裁判傍聴 ブログ 「ドラマよりもドキュメンタリー」

空いた時間にフラッとプチ傍聴

3

窃盗・不法侵入

燃える涙(中編)

被告人の交際相手に対する証人質問の続き)

「金銭管理は誰がしていますか?」
「付き合いはじめから昨年12月、1月くらいまでは彼が自己管理していましたが、
昨年11月に2人で生活していく上で、彼のお金の使い方などを見ているうちに、
私が管理した方がいいと思い、相談の上そのように決定しました」
一般的に、金銭管理は生活観念のしっかりとしている女性の方がいいとよく耳にする。

「今回万引き、盗みをしていたことに気が付きました?」
「気付きませんでした」
「今回はじめて知りましたか?」
「はい、はじめて知りました」
「知ったきっかけは?」
「警察から連絡があったので」
「その時どんな気持ちでしたか?」
「その時は驚いてどういったことで捕まったのかが分からなかったので、
いったい何があったのかと思いました」
それはそうだ。

「内容は誰から聞きましたか?」
「具体的な内容は面会で本人から聞きました」
「それを聞いてあなたはどう思いましたか?」
「『なぜ』とそう思いました」
まさに裏切られたと思っただろう。

「あなたがローソンへ行ったんですか?」
「直ぐに謝罪に行きました」
この交際相手は優しすぎるところがあるように思われる。

「店の対応はどうでしたか?」
「本人の万引きの態度にお怒りでした」
「あなたが店の人へ何て言ったのですか?」
「酒を飲むと周りが見えなくなるところがあること、甘い考えがあることを伝えました」
「謝罪はしましたか?」
「こんなことになって申し訳ありませんでしたと謝罪しました」
「店の人の反応は?」
「私の気持ちは分かると言って頂けました」
ここまで来ると、彼女ではなく母親である。

「そのあとは?」
「被告が書いた謝罪文を渡したり、いろいろと話して、そして2回目の謝罪文を渡して、
かなり反省している気持ちが伝わりましたと言って下さいました」
「あなたからの嘆願書は?」
「私と彼と生活していくことを考えて、彼は立ち直ろうとしています。
裁判所の方には彼が今後更正していくように努力をしていくつもりですので、ご考慮頂きたく思います」

「今後はどう考えていますか?」
「一緒に生活をして、一緒に働いて、一般的な温かい家庭を作っていきたいと思います」
◇  ◇  ◇
そんな母性たっぷりの交際相手に、次は検察からの証人質問が続く。
「いつから付き合っているのですか?」
「一昨年12月半ば、18日です」
さすが記念日を大事にしたいという女性ならではの習性だ。

「彼が派遣で働きだしたのはいつからですか?」
「12月6日からです」
いや、彼女は少しタイプが違う・・・。

「それまでは何をしていたのですか?」
「いろいろな仕事をしていたと思います」
途端に雑な回答になった。何か隠しているのではないか。

「昨年11月より、あなたが金銭管理をするようになったとありましたが、
それまでの彼のお金の使い方はどんなんだったのですか?」
なかなか鋭い質問だ。

「家賃など支払うべきものは外しますが、残りは小遣いとしてつかい、
月末になるとお金が足りなくなることがあったので、交友費のやりくりが下手だと思いました」
それは金銭管理をされても仕方がない。

これで、検察からの質問が終了となり、
やや呆気なく思ったが、何度のくどくどと質問をするタイプよりはずっといい。

 

燃える涙(中後編)へ続く

燃える涙(前編)

男は酒が飲みたいと思い、それを求めて近くのコンビニに入る。
ビール(発泡酒)を手に持ち、そしてビールの肴としてポテチを選択する。
その時あることに気づいた。
所持金が140円しかなかったことに・・・。
大抵ならビールのみを選択し、ポテチはすんなりと諦めるだろう。

