裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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道交法違反

被害者は語る(後編)

酒に酔っぱらった状態で車を運転し、
一時停止の交差点を漫然と進入し、あげく被害者に接触した。
そして、被害者と接触したことに気付かず、そのまま車を進めた結果
被害者を110メートルも引きずり、死に至らしめた太鼓オヤジ。
更に進んだあと、車の異変に気付き、ようやく事故を起こしたことに気付いた被告。
あろうことかそのことを隠ぺいするためにわざわざ東京まで行き、
車体に付いている血痕を消すために丹念に洗車し、
仕上げにタイヤ4本を交換するまでの手の込みようだ。

そんな悪質極まりない太鼓オヤジを逃がすまいと、佐古似検事をはじめとする
検察軍団が本気の立証を行うのだった。
+  +  +
引き続き、佐古似検事の冒頭陳述。

「事故報告書によると事故の第一発見者は、
被害者の男性が血まみれで倒れているのを発見したとのことだった。
現場には、血痕とタバコが遺留しており、血痕については112メートルに亘り延びていた」

ここからの立証が検察、警察の本気度が伝わってきた。
「今回被告を特定した証拠として、
①事故を起こした車両のバンパーが被害者と接触した際にできたであろうへこみと一致したこと、
②血痕のついた車両を払拭したという状況が見つかったこと、
③被害者の着衣の破れとズボンの裂けめからの素材が被告の車両の泥除けから検出され、
限りなく近似していること、
④被害者の死因が中枢性呼吸麻痺であるが、事故の状況を検証した結果、
平らな面に鈍体を強打しただけでは死には至らないこと、
⑤これは立位から後頭部を強打した場合も同じであり、
この結果から被害者の直接の死因が車底部で引きずられた
結果によることを裏付けるものであること、

⑥これを事件現場に当てはめてみると、立位の被害者を15km/hの速度で
進行してきた被告の車両と接触し、そのまま倒れると脳幹は陥没することは分かったが、
これは被害者の直接の死因には該当しなかったこと、
⑦被害者にあった右擦過傷はぶつけた時にできたものであり、
被告のリアバンパーに付着していた血痕と被害者の血液とが一致したこと、
⑧現場に落ちていた塗装膜片と被告の車両とが一致したこと、
⑨フロントバンパーに付着した着衣と被害者が着用していた着衣とが近似していること、
⑩被告が運転する普通自動車の進行方向と一致する方向で被害者が倒れていたこと、
⑪現場に遺留していたタバコが被害者のものと一致したこと」
ここまで来れば、太鼓オヤジも万事休すであろう。これで言い逃れはできないはずだ。

更に続く。
「被害者の妻の証言、
『夫は毎日散歩に出かけていた。タバコはピアニッシモを吸っていた』とのこと。
また現場には防犯カメラが設置されており、事故の直前の映像が残っており、被害者が映っていた。
近所の方の証言「外でドンという鈍い音がした、そして叫ぶ声が聞こえた」と話している。

事故の状況を再現し、人を引きずった状態での実験も行った。
すると、ハンドル操作、アクセルが通常よりも重く、
また車内でも何かを引きずる音が聞こえることが分かった。
更に人を轢いてしまい、乗り上げた時の体感状況についても再現し、
被告に体感して貰った」とのこと。

そして、佐古似検事は語気を強める。
「被告は事故に気付き、わざわざ東京都まで行き洗車している。
事故前の飲酒状況について、フィリピンパブで働く、
被告の元彼女の証言でも被告が上記のものを飲酒したことを証言している」

被告の逮捕後の供述、
「事故後停止せずに、車中から車のみを確認した。そのまま発進すると
何か柔らかいものを右後輪で乗り越えた感触はあったが、そのまま進んだ」
「交差点で、何か大きなものに当たった感触があった。
その後も何かを引きずる感触はあった」と話していたのこと。
この太鼓オヤジは確信犯である。

