裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

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道交法違反

ニッポンの伝統と、今を生きる青年と(前編)

営業マンの必須アイテムと言って、思い浮かぶものは何だろうか。
恐ろしいほどの残業、過剰な接待、営業スマイル、
そして必須アイテムのクルマであろう。
どのような職業に就いても継続するには一定の才能が必要であろうとUNICOは考えるが、
この営業という職業もまた類稀なる才能が必要なものであろう。
◇  ◇  ◇
UNICOの目の前に現れたスーツに身を包んだ若い被告(24歳)は元営業マンであった。
この元営業マンは、道路交通法違反、自動車運転過失傷害という罪名で起訴されている。

起訴状によると、
早朝に被告は青色信号で普通自動車を走行していた。
そして、右に曲がろうとしたとき対向車線にはみだしてまい、
不幸にも対向車線を走る被害者が運転する普通自動車の右前部と、
被告の運転する車の右前部とが正面衝突した。

運転していた被害者Aは外傷性頸部症候群、背部挫傷で加療11日、
助手席に乗っていた被害者Bは外傷性頭部頸部症候群、腰部挫傷、左腕打撲で、
加療24日のケガを負ってしまった。

事故後、被告の呼気から0.5mg/lのアルコール成分が検出された
ということによるものだ。
◇  ◇  ◇
弁護側はこの起訴状に対して、特に争う姿勢は見せず、
そのまま検察の冒頭陳述へと進む。

翌朝早い時間に取引先へ行く予定がありながら、
前の晩に上司から「取引先の人と飲んでいる、これから来ないか」と誘われ、
無断で会社の車を使用して、現地まで車を運転し飲酒をした。
被告が飲んだ酒は、ビール中ジョッキ数杯、日本酒にハイボール、
ウイスキーなどたらふく飲んでいたとのこと。

そのため被告は、アルコールが抜けるまで眠ろうとしていたが、
上司が酔っ払い、道端で眠りはじめたので、
被告は自宅まで送り届けなければいけないという使命感に駆られ、
上司を自宅まで送り届けようと考えたのだった。
そしてその運転中、助手席に居る上司に気をとられた結果上記の事故を起こしたとのことだ。

事故後、警察が来る前に被告は後部座席に移動し、
「運転手は逃走した」とうその証言をしたらしい。

なお被害者2人は釣りへ行くところだった。
被害者は「いきなり対向車が突っ込んできた。被告には厳しい処分を」と話しているとのこと。

 

ニッポンの伝統と、今を生きる青年と(中編)へ続く

点と点(後編)

十分に後悔していることが窺える被告に対して、
次は吹石一恵似検察官からの質問が投げかけられる。

「それでは検察官から質問をします」
と毎回緊張感に欠ける若干媚びたような甘めの話し方をする吹石似の検察。
この話し方で相手を油断させておいて、質問内容がエグイ・・・。
これがこの検察のやり方だ。

「停止線の70.6m手前では信号は黄色でしたよね?」
「はい」と答える被告に感情が入っていないことが直ぐに分かる。

「この距離で黄色なら、交差点に入った時には赤色に変わりますよね?」
「はい」
「信号の確認が必要ですよね?」
「はい」
「なぜ黄色だと思い込んだのですか?」
「何か思っていたのかも分かりません」
「赤色になっていることを奥さんに言われてから気付いたのですよね?」
「はい」
「事故後、あなたはどんな対応をしましたか?」
この寸止めが得意技であろう。

「停止して、中央分離帯へ車を移動して、直ぐに相手の所へいきました。
すると被害者が倒れていましたので『どうですか』と声を掛けました。
電話はぶつかった時に対向車の南側の人が110番通報をしてくれていました」
冷静な対応だ。

「被害者は加療で苦労していますが、処罰を望まないと言っておられますね。
これを聞いてあなたはどう思いますか?」
「嬉しいと思います」
「今免許はどうなっているのですか?」
「取り消しですね」
「今後また免許を取ることを考えていますか?」
「取らないと思います、もう年ですので。今後はないです」
そうハッキリと語る被告。

「何が一番いけなかったと思いますか?」
「事故をしたところでしょうね」
「どうしたらよかったと思いますか?」
「いろいろありましたしね、母が亡くなったとかもありますし・・・。
ただ事故が一番悔やまれますね」
「運転中に考えごとに耽っていたということですか?」
「はい、事故が悔やまれます」
この回答を引き出して、得意面で「終わります」と告げる吹石検事。
何かが欠けていると感じるのはUNICOだけか?