しかし男は考えた。
いや、この男の場合は直ぐに間違った方の答えを出したのかもしれない。

というのも男はビール(発泡酒)をズボンのポケットに入れ、
ポテチのみを清算するためにレジへと向かう。
つまり誘惑に負けたのだ。

そしてポテチ代のみレジを済ませ、悠然と店外へ出ようとした時・・・
店員に声を掛けられて、あえなく御用となったのだ。
何とも格好の悪い話である。
◇  ◇  ◇
男は窃盗の罪に問われ、被告として法廷に現れている。
年は四十を超しており、見た感じは松山千春に似ている。
犯行時交際していた相手が居り、
この日は交際相手から1000円をもらっていたとのことだった。

そして、この交際相手がこの日証人として出廷していることが、
森三中大島似の弁護人から知らされ、直ぐに証人質問へと入った。

「出会ったのはいつごろですか?」
「一昨年の8月のはじめです」
「出会ったきっかけは?」
「病院に入院している時に出会いました」
そんな出会い方もあるんだ。

「普段の被告の人柄はどうですか?」
「温厚で優しくて、自分には親切にしてくれました」
「付き合いだしたきっかけは?」
「病院で知り合った共通の友人とボーリング、カラオケなど交流していく中でです」
確かに内臓以外の病気が原因で入院しているならば案外時間を持て余すのは分かる。

「彼の仕事は?」
「当時は生活保護を受給していました。その後は派遣で勤めたりもしていました」
「アパートを借りていますよね?」
「2人で一緒に生活していくことを考えて」
「誰の名義で借りたのですか?」
「私が借りました」
財力は交際相手の方があるようだ。

「アパートには一緒に住んでいますか?」
「私は未だ実家に住んでいます。実家とアパートを行き来するようになっていました」
通い妻といったところか。

「暮らしてみて彼の人柄はどうですか?」
「以前と変わらず、私に対して優しくて思いやりがあります。
それに友だち思いだと思います」
「具体的には?」
「友だちから身の上相談をされていますし、
私と一緒の時は、先にドアを開けてくれたりとか、そういうところで優しさを感じます」
昭和の香りがした。さすがは千春。

「前科については知っていましたか?」
「付き合いはじめたころから知っていました」
「そのことについてどう思いましたか?」
「それは過去のことなので、彼の人柄を見ていると信じられないところがありました。
そして私と付き合うようになってもう大丈夫かなと思うようになりました」
なかなかの万能感である。

 

燃える涙(中編)へ続く

熱き男の友情(完結編)

いよいよとばかりに冷静極まりない乾燥剤検事が、
ハゲ武者の涙・涙の演出に待ったをかけるべく立ち上がった。

「いつからチチクリ坊やと鉄屑を盗んだりしているのですか?」
いきなり核心を突く質問をぶつけたその時、
―異議あり!! それは盗んだのとは違う!!
その声の主は、ハゲ武者の涙の演出をアシストしたお蔵入り弁護士だ。
「盗んだという表現は誤解を与えかねないので相応しくありません」
と声を荒げるお蔵入りに対して、
「分かりました」
と乾燥剤は意外なほどあっさりと折れたのだった。
おそらく落としどころが違ったのだろう。
* * *
「それでは、町工場の敷地内の鉄屑を盗んだことは?」
この質問の仕方に対して、未だ異議ありげなお蔵入り弁護士であったが、
ぐっと堪えている姿が印象的であった。
そんなお蔵入りの様子を知ってか知らずか、
「ないです」
とあっさり答えるハゲ武者。

「他人のものかもしれないとは思わなかったの?」
「・・・微妙に要らないものだろうという気持ちでやっていました。
おそらく使わないだろうと思って・・・」
「工場の敷地外とは具体的な場所で言うとどこですか?」
「み、溝から外れたところです」
と少し焦るハゲ武者。このまま持ち堪えることができるのか。

「持ち出しはじめたのはいつからですか?」
「1年8ヶ月くらい前からです」
「その頃は廃品回収業を行っていたのではないのですか?」
「はい」
「その時の収入は月にいくらくらいですか?」
「・・・15万円程度です」
「15万円で生活は無理?」
ハゲ武者にとって、我慢の時間が続く。
「ギリギリ・・・何とかいけていましたが」
と渋々答えるハゲ武者。そろそろ討死するかもしれない。