そして、ここで今日の審議は終了となる。
次回は弁護士側の情状証人として妻が出廷することと被告人質問との二本立て。
検察側は意見陳述として3人を召集、更に委託弁護人の意見陳述を予定しているとのこと。
+  +  +
結局UNICOは、次回以降の裁判を傍聴することはなかったが、
自動車運転過失致死傷罪の法廷刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金刑である。
もちろんこの罪に道路交通法違反(酒気帯び)が加重されるため、
太鼓オヤジにこれまで前歴がなくとも、懲役刑は免れることはできないであろう。
さらに、事故を隠ぺいしている悪質さは、遺族のことを考えると如何ともしがたい。

個人的には、刑法208条の2、危険運転致死罪(懲役15年以下)を適用してほしいところだが・・・。
ただ被害者と接触した時点で、そのことを分かった上でそのまま車を発進させたことを
立証・・・できないが、もしできればもうこれは殺人以外に考えられない。

事の重大さに気づいているように見えなかった太鼓オヤジ。
人間の弱く、汚い部分を見てしまったように思われた。
そして、益々クルマに乗りたくないと強く心に決めるペーパー歴16年のUNICOであった。
(了)

被害者は語る(中編)

これからはじまる検察からの冒頭陳述を聞くまでは、
双方にとって、厳しい内容だなぁと感じていた。

しかし、冒頭陳述で徐々に今回の事件の全貌が明らかになるにつれて、
太鼓オヤジに対して、違った感情が芽生えてくることとなるのである。
+  +  +
はじめに被告の身上。
被告は東京都出身の48歳。見た感じゆうに60歳を過ぎている印象だ。
今回の事件前まで、新聞配達業を営んでいたとのこと。
被告には妻子があり、これまでに前歴はなし。
事故当日の19時。
被告は、自分が経営する新聞配達業で使用する普通自動車を運転して炉端焼店へ行く。
そこで酎ハイや冷酒を飲んだ。ここで既に道交法違反(飲酒運転)である。
その後、未だ飲み足りなかった被告は、フィリピンパブへ行き、
ブランデーや水割りをそれぞれ2杯程度飲んだあと、
再び同車を運転し、その道中で今回の事件を引き起こしたのだ。
これは頂けない。

そして、被告は事故現場である信号機のない交差点に差し掛かる。
当然手前には一時停止を促す停止線と標識があるはずだ。
それでも酔っぱらっていた被告はそんなことには構わない。
漫然と時速15km程度の速度で交差点に進入し、
その時、散歩途中で一服していた被害者と接触してしまったのだ。

ここまででも被告の行動は決して褒められたものではない。
しかし、この後の被告の行動は飛んでもなかった。
被害者と接触した被告が運転する車。
その際には、後の供述でかなり衝撃があったことが立証されているが、
太鼓オヤジはそのことに気付かず、
接触した衝撃で地面に倒れた被害者を車輪で踏みつけ、
更に被害者を巻き込んだ状態で、110メートルもの距離を引きずったのだ。

この間、太鼓オヤジは気付かずに運転。
その後、更に被害者と接触した地点から538メートル進んだ地点で、
ようやく車の異変に気付いて、車を止めて外に出て確認した被告。
車体には血液が付着していた。
そのことに気付き、酔いの醒めた太鼓オヤジ。
ここからの行動が正気の沙汰ではなかった。

血痕が残っていることをまずいと考え、
電話で妻を呼び出してお金を持ってくるよう指示、
妻から5万円を預かり、そのまま東京まで行く。
そして、車に血痕が残らないように丹念に洗車したのち、
タイヤ4本を交換した。
更にその後は悠々とゴルフなどを楽しんだとのことだった。
・・・ここまで来ると傍聴席で聞いていてただただあきれるばかりである。

 
被害者は語る(後編)へ続く

被害者は語る(前編)

事件を引き起こしてしまったことについて、原状回復をすることはできない。
それは、万引きクラスの些少な事件と思しきものであっても同様である。
しかし、些少な事件であれば、近似まで原状回復することは可能である。
そういった理由もあって、
これまでは比較的軽微と呼ばれる事件の裁判傍聴を選択していたように思う。