その後の求刑では、禁錮1年4か月が相当と述べる吹石。
一方弁護人は、執行猶予を希望するとのことだった。
+ + +
被害者のケガが相当に重いことを判断しての求刑だと思われるが、
如何せん前科前歴もない被告が起こした事故にしては、
禁錮1年4か月というのは少々重いと感じてしまうのは、
被告の人柄の良さを感じてしまったためであろうか。
もし被害者が難しい人で「処罰を希望する」と言っていたならば、
被告は懲役刑になってしまうのだろうか。

被告と被害者という決してよくない出会いではあったが、
これも何か言葉では言い表せない縁なのではないか
と感じてしまったUNICOであった。
(了)

点と点(中編)

還暦を過ぎた被告。
黄色信号だと思い込んで交差点に進入したところを被害者が運転する
自動二輪者と衝突し、左脚関節靭帯損傷の重傷を負ってしまった被害者。
さらに事故後4か月が経過しても、なお症状が固定せず、
加療期間が当初3か月だったものが、6か月へと悪化してしまい、
見通しが付かない状況でこの裁判の日を迎えてしまったのだった。

被害者は被告の人柄の良さを評価し、
処罰を望まないと話しているにも関わらず、被告の罪を問う裁判は続く。
それが法律である。
+ + +
そして弁護人からの被告人質問を迎える。
「起訴事実に間違いないですか?」
「はい」
(調書の図面を見ながら)停止線では信号が赤だと言うことにが気付かなかったのですか?」
「助手席の妻に『赤やで』と言われ、そこでブレーキを踏んだのですが・・・」
「しまったと思ったんやね・・・。
単車を確認して、急ブレーキをかけたと・・・それでも間に合わず。
停止線の前で黄色だったのになぜ減速しなかったのですか?
「その時は黄色だったので。前の車についていっていたので(黄色だと思った)」
案外前を走る車の車高が高いと信号は見えないことがある。

「加療6か月、左足関節靭帯損傷となっているが、示談の状況は?」
「12月位にギブスも取れて、会社復帰のめどがつきつつあると話していました」
「見舞いには行きましたか?」
「事故後1週間くらいに1度嫁と一緒に行きました」
「他に何か連絡を取っていますか?
「電話では3~4回話しました」
「その時に話した内容は?」
「具合はどうですかと。あと保険の話、何か月くらいかかるかなどです」
至極まともな会話内容だ。

「車を45年程度乗っているが、交通事故を起こしたことは?」
「交通違反(行政処分)程度です」
「今回のことをどのように思っていますか?」
「悪いことをしたと思っている。
相手に怪我をさせた罪というか、会社も休まなあかんことになって、
本当に申し訳ないことをしたなと思って。
我がもはねられたことがあるので」

こうして弁護人からの被告人質問が終わる。

 

点と点(後編)へ続く

点と点(前編)

現代のニッポンで、自分で運転するかしないかは別にして、
クルマと無縁で過ごすことは難しいことなのかもしれない。
その圧倒的な母数の多さに比例して、ごく極身近なところで事故が起きている。
+ + +
そして法廷には、還暦を過ぎた善良そうな男性がひとり、
交通事故を起こしたという理由により、今から裁かれようとしている。

被告は、帰宅するために妻が同乗する普通自動車を運転していた。
被告が運転する車は、交差点に差し掛かる数十メートル手前には信号は黄色になる。
そのことに気付かずそのまま速度40km/hで交差点へ進入する被告。
そこへ横の信号が青になった被害者が運転する自動二輪車と衝突。