「お兄ちゃんとは1年6か月前から電線を盗っていたの?」
「ちょうど知り合ったころからです」
「電線を盗ったのは何回くらい?」
「8回位です」
「手元に入ったこれまでの分け前の総額は?」
「はっきりとはわかりませんが、・・・50万円程度」
「15万円程度あったのになぜ?」
「手取りは10万円程度しかなかった、鉄屑を合わせて15万円・・・」
ハゲ武者にとって不利な質問がようやく終わって、
ホッとしていた矢先のことだっただけに、支離滅裂な回答となってしまったようだ。

「今後は?」
「もう少し真面目に頑張っていればいけたのにと思います」
「真面目にとは?」
「8時~17時までやれば15万円程度にはなると思います」
「それをやらずに他のことをするのはなぜですか?」
「お金が多少・・・収入がそちらの方がいいと思ったからです」
完全に墓穴を掘ったハゲ武者が、落ち武者になるのも時間の問題か。

「鉄屑を集めた方が多少お金がいいということですか?」
「多少いいですし、それにお客さんと接しなくてもいいので・・・」
「接客は煩わしい?」
「煩わしいというか、ちょっと苦手なところがありまして」
起死回生の一発であった。
なぜかハゲ武者に多少同情をしてしまうのはUNICOだけか。

「こういったことは止めようとは思わなかったの?」
「毎日これでやめようと思っていました」
「なぜやめられなかった?」
「単純に悪いことをしたと思っています」
「なぜ続けたの?」
「誘惑にかられてしまいました」
「誘惑とは?」
「お金を得れるということです」

「今後廃品回収業で頑張りたいの?」
「父にもお願いし、それで会社も一応来て貰ってもいいですよ、
とあったので、またやっていきたいと思っています」
「今後続けていけるのですか?」
「自分としては苦手な部分を克服して、人と接しないといけないと思いました」
ハゲ武者の発言に対して、思わず頑張れと感じてしまった。

「今後チチクリ坊やとは?」
「年上なのに申し訳ないという気持ちもあり、
今後お互い真面目にやっていければと思います」
「申し訳ない気持ちとは?」
「年上なのに窃盗の道に進ませてしまったという気持ちがあります」
「チチクリ坊やとの関係は今後も継続するの?」
「・・・深くは考えていませんでしたが、ともかくお互いが働くことを前提として、
社会復帰できるように、友人関係を続けていきたいと思っています」
ここまで来ると、ハゲ武者のいい人柄ばかりが印象に残る。

「お兄ちゃんとは?」
「付き合うのはやめようかと」
「逃げた後はお兄ちゃんと連絡は取った?」
「お兄ちゃんとは連絡を取っていない」
「終わります」
と言って着席する乾燥剤の表情は動かない。
* * *
続いて裁判長がそれとなく質問をはじめる。
「犯行で使用した軽トラはどうしたの?」
「廃品回収の会社から借りたもので、寝泊まりにも使用していました」
「借りたものを犯罪に使うのは悪いことだとは思わなかったの?」
「思いました」
「それなのになぜ使ったの?」
「お金が欲しかった」
「廃品回収での仕事内容は?」
「いらない扇風機や、TVなどの電化製品を回収する仕事です」
「その時に会社から言われている注意点は何ですか?」
「お客さんには丁寧に接するようにと言われています」
「お客さんのものを勝手に持って行っていいと教えられましたか?」
「言われていません」
「やはり持って行っていいか聞くわけですよね?」
「はい」
「何でもかんでも自分で判断して持っていったらダメですよね?」
「はい」
「鉄屑も一緒ですよね?」
「はい」
「勝手に持って行くのはマズイ話ですよね?」
「はい」
「お父さんがこの仕事は分別が大事だと言っていましたが、
あなたにはその分別がなかったんですよ?」
「はい」
「お父さんが心配する気持ちが分かりませんか?」
「はい」
諭すように語りかける裁判長。

「今後気を付ける点は何ですか?」
「分別を弁えながら真面目にやっていきます」
「楽をして金は稼げないということは分かるよね、
それはみんながしていることですよね、分かりますね?」
「はい」
再び諭す裁判長。