今回UNICOが傍聴した裁判は、自動車運転過失致死、道路交通法違反。
この事件は、まるで原状回復のしようがないものである。

それが直接の原因なのか、傍聴する前から何となく気が重たかった。
それでも傍聴するために重いドアを開けてみると、
広い傍聴席には10名程の関係者がおられ、一斉にUNICOの方へと視線を向ける。
この瞬間に「しまった」とは思ったが、ここまで来ておいて今更引き返すこともできない。
突き刺さるような視線を浴びながら、空いている奥の傍聴席へと腰を掛ける。

すると裁判開始の7分前であったが、佐古似検事と他被害者の遺族4名が既に着席している。
一方弁護側も、大蔵大臣弁護士が着席しており、これからはじまる裁判に向けて資料を読み込んでいた。

裁判開始の5分前。
今回の事件を引き起こした被告、太鼓オヤジが法廷警備員3名と共に出廷する。
太鼓オヤジは見る限り、どこにでも居るオヤジであった。特に反省している様子でもない。

そして修験者裁判長が入廷し、いよいよ裁判がはじまった。
◇  ◇  ◇
ピリピリとした緊張感のなか、検察から起訴状が朗読される。
これまでに2度の訴因、起訴内容の変更が行われ、
ようやくこの日の裁判に至ったことが話される。
罪名は、自動車運転過失致死、道路交通法違反。

まずは、自動車運転過失致死について。
22時30分過ぎ、普通自動車を運転していた被告は、
信号機のない交差点に差し掛かった際に、
一時停止をして前方左右の注意注意義務があるにも関わらずこれを怠り、
一時停止をしないまま15kmの速度でそのまま交差点に進入した。

そこに散歩中で少し休憩をしていた事件の被害者(当時60歳)が直立して一服していたが、
それに気付かず、被告の運転する普通自動車の右前部と被害者とが接触、
被害者に頭蓋骨折、頭蓋内出血の重傷を負わせた後、中枢性呼吸麻痺により死亡した。

そして、被告はこのような傷害を負わせたにも関わらず、
そのまま被害者を保護、報告を怠ったことにより、
自動車運転過失致死に併せて道路交通法違反での起訴となった。

この起訴状に対して、太鼓オヤジと大蔵大臣弁護士は犯行を認め、
裁判は、検察からの冒頭陳述へと進んでいく。

 
被害者は語る(中編)へ続く

ニッポンの伝統と、今を生きる青年と(中編)

若手の元営業マンの接待後の酒気帯び運転による交通事故の公判。
ただこの元営業マンは、残念なことに直ぐに自分の非を認めなかった。
嘘もバレなきゃ、真実になるとでも考えたのだろうか。
そんな若手元営業マンへの弁護人からの被告人質問だ。
◇  ◇  ◇
真面目サラリーマンといった感じの弁護人は、
まず書証として示談書を提出したいが、まだ示談が済んでいないことを伝えたのち、
被告人質問を開始した。

「どこで飲んでいたのですか?」
「会社の近くです」
「会社はどこにお勤めでしたか?」
「○○工業です」
「一緒に飲んだ相手は誰ですか?」
「取引先の顧客とその彼女、上司と自分の計4名です」
接待を受ける側は、女を侍らせるものだろうか。
この時点で、かなりの癒着を感じさせる。

「かなり飲んだのですか?」
「はい」
迷いのない回答だ。

「普段から飲みますか?」
「ビール2杯程度は飲みます」
「なぜその時はそんなに飲んだのですか?」
「お客さんから飲めと言われたら嫌とは言えませんので・・・」
「その人は会社にとって重要なお客さんなのですか?」
「はい」
これは古き悪しき習慣であろう。

「これまでにその人と飲んだことはありますか?」
「2、3回程度あります」
「その人と飲む時は毎回このくらい飲むのですか?」
「いつも多めですが、ここまで飲んだのは今回がはじめてです」
「この日はなぜそんなに飲むことになったのですか?」
「彼女が居たので、男として強い所を見せたかったのではないかなぁと思いました」
この場面でまさかの推測を放り込んできた被告。