バイクはクルマに勝てない。
バイクを運転していた被害者が倒れ、
結果加療180日の左脚関節靭帯損傷の重傷を負うこととなった。

事故後に被害者は、
「被告はいろいろと詫びてくれているし、
ケガも重傷ではないと思うので物損扱いでいいと思っていた」と話していたらしい。
さらに「被告の処罰は望まない」とも言葉を添えている。
つくづく善人である。

しかし、そんな心優しき被害者を事故の後遺症が容赦なく襲いかかる。
当初は加療3か月の診断結果だったものが、後に加療6か月へと変更になる。
そして事件から4か月経過した今も未だ症状が固定しておらず、
会社も休職中とのことだ。
+ + +
法廷には、示談の状況を立証するため、保険会社の社員が出廷していた。
「被告が事件を起こしたことは知っていますか?」
と分かり切った質問からはじめる弁護人。
その後、補償金額が幸い上限なしだったこと、
被害者の症状が未だ治療中であること、
被害者と話ができていること、
既に保険金の一部が支払われていることなどが述べられて終了する。

弁護人の立証は非常に丁寧な進行だと感じた。
それも被告の徳なのかもしれない。
というのも、中学卒業後、溶接業など職を転々とするもこれまでに前科前歴もなく過ごし、
現在は定年を迎え、妻と二人暮らしをしている被告。
そんな日本の高度成長期を支え、真面目に勤めてきた被告を
一瞬の心の隙をつくように事故という魔物が襲ったのが今回の事故だ。

交通事故は、誰も得をしない。
そうつくづく感じさせられる裁判である。

 

点と点(中編)へ続く

今、会いに行きます(判決編)

原付の酒気帯びをしたために、ノックアウトをさせられた被告。
さぁ、求刑だ。

+ + +

「0.4mgと比較的高濃度のアルコールが検出される状態で原付を運転し、
運転をした理由も緊急性はない。また酒気帯び運転は社会的問題にもなっており、
決して許される行為ではない。
また2年6か月前にも同種の犯行で罰金刑に処されるなど交通規範意識全般が相当に薄れている。
懲役4か月が相当と思料します」
今度は罰金では済まなさそうだ。

そしてやる気のない弁護人。
「本人も二度としないと言っているので、今回は執行猶予を希望します」
とシンプルな陳述。ここまで来るとやる気のないのも本物だ。

最大の見せ場、被告人の最終陳述だが、
「反省しています・・・以上です」
とやる気のない弁護人の影響をもろに受けているようだ。
これは厳しい結果になるのか。
+ + +
程なく説教好き裁判長から判決が下される。
主文、被告人を懲役4か月に処する。ただしその刑の執行を3年間猶予する。
また国選弁護料は国庫負担とする。
判決理由としては、軽はずみだが酒気帯び運転は社会的な課題である。
こうしたことを続けているとまたいつ事故を起こすかも分からない。
今回は幸い事故もなく、また本人も反省していることを考慮して、
罰金なしの執行猶予つきの判決としました。
「さすがに今回で懲りたと思います。
今後は真面目に過ごし、二度と同じ立場でここに来ないようにしてください」

こうして閉廷を迎えるのだった。
+ + +
たかが原付の酒気帯び運転・・・と思って軽はずみに運転をしてしまった被告。
そんな被告に対して、実刑こそ免れたかついに前科がつくこととなった。
前科がつくということは、つつがなく日常を過ごしていれば通常は有り得ないことだ。
この30歳と比較的若い被告は、残りの人生を「車なし」「前科者」として過ごすこととなるのだ。
これはUNICOにとっては、ショッキングな事実であった。

それにしても、今回の国選弁護人は何も機能していないように見えたが・・・。
過去の判例に従うとは言っても、何か違う手はなかったのだろうか?
そう感じるUNICOであった。
(了)