「付き合っている女性とは連絡が取れたの?」
「年末から連絡が取れていません」
「結婚を考えているのならなぜこんなことをしたの?」
「お金が貯まればアパートを借りようと思っていました」
「盗みながらではマズイよね? 廃品回収の会社では何時間くらい働いていたの?」
「昼に3時間くらいです。あとは鉄屑を拾っていました」

「休みは?」
「週に1回位です」
「週に1回の休みでも、1日2、3時間では無理ですよね。
以前に同じ仕事の人の法廷があり言っていましたが、
1日やってもなかなか集まらないと話していました。なぜ1日やれないの?」
「誘惑に負けてしまいました」
「一人だけならまだ分からないではないが、結婚したい相手が居るのに・・・、
どう考えていたの、未来については?」
「これまでずっと悪いことをしながらでしたので、
悪いことをやめてから結婚しようと考えていました」
ハゲ武者のこの言葉を受けて、諭し好きの裁判長のスイッチが入った。

「それで貯金できたとして、新しい家には盗んだもので買ったものがある。
そんな家に住みたいの?」
「いいえ」
「今後2人で居たいならその生活は止めなさい。
そして、どうすれば幸せにやれるかを真面目に考えていきなさい」
「はい」
「またチチクリ坊やとの関係も、一緒に居て悪い気持ちが
おこってくるようならば付き合いを止めなさい」
「はい」

こうして被告人質問が終わる。
* * *
乾燥剤からの求刑。
計画的で手馴れていること、未遂とは言え電線を切断したことで実損もあること。
また働かずに金銭を得ようとしているなど悪質である。
また「ほぐす」「切る」といった行為も犯行には不可欠な重要な役割を担っている。
チチクリ坊やは、前科はないが前歴として自転車窃盗で不起訴となったものがあること、
ハゲ武者は前科1犯前歴2犯で累犯性もあるので、それぞれ懲役1年が妥当である。
ハゲ武者とチチクリ坊やの求刑が同じというのは、些かチチクリ坊やにとっては厳しい現実だ。

よってチチクリ坊やの弁護人が弁論する。
「執行猶予が相当です。これまでに電線の窃盗は7回やっているが、
分け前を見ても従属犯に相当するものであること、犯行後素直に認めていること、
初の身体拘束でもあること、36歳とまだ若く更正は可能なこと、
監督者は居ないが本人は真面目にやるとも言っていること、またそれを誓っていることを勘案して頂きたい。

そして、お蔵入りの弁論。
「従属犯であることが窺えること、これまでの電線はすべて解体、閉鎖工場内で
行われたものであり、また実用性がないものでありその何れもが廃品に近いこと、
自ら出頭していること、前回犯行後12年が経過していることなどから再犯の可能性は低いので、
ぜひ情状酌量をお願いしたい次第です」
と敢えて執行猶予を述べなかった。

最後に被告人の最終陳述。
先発は、チチクリ坊や。
「ないです」
とあっさりと終わる。
そしてハゲ武者が前に出る。
「ご迷惑をお掛けしました。
今後は一所懸命働いて真面目にやっていきたいと考えています・・・」
ここまで来て最後の仕上げ、涙の演出だ。
「・・・・・・本当に、申し訳ないことをしました」
そう言ってうな垂れるハゲ武者。すべてを出し切っている。
説教好きの裁判長に、この熱い思いは届いたのだろうか。
* * *
判決は来る2月6日(水)の予定であり、未だ下っていない。
この事件には特有の難しさがある。人の所有物かそれとも廃品なのか。
裁判所はこれまでは、廃品と見なしているため、窃盗未遂で起訴しているのだ。
ただ罪名には出てきていないが、不法侵入との併合罪となっており、
また廃品であれ、累犯性を予期するものであるため、
すんなりと執行猶予とはいかないのかもしれない。
更に再犯の可能性で言えば、チチクリ坊やには身元引受人の姿がなく、
天涯孤独に近い状態のようであり、再犯の可能性は決して低くない。
ただ極私的な判断として、今回のみ双方ともに懲役1年、執行猶予4年でどうだろうか。
説教好き裁判長!!