「この日車で行っていますよね。お酒を飲むことは分かっていますよね。
どうするつもりだったのですか?」
「会社の駐車場で車を停めて、そのままそこで寝て、翌朝取引先へ直行しようかと思っていました」
それなのになぜ上司を送ったのですか?
「お酒を飲んで冷静に判断ができなかったことと、上司が気分を悪そうにしていたので
これは送り届けた方がいいとおもいまして。ただ記憶は曖昧ですので・・・」
それにしても苦しい言い訳だ。
いつも多めに飲まされることが分かっているこの客と会うのに、
なぜ車でその場へ向かったのだろうか。
少し位の距離ならば大丈夫、バレないだろうといったお酒の席での無礼講思想によるものだろう。

「上司はそこまで何で来ていたのですか?」
「自転車で来ていました」
「事故を起こした日のことですが、衝突するまでの記憶はありますか?」
「・・・あまり残っていない。ただぶつかった以降は衝撃があったので覚えています」
「何で後部座席に逃げたのですか?」
「ただただ責任逃れをしようと思いました」
「覚えているのですか?」
「はい」
ということは、嘘の供述は確信犯という訳だ。

「その翌日7時位に警察へ出頭されていますね、なぜですか?」
「父と話したことと酔いがさめたことでその重大性に気付きました。
どうせバレるだろうと思いました」
「お父さんとは何を話したのですか?」
「嘘を言わんと出頭しろとひたすら言われました」
馬脚を現したな、若い元営業マン。

「その後会社はクビになっていますね?」
「9月21日に懲戒解雇となりました」
「婚約者も居たが、これも破棄になったのですか?」
「はい」
「その方とは何年くらいお付き合いをしていたのですか?」
「6年程度になっていました」
気の毒な話であるがどうも同情する気にはなれなかった。
単に被告の面構えが気に入らなかっただけのことなのかもしれないが。

「これまでに交通前歴7件、前科2件あるが、飲酒運転ははじめてですか?」
「はい、1度もありません」
やはりこれかと思った。
この被告はどこか裁判慣れしているのだ。

「示談の状況はどうなっていますか?」
「交渉は前の会社の任意保険で支払うことが決まっています。
ただ未だ折り合いがついていません」
事故を起こした相手がこの被告ならば、そんなに簡単に示談にしたくないだろう。

「今事件をふり返ってどう考えていますか?」
「被害者の方、自分の家族、勤務先に迷惑を掛けてしまったので、
謝罪をしたいと思っています。今は恥ずべき行為だったと思い、反省しています」
コイツは反省などしていない。
単に今回はアンラッキーだっただけと考えているはずだ。
そう被告の目が語っているようにUNICOは感じた。

「危ない運転をしたら死者が出るかもしれませんよね?」
「はい」

こうして被告の胡散臭さを際立たせたまま弁護人からの被告人質問が終了となる。

 

ニッポンの伝統と、今を生きる青年と(後編)へ続く

ニッポンの伝統と、今を生きる青年と(後編)

語れば語るほどボロが出るといった感じの被告。
続くは検察からの被告人質問だ。

「上司に誘われた時に車で今日は帰ることを伝えましたか?」
「はい」
「その時上司は何と言いましたか?」
「上司からの指示がなかったので、自分で判断して『車内で寝ます』と伝えました」
ただこの検察官、核心に迫る前に違う質問へと移ってしまう。

「事件のことは覚えている?」
「警察の方から聞きましたので」
「上司は路上で寝ていた。あなたもフラフラしていて歩けないほどだったということを知っていますか?」
「警察の人から話を聞き、後で知りました」
「その状態で運転をして、上司の家に泊めて貰おうと思ったわけですか」
「はい」
「これまでにそういったことはあったのですか?」
「2、3度ありました」
この発言は酒気帯び運転の常習性を裏付ける証言となる。
ここを攻めない手はない、はずなのになぜか検察からの質問はここで終了。

そうするとこのまま結審へと向かうのか・・・と諦めてかけていた時、
趣味は手編みのセーターを編むことですといった感じの裁判長からの質問がはじまった。
◇ ◇ ◇
「この会社では4月に入社して9月にクビになっているのですね?」
「はい」
新入社員だったのか。それはいいところを見せようと張り切るわなぁ。

「社用車を使用したのははじめてですか?」
「いいえ」
「今後車にのることは?」
「マイカーがありませんのでないです」
う~ん、当面は運転する車がないので運転しないと言っているように聞こえた。

