訴状に対して、被告と落ち武者弁護士は争いはなかったので、
裁判は、そのまま冒頭陳述に進んでいく。

 
裁判員裁判を傍聴してみる(現住建造物等放火未遂)(後編)へ続く