熱き男の友情(後編)

チチクリ坊やへの質問が終わり、
次はお蔵入り弁護士からハゲ武者への被告人質問だ。
お蔵入り弁護士は、どうやって前科のあるハゲ武者の社会内更正を立証していくのか。
* * *
「公訴事実に間違いはありませんか?」
「はい」
「今回の犯行は誰に誘われたの?」
「お兄ちゃんです」
「どこの現場に行くのか、どうするのかもお兄ちゃんが指示を出していたの?」
「はい」
未だ逃走中にあるお兄ちゃんに責任をなすりつける作戦のようだ。

「お兄ちゃんには、いつどこで声を掛けられたの?」
「1年6か月程前に○○○(場所)で声を掛けられました」
「お兄ちゃんの名前や住所は?」
「いや、知りません」
「お兄ちゃんもあなたの名前を知らなかったの?」
「はい」
「なぜそれで一緒にやろうと思ったの?」
「深い意味はないが、声を掛けられたので・・・」
そう、しれーっと答えるハゲ武者。
見ず知らずの者から窃盗を持ちかけられて一緒に盗みをやってしまうのか。

「どうやって連絡を取っていたの?」
「お兄ちゃんから週に1回くらいこの場所に来てくれと言われて・・・」
「その次はいつ会おうかと約束するわけですか?」
「まぁ、そうですね」
「今回もそのやり方ですか?」
「はい」
「本件以外もそのやりかたですか?」
「はい」
そんな口約束だけで法を犯すというのは恐ろしい感覚である。
* * *
「今回警察官が来ましたが、その時あなたは逃げることができましたね」
「はい」
「それなのに後日、自分から警察に出頭しましたね?」
「はい」
「どういつもりで出頭したのですか?」
「申し訳ないことをしたと思いまして」
新たな展開である。ハゲ武者は自首をしたというのか。

「その時は、お兄ちゃんと一緒に逃げたのですか?」
「はい」
「ただ調書では、自動車を取りに来たことになっていますが、自分から出頭したんですよね?」
「そのつもりだったのですが、『何しに来たのか』と警察官に聞かれて動揺してしまい、
思わず『自動車を取りに来ました』と言ってしまいました」
恐ろしい言い訳である。
犯行現場に会社の車を置いてきてしまって、翌日困って取りに行っただけだろう。

「自分では自首のつもりだったのですね?」
「はい」
そんなことはまるでお構いなしといった具合に話を進めるお蔵入り弁護士。
ここまで来れば達人の域である。
* * *
「チチクリ坊やと一緒に鉄屑を盗んだことはあるの?」
「はい」
「どんな場所ですか?」
「川沿いとか・・・」
「それはどこかの敷地内ですか?」
「いや敷地の外です」
「落ちている鉄屑を拾ったのですね?」
「はい」
「もしかしたらどこかの会社の人の物かもとは思わなかったのですか?」
「捨てていると思われるものを拾っていましたので、そういったことは考えませんでした」
とシラを切り通すハゲ武者。

「今回みたいに敷地に入ったことはありますか?」
「いいえ」
「今回みたいに敷地の中に入ったのはお兄ちゃんに知り合ってからですか?」
「はい」
正体不明の実態のないお兄ちゃん。
しかし、その悪人像だけはどんどんと膨らんでくる。

「平成12年にも窃盗未遂で捕まって、その時は執行猶予となり、
その猶予期間中は何事もなく過ごしていたわけですが、
その間は何か仕事をしていたのですか?」
「左官をしていました」
「左官は長いのですか?」
「はい」

「現在の廃品回収業はいつからですか?」
「1年8ヶ月ほどです」
「現在住所不定となっていますが、具体的にはどこに住んでいたのですか?」
「今の会社で借りている車の中です」
車で寝泊まりか・・・。
ハゲ武者の荒んだ日常が浮き彫りとなってくる。