「会社ではこれまでに飲酒運転について何か指導はありませんでしたか?」
「特にありませんでしたが、はじめの資料の中に書いてあったように思います」
「こういった飲み会は頻繁にあったのですか?」
「滅多になかったので・・・」
滅多にないことはないだろう。

「多少これくらいいいやといったものはなかった?」
「ないです」
「0.5mg/lという量は分かりますか、多い方だと思いますか、少ない方だと思いますか?」
「多い方だと思います」
「この量だと飲酒後何時位までは酒が抜けないと思いますか?」
「朝の8時くらいまでは抜けないかと思います」
ペーパーだが一応免許を持っているUNICOにこのような知識はない。

「酒が抜けるまでには相当の時間が掛かりますよね・・・
そういったことを教習所などで教わりませんでしたか?」
「はじめにあったかもしれませんが覚えていませんでした」
「このことを把握してましたか?」
「いいえ」
また矛盾した回答だ。この被告の発言には整合性がなくうんざりとさせられる。

「会社の保険に上限はありますか?」
「会社からお前は話に入ってくるなと言われていたのでノータッチですので・・・。
会社がやる、お前が入ってきたらややこしくなると言われていますのでよく分かりません」
「今は誰と誰が示談交渉をしているのですか?」
「分かりません」
もっともらしい理由のように聞こえるが、かなり論点がずれているように感じる。

「この裁判が終わった後はどうしたいと考えていますか?」
「・・・・・・」
どうやら質問の意味が伝わらなかったらしい。
「示談になれば損害賠償は保険で賄えるでしょうが、あなたはどうすべきだと考えていますか?」
「会って頂けるなら謝罪をしたいと思っています」
「金銭面では何か考えていますか?」
「保険で賄えると聞いていますので、自分から特には・・・」
「あなたからは特に何もしないというわけですね?」
「そう思っています」
こう堂々と言い放つ被告は素晴らしい神経の持ち主である。
恐らくこの被告は、事件を起こした張本人であるといった自覚はなく、
寧ろ事件に巻き込まれた当事者のひとりだと思っているようだ。
ただそんな被告と同じような感覚をこの会社も持っているようで、
その責任のすべてを被告になすりつけようと腐心しているようだ。
非常に情けない話である。

今回の事件で一番の被害者は、怪我を負った被害者たちである。
それなのに被告も被告が所属していた会社も被害者たちのことを
一番に考えようとする姿勢を全く感じさせない。

「運転手の方とは連絡が取れたのですね、何と言っていますか?」
「どちらも比較的怪我が軽くて不幸中の幸いだった。
あなたが自分の息子と同じくらいなので、これにめげず頑張ってくださいと言ってくれました」
「現在示談ができていないのは治療以外のことが理由ではなく、
症状が落ち着いていないので示談が成立していないということですね?」
「はい」
ハハハ。
何という都合のいい解釈だ。
それならば被害者たちはなぜ「被告には厳しい処罰を」と言ったのか。
もし私がこの被害者の立場ならば、間違いなく厳罰を希望する。
そして、法廷で検察側の証人として出廷し、この被告の矛盾を追及するだろう。

「今、あなたは会社員とありましたがどこかに勤めているのですか?」
「11/5より再就職をしています。
前の会社の取引先の方に拾って貰い本当に感謝しています」
今を生きる青年は逞しく、強靭な精神を持ち併せているようだ。
またそうでもないととても生き抜くことができないのであろうが・・・。
◇ ◇ ◇
そして、検察からは懲役10か月の求刑が主張され、
弁護人からは、執行猶予の情状を訴えられる。
最後に被告人から、
「今回のことは大変深く反省しています。また懲戒免職となり、
そして今は取引先に拾って貰うことができ本当に感謝しています。
今後は被害者の方に謝罪をしていきたいと考えています」
といった白々しいことが告げられて結審を迎えるのだった。
取引先に拾って貰ったことをアピールする被告。
あくまでも自分の人柄の良さをアピールするためであろう。
つくづく思慮が浅い被告の言動にうんざりしながら、
UNICO裁判長ならば、この被告に対しては、
間違いなく懲役の実刑を言い渡すであろうと思うのであった。

 

(了)