「今後はどうするつもりですか?」
「まず勤めていた会社へ謝罪に行きます。そして未だ雇ってくれるのならば続けたいと思います。
それでダメならば建築関係に行きたいと思っています」
「それを接見に来てくれたお父さんにもお願いをしましたね?」
「はい」
「お父さんは廃品回収業以外がいいのではないかと言っていますが、
やはりあなたは廃品がいいの?」
「はい、取りあえず元の会社へ戻りたいと思っています」
何がハゲ武者をそこまで惹きつけているのかは分からない。

「結婚を考えている女性が居るの?」
「はい、一緒に生活をしたいと思っています」
「まじめに考えているの?」
この質問に対して、今まで即答をしていたハゲ武者からの返事がなくなる。
よく見るとハゲ武者は男泣きをはじめていた。
頷いてはいるが言葉が出ないようだ。
「ちゃんと声に出して!」
とハッパを掛けるお蔵入り弁護士。
「・・・・・・考えています」
声にならない声でそう言い切るハゲ武者。
「ちゃんとして上手くいけば結婚したいと考えているの?」
「・・・はい」
「お父さんも今後あなたのことをこれまで以上に注意して見てくれると言っていますが、
それについてはあなたは応えられるの?」
「できます」
こうして、涙、涙の演出を引きしたところで、お蔵入り弁護士は着席した。

 

熱き男の友情(完結編)へ続く。

熱き男の友情(中後編)

ハゲ武者のおやじに対する証人喚問の後は、
ちちくり坊やに対する小次郎弁護士からの被告人質問だ。
これまで半分眠そうな顔をして、戦況を眺めていた小次郎弁護士の出番だ。

「電線を盗んだのは間違いない?」
「間違いない」
と雑に応答するちちくり坊や。

「以前にハゲ武者と鉄屑を盗んだことはあったようですが、それはあなたから誘ったの?」
「ハゲ武者に誘われてやりました・・・やはり生活が苦しかったので」
「氏名不詳者であるお兄ちゃんのことについては?」
「知らない」
「本当に知らないの?」
「本当に知らない」
「なぜお兄ちゃんと一緒にやろうと思ったの?」
「ハゲ武者に紹介して貰ったので」
ハゲ武者の立場がどんどん悪くなる。

「3人で電線を盗んだ回数は何回位ですか?」
「・・・7回位」
「犯行の役割分担を決めたのは誰ですか?」
「お兄ちゃんが決めた」
「あなたは電線をほぐして外側のものを切り取る役割をしていたの?」
「はい」
「分け前は?」
「お兄ちゃんが6割で、あとの4割を自分とハゲ武者で半分半分にしていた」
「分配は誰が決めたの?」
「はじめからお兄ちゃんとハゲ武者で決めていたので分からない」
ここまで聞いて益々お兄ちゃんの存在が気になってくる。

「今回はじめての逮捕、拘留を2か月位かな、入ってみてどうだった?」
「反省している、今後はちゃんと仕事をして生活を改めてやっていきたい」
「具体的には?」
「電気屋や左官などをやっていた知り合いに声を掛けたい」
「一緒にできるの?」
「連絡も取れるし、ちゃんと話し合えばいけると思う」
なかなか刹那的な回答だ。

「家族関係ですが、母とは音信不通、父も物心がついたときから知らない。
ほかに妹が2人、弟が1人いるんですよね? 全く連絡が取れないの?」
「はい」
「身内は居ないが自分を律してちゃんとできるの?」
「できる、自信がある」
「何で自信があるの?」
「ちゃんと仕事をして、ちゃんと話し合っていけるように努力しようと思っている」
と弱気に語るチチクリ坊や。信憑性は薄い。

「今回きちんと反省した? 自由じゃない時間を過ごしてみて分かった?」
「はい」
「終わります」
それでも、質問を終えた小次郎にとっては、上々の仕上がりだったのだろう。
満足げな表情を浮かべている。

次は乾燥剤検事からの質問だ。
「いつから無職なのですか?」
「3年前」
「最後の仕事は?」
「建築での左官」
「収入は?」
「某所へ行って、1日仕事して稼いで、他に鉄やステンレスを盗んで生活をしていた」
「月にどれ位になりましたか?」
「そこまでは考えていなかったが、15万円程度かな・・・」
意外に稼げていることに驚いた。

「その時家はどうしてましたか?」
「3年前は知り合いと一緒に暮らしていた」
「家がなくなったのは?」
「3年前くらい」
3年前にいったい何があったのか?

「それから寝泊まりはどうしていたのですか?」
「ネットカフェや尞に泊まったりしていた」
「家族とは連絡は取れないのですか?」
「はい」
「今後も連絡を取る気はない?」
「はい」
天涯孤独なのか、チチクリ坊や。

「他に相談できる人は居ますか?」
「一応居てますが・・・」
「具体的に誰ですか?」
「昔一緒にいた左官屋の職人」
「困った時はその人に相談をしていたのですか?」
「そこまではいっていない」
「どうしてですか?」
「自分で努力をして何とかなっていたので・・・。鉄を盗ったりしていけるかなと思った」
人とのつながりを頑なに拒んでいるようにも窺える。

「鉄を売ることはいいことだと思っていましたか?」
「悪いとは思っていたが、生活のために・・・」
「そこから抜け出そうとは考えなかったのですか?」
「考えていました」
「具体的にはどうやって?」
「仕事を探して、尞付のものを探してやっていこうと思っていた」
「なぜそれを実行できなかったのですか?」
「鉄の方が直ぐに現金が入ってきて・・・それで出来心で鉄を」
出来心・・・なかなか便利な言葉だ。

「電線を1回売ったらどれくらいになるのですか?」
「良い時で8、9万円からダメな時で2万円」
「鉄と電線ならどちらの方がお金は多く稼げるのですか?
「電線の方が多い」
1回やって9万円稼げることを覚えてしまえば、なかなか真っ当な仕事はできないだろう。

「今後ハゲ武者とは付き合っていくのですか?」
「今後も付き合うとして、考えてちゃんとしていこうと思っている」
「なぜハゲ武者との関係を続けようと思うのですか?」
「友だちだし、ちゃんと話し合って友人として付き合っていきたい」
ハゲ武者との年齢差はひとまわりほどあるが・・・不思議と波長が合うのかもしれない。

「お兄ちゃんとはどうですか?」
「今後は付き合わない」
「今後知り合いに声を掛けていくとのことでしたが、もし上手くいかなかったらどうするのですか?」
「何人かいるので多分いける、一応全員に当たっていくし」
「大丈夫ですか?」
「一杯居るので」

空かさず、ハゲ武者の弁護人であるお蔵入りから質問が入る。
「ハゲ武者とはいつからの付き合いですか?」
「3年くらいの付き合い」
「また盗みをする付き合いにはならないですか?」
「はい、大丈夫です」
「お兄ちゃんのことを知っているの?」
「詳しくは知らないので」
「過去に7箇所くらい行ったと思うがどんなところだった?」
「殆ど解体現場だった」
「何れにしても古くなったもの、使ってなさそうなものを盗んでいた?」
「はい」
「それは誰が決めていたの?」
「お兄ちゃん」
「行先は誰が決めていたの?」
「お兄ちゃん」
やはりお兄ちゃんの存在が大きいようだ。

そして、仕上げに裁判長からの質問がなされた。
「これまでに7回位盗ったのですか?」
「はい」
「これまでの分け前の総額はいくら位ですか?」
「5,60万円」
「これで最後だと思ってくださいね」
「はい」
「これを続けたら次は刑務所に行くことになるので気を付けてくださいね」
「はい」
「これまでは、これくらいはまっいいかと思ったの?
「はい、思っていました」
「悪いこととは思っていたの?」
「悪いことと思っていました」
「当時は仕事を探していたのですか?」
「仕事をしながら探していた」
「これからはどうするの、住む場所もないですがどうするの?」
「○○さんが居る、門真に住んでいるので一応頼ってみようかと思っている」
チチクリ坊やには身元引受人が居らず、また話し方もボソボソとしており、
裁判長の心証は決して良くないはずだ。
チチクリ坊やにとって、初犯であることが唯一の救いだろうか。

 

熱き男の友情(後編)へ